アナーキーで自由、あのジョン・ルーリーの絵画が再び。

Culture 2019.05.01

心の底から浮上する、不条理への皮肉と怒りの絵画。

『ジョン・ルーリー展 Walk this way』

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『お尻みたいな花を咲かせた木、また満開』2018年。以前にも増して透明感あふれる色彩と明快な構図や筆使いには、難病によりすべてを捨てた葛藤の末に、ルーリーが掴んだアナーキーかつ自由な精神のありようが表明されている。

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『ヤギとふたつの墓標』2018年。

 ジョン・ルーリーの絵がまた観られることは、大きな歓びだ。1952年生まれのルーリーは、78年にギタリストのアート・リンゼイらと(本人いわく)フェイク・ジャズバンド「ラウンジ・リザーズ」を結成。ジム・ジャームッシュ監督の映画『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(84年)や『ダウン・バイ・ロー』(86年)で音楽を担当しながら、俳優としても強烈な存在感を示した。しかし90年代、彼はライム病という難病を患い、音楽と映画の世界から姿を消す。長い沈黙を経て2004年に、80年代からバスキアなど同時代の仲間と描いていたが公開はしていなかったドローイングを発表し、画家として再び注目を浴びる。ひとりで好きな時間に手がけられる絵画だけが、彼にとって唯一の自由な表現手段となったのだ。

 日本では2010年に、静かな衝撃を与えた個展以来、9年ぶりの開催となる。現在、生活の大半をカリブ海の島で過ごすルーリーの絵には、植物や動物など彼好みのモチーフがより自然な姿で登場する。桃源郷のように美しく平穏な夢の世界を思わせるが、そこに現れる小動物や人物たちはみな貧相で弱々しく、途方に暮れている。『魂を持たない鳥もいる。だって邪魔になるからね』、『錨を引き上げられない、そして動けない。サンドイッチでも食うか。』……タイトルにぼやかれる言葉には、ルーリーの心の底から泡沫のように浮上した、ままならない世の中と人生の不条理に対する痛切な皮肉や怒りが込められている。

『ジョン・ルーリー展 Walk this way』
会期:開催中~7/7
ワタリウム美術館(東京・外苑前)
11時~19時(水は~21時)
休)月(4/29、5/6は開館) 
一般 ¥1,000 
tel:03-3402-3001 
www.watarium.co.jp

※『フィガロジャポン』6月号より抜粋 

réalisation : CHIE SUMIYOSHI

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