東京国際映画祭から発信!すべての女性へのメッセージ。

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グッチやサンローラン、ボッテガ・ヴェネタ、バレンシアガ、ブシュロンなど名だたるラグジュアリーブランドを擁するケリングが、カンヌ国際映画祭の公式プログラムとしてスタートした「ウーマン・イン・モーション」。その5周年を記念し、東京国際映画祭2019にてトークイベントが開催された。

登壇したのは女優の寺島しのぶ、写真家・映画監督の蜷川実花、アーティストのスプツニ子!。国内外でその才能を発揮して活躍する豪華な顔ぶれが集結した。ファシリテーターを務めたのは、毎年カンヌ国際映画祭に取材で訪れ、「フィガロジャポン」でもおなじみの映画ジャーナリスト、立田敦子。

そんな彼女たちが一堂に会し、自らの経験を通して女性が直面する課題などを語ったその内容は、とても意義深くて刺激的! 当日足を運べなかった方にも、あらゆる立場にいる女性にパワーをくれるトークの内容をお届けしたい。

#MeTooで日本の女性たちの状況は変わった?

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左から、立田敦子、寺島しのぶ、蜷川実花、スプツニ子!。

−−2年前にハリウッドの大物プロデューサーによるセクハラ問題から#MeToo運動が起こり、このムーブメントに乗って女性たちが声を上げはじめ、映画のイベントで女優や女性映画監督が発言をするようになりました。映画界は変わってきているといわれますが、蜷川さんは映画を撮りはじめてから、日本の映画界での女性の立場はどう変わってきていると思いますか。

蜷川 私は33歳の時に『さくらん』(2007年)を撮り、その当時はメディアで女性監督とか女流監督とか、とにかく女流、女流、というのが付いて回って、その度に何となくイラっとしていたんですけど(笑)、今年はそれが付かなかった。そういう意味では緩やかに変わってきたなと思います。それよりも私は蜷川幸雄の娘であるということが重く呪いのようにかかっていて(笑)。今年は(『Diner ダイナー』で)藤原竜也さんとご一緒したので、特にそれを聞かれた年でした。

あと私の組は女性スタッフが多く、特にNetflixのドラマ「Followers」では半数以上が女性。それはすごく珍しかったみたいです。蜷川さんのところの女の子たち楽しそうだねってよく言われるので(笑)、日本の映画界の中ではちょっと特殊な環境なのではないかと思います。

−−意識的に女性スタッフを起用していますか?

蜷川 はい。Netflixの時は、もし選べるのであれば、同じ能力ならなるべく女性を多くしてもらえますか、とお願いしました。『Diner ダイナー』(19年)や『人間失格』(19年)もすごく女性が多かったですけど、それは技師の方が、蜷川組だから女の子を多くしよう、女性連れていってあげたら喜ぶかな、と考えてくれたようですね。

−−寺島さんは蜷川さんの作品にも出演していますが、男性監督ともたくさんお仕事をしていますね。ハリウッドでは、ロザンナ・アークエットが子どもを産んで復帰したら仕事がなかった、ということが理由で『デブラ・ウィンガーを探して』(02年)というドキュメンタリーを撮りました。第一線で活躍する女優たちが子育てや母としての悩みを赤裸々に語る内容が話題になりました。それから15年経ち、ハリウッドではメリル・ストリープやヘレン・ミレン、ジュディ・デンチなど60代、70代の女優が主役を張る作品が出てきましたが、いまの日本の映画界について、女優の立場からはどう思いますか。

寺島 やっぱり女性が圧倒的な主役、という作品は難しいし、数少ないと思います。日本には20代の“カワイイ”文化があって、大人の女性の話はなかなか映画として成立しないのかもしれない。私も子どもを産んでからは、誰かのお母さん役だったり、これが現状なんだなと思いながらやっています。ケイト・ブランシェットさんと対談した時も、女性のための台本が少ないと言っていたし、日本は極端かもしれないけど、全世界でみんなが思っていることなんですよね。

実花ちゃんは中身がすごく女子だけど、私はどちらかというと中身がすごく男子なんです。だから男子が多いほうが好きだし、女子といると緊張する。それはたぶん歌舞伎界という周りを見渡せばほぼ男子、みたいなところで育っているから、その環境の影響だと思います。いま現場では技師にも女性が増えてきて、女性の照明やカメラマンもいる。男か女かのくくりでなく、すごく男っぽい男の人もいればフェミニンな男の人もいるし、女性の心を持った男性も、男性の心を持った女性もいて、どの性別でもみんなが一緒になって作品を作れば、より感性が広がるなと思います。女性として、とか言われるとかゆい(笑)

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『キャタピラー』(2010年)で日本人として35年ぶりにベルリン国際映画祭 最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞したほか、数々の舞台や映画でその才能を絶賛される寺島しのぶ。撮影:渡部孝弘/提供:ホリプロ

−−スプツニ子!さんは映画からは少し離れたアート界にいますが、今年はカンヌ国際映画祭での「ウーマン・イン・モーション」でハリウッドの俳優たちの生のトークを聞きましたね。ご自身の立場から、いまの映画界の変化についてどう思っていますか。

スプツニ子!  変化という意味では、#MeTooムーブメントの発端は映画でしたが、ここ2年くらいでどの業界でも女性が声を上げられる雰囲気ができてきた気がします。いままでいろんな嫌なことを言われてきた歴史があると思うんです。困ったり、ハラスメントを受けたりしても誰にも言えなかった。テレビやラジオ、雑誌のようなメインストリームメディアしか発信ができなかったけれど、いまではソーシャルメディアで誰でも発信ができて、女性が抱え込んできた声が表に出てきたなという変化を感じます。

寺島さんの話に繋がるんですけど、映画業界はまだやっぱり監督も脚本家も男性が多い。人口の半分が女の人なのに、女性から見た世界とか、女性の気持ちの動きがしっかりストーリー化されてこなかったと思うんです。人口の半分の人たちが当たり前に見てきた世界をただ描いているだけで“女流”って付けたがるのは、それが珍しかっただけ。

蜷川 自分の中の女性性に目を向けることが圧倒的な個性になっちゃうんですよね。この現状がどうなのかということは大前提としてありますが、女性性と向き合いながら作ると作品としてもキャラが立つというか(笑)。なぜならほかにいないから。

スプツニ子!   これまでの映画で女性がお母さんとか、すごい性的な対象、という描かれ方をしてきたのと違って、私たちの気持ちを代弁してくれている! リアルな女性のキャラクターがいる!って思うんです。

蜷川 ヒロイン像って圧倒的に男性たちが作り上げてきた妄想じゃないですか。でも私の現場では逆転していて、カッコいい男の子たちにヒロイン的な役割を担ってもらっていることが多いんです。役者の子たちは「ここ気持ち繋がらないんですけど」って言うけど、女の子なんて永遠に気持ち繋がらない中でやってきたじゃないですか(笑)。男の子たちは気持ちが繋がるとか、僕たちの人格はどうなのか、ということを演じる時に求める。でも女優さんにそんなこと言われたことはない。“夢の女”を演じることが当たり前になっている。

寺島 実花ちゃんの映画では、美的なところがありつつ、ジッパーを開けるとグロいものがどーっと出てくる。そういった作品はいままでなかった。それでいて決してグロすぎない、そこのバランスがアーティスティックだなと思います。日本では男性は美化したがるところがあるし、女性は撮れない、っていう監督はたくさんいらっしゃいますよね。

−−男性の夢の女を演じることも嫌ではない?

寺島 そこは私の分野じゃないの。綺麗な人がやればいいの(笑)。ご一緒した中で廣木(隆一)監督は唯一、女性をわかっていると思う。すごく女性が好きだし、ちゃんと女性の嫌な部分も見抜いてそのまま撮ってくれる。女性を撮るのがピカイチな監督だと個人的に思っています。

スプツニ子!  物語を語る側にこれまで女性が少なかった。以前アーティストの先輩の男性に、アドバイスがあると言われて。君はすごく才能があるけど、本当に大成したかったら女性というテーマだけじゃなくて、そこから出た方がいいよ、って言われたんです。最初はなるほど、と思ったんですけど、よく考えてみると女の人から見た世界を描いただけで勝手に「女性的」ってラベル付けられて、ひとつの小さいカテゴリに入れられてて。私のやっていることって人間として全員に通じる話で、ニッチじゃないよ、と思って。単にこれまであなたたちがずっと男性の視点でやってただけじゃない、と。

蜷川 「女流監督」とか言われていた頃、女性だから大変でしたよね、とすごくその答えを求められた時期があるんです。もちろん監督は大変ですけど、女だから現場で大変だったみたいなことは、私はたぶんギリギリなかった世代。自覚がないだけなのかな。

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木村伊兵衛写真賞を受賞するなど写真家として活躍するのみならず、映画『さくらん』(07年)、『ダイナー』(19年)など監督として数多くの映像作品も手がける蜷川実花。

−−レバノン出身の女性監督ナディーン・ラバキーも、女性だからではなく、映画を撮ること自体が大変だと言っていました。

蜷川 そのとおりだと思います。特に最初の2本(『さくらん』と『ヘルタースケルター』(12年))は、内容も重かったし、自分も不慣れだから、女だからこんな失礼なことをされた、なんて思う間もないくらい大変でした(笑)

−−写真家としてデビューした時にも「ガーリー写真」と言われていて。

蜷川 そっちのほうがしんどかった。当時若かったので、女の子ということにそんなに商品価値があるのかとびっくりしたんです。自分のことを美大生と思っていたら、テレビの取材で女子大生って言われて、私は女子大生だったんだ、って(笑)

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撮影現場で“母である”ことはとても難しい。

−−蜷川さんの現場の女性スタッフは生き生きしている、と言われる理由は何だと思いますか。

蜷川 当たり前のことですが、好きな格好をしてきていいんです。噂によるとほかの現場では、地味な服を着てきなさいと言われたり、ネイルを塗っているだけで怒られたりするらしくて。塗ってなければ仕事が100倍早いならいいけれど(笑)、少しも合理的ではないので、本人の気持ちがウキウキすることだったら何でもやって!と。それから、この前ヘアカラー材を差し入れしたら、撮休明けにはみんないろんな色の髪になっていました(笑)。男の子ももちろん大事ですが、女の子に優しくするのが好きなんです。

しのぶさんが言っていた男性といる楽さもわかる。どっちかじゃないといけない、ということはないですね。ただどうしても現場では状況的に、お母さんであるということがすごく大変なんです。だからうちの組では土日は子どもを連れてきていいよ、とか、次はできれば保育士さんを入れて預けられるシステムを作ってから現場に入りたいと思っていて。物理的なサポートができることは、せめてうちの組ではできるようにするのが自分の役割かなと思っています。

−−蜷川さんと寺島さんはご自身もお母さんですが、どのように子育てと過酷な撮影を両立していますか?

蜷川 大変だよね(笑)。さっきも地獄の沙汰だよねって話をしてたんです。

寺島 もう妥協していくしかない。

蜷川 妥協の連続。

寺島 目の前にあることをやっていくしかないよね。

蜷川 降りてくるのを待つ時間なんかないので。空いたらそこでやるしかないですね。

寺島 このピンポイントの時間でセリフを覚えないと絶対間に合わない、とか、とにかく追われている。子どもがいなかった時はセリフを覚えるタイミングとか、役について考える時間がやってくるのを待っていたところがあるじゃないですか。

蜷川 次はどんな映画にしようかなとか、きた! いま考えよう! みたいな(笑)。いまは、はい、ここで30分空いた、ここで考えましょう、という感じ。泣けますよね。

スプツニ子! でもそんな中でもバンバン創作していて、クオリティ的にはすばらしくて。

蜷川 自分だけの時間を持ってクリエイションできる人たちはすごく眩しいし、それはもしかしたら自分にもあったかもしれない選択。生活のすべてをクリエイションだけに賭けている人とどう戦ったらいいのかとは常に思いますね。物理的には本当に諦めの連続だし、それがある種のストレスや枷になって、高く飛べる時もあるけれど、逆に言えば高く飛べるように、自分で頑張るしかない。

寺島 降りてきた、いまだ!っていう時に「お母さん! 見て見て!」って言われるとね。あとちょっとで捕まえられそうだったのに!っていう(笑)

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男女の立場が逆転すると女性が活躍できる!?

スプツニ子! 私は子どもがいなくて、今年34歳で、仕事大好き!クリエイション大好き!やりたいこといっぱいある!っていう時期に、もちろん子どもや家族に憧れはあるけれど、怖くて踏み切れないというのが、自分を含め同世代の女性の多くが感じていることだと思います。

蜷川 現状では、稼いで料理代行、家事代行を雇うしかないですね(笑)。それがいちばん手っ取り早い。

−−スプツニ子!さんはまだ出産に踏み切れないということで最近あることをしたんですよね。

スプツニ子! 私、卵子をどっさり凍結したんですよ。

寺島 さっき、絶対凍結したほうがいいよ、って言ったら、しました!って(笑)

−−しなければならなかったということは、やはりアーティスト活動に出産が影響を与えると思うからですよね。

スプツニ子! 30代前半から後半という、いちばん仕事が楽しい時期と、女性の妊娠・出産タイミングは丸被りなんです。人類はテクノロジーやサイエンスでいろんな課題を解決してきたのに、妊娠・出産だけは野放し。卵子凍結も本当はもっと早くからみんなやっていいのに。私はアーティストとしても妊娠・出産の概念とかタイムリミットを変えたくて。

蜷川 私、産む3日前まで撮影してたんです。そして1カ月後には現場に戻ってました。そう考えるとロスした時間は少ないけど、それよりも妊娠期間の10カ月ってすごくぼんやりして頭が働かなくなる。電気が1個1個消えていくみたいにぼやっとしていく。産んでからも子どもが2〜3歳になるまでは母親脳になっていて、物理的に動けるか動けないかより、クリエイションにシャープになれない。

寺島 おっぱい作ってることがクリエイションだもんね。

蜷川 食べ物である、っていう状態(笑)。産むために休むという以外に、その時間のロスが実はある。そこが研究されていってほしいですね。

スプツニ子! 代理出産って倫理的によくないともいわれるけど、男の人って古来から女の人に代理で産んでもらっているじゃないですか。「僕の子どもを産んでください」って。どうして私も代理で産んでもらえないのかと思ってしまうけど(笑)、おふたりは子どもを育てながらクリエイションをしている、カッコいいロールモデルだと思って見ています。

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新たなテクノロジーが内包するジェンダー問題を追究し、世界経済フォーラム「ヤング・グローバル・リーダーズ」にも選出されているアーティスト、スプツニ子!。撮影:Mami Arai

−−寺島さんは昔から子どもがほしかったですか?

寺島 結婚相手ができて、ほしいなと思いましたが、それまでは子どもという存在を可愛いと思ったことがなかったんです。だから自分の子どもがほしいと思った時、あ、違う自分になった、と思った。産んだ後は息子と同じ幼稚園の子どもたちが可愛くてしょうがなくなって。ホルモンバランスが変わるし、考え方も変わって、子どもに邪魔されたり時間がない中でクリエイトしないといけないけど、でも子育てがクリエイトするもののためになっている部分もある。どんなパートナーと一緒にいるかということも大事ですね。

−−稼いで人を雇う、という話も出ましたが、経済的にそこまで余裕のない若いスタッフにはどんなアドバイスをしていますか?

蜷川 現場に若い女性たちはいるのに女性の技師さんがとても少なくて、どうしてなのか調査したら、それこそ技師になるタイミングと、子どもを産めるか産めないかのタイミングが丸被りなんですよね。現実的には産んだら現場に戻れないので、みんな諦めちゃう。奇跡的に技師を続けている子たちや、子どもがいて働いている人を調査したら、みんな旦那さんがヒモだったんです(笑)。ヒモという言葉は悪いですけど、受けを狙いましたけど(笑)通常でいう男女の立場が逆転している家庭では成立していましたね。奥さんが稼いで、旦那さんが子どものお迎えに行ったり、家のことができる状態の方でした。

スプツニ子! 最高だと思います。

蜷川 現実的にはそうするか、めちゃくちゃ稼いで家事代行をお願いするかしかない。だから息子にはすごく教育しています。洗い物しなさいとか、ごはん作れない男はダメだぞ、とか。

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生まれ育った環境にはとても影響力がある。

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歌舞伎界で生まれ育った自身のルーツを語る寺島しのぶ。

−−教育の問題もぜひ伺いたいです。かつてフランスの哲学者のシモーヌ・ド・ボーヴォワールは、人は女に生まれるのではなく、女になる、つまり女とはこういうものだと後で教育されるのだと言っています。昨年の「ウーマン・イン・モーション」でハリウッド女優のエミリア・クラークが、母が働いている環境で育ったから、自分の家庭の中では男女が不平等という感覚があまりなかった、と発言しました。彼女は「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズで大ブレイクしましたが、この作品も男女のギャラが同じという珍しいケースでした。みなさんはご自身が育ってきた環境は、自分のジェンダー、価値観にどんな影響を与えていると思いますか?

寺島 子どもにとって環境がすべてのような気がしてならないんですよね。少なくとも私はそうでした。弟が生まれて、みんな男の子が生まれることを望んでいたんだ、と5歳の時に知った。でも私は歌舞伎を観て育ったし、表現することが好きだし、どうしたらいいんだろう、って悶々として。弟と一緒に歌舞伎役者になるためのお稽古事を全部やってましたが、弟が初舞台を踏んだ時にすべてやめたんです。それはある意味での反発だったし、そういうコンプレックスが積もり積もって女優になれたと思っています。

忘れもしない19歳の時、蜷川幸雄さんの舞台『血の婚礼』(1993年)の主役に抜擢されて。その稽古場で「コンプレックスの塊だな」と言われたんです。どこを見てそう思ったのかわからないけれど、本当に生意気だし、言ってることもツンツンしているけど、だったらそういうことを言ってもいいくらい技術を身に付けろ、と。そのコンプレックスはいつか絶対いいものになる、お前の育ってきた環境は変えられないものだから、いつか見返してやれ、って19歳の時に言ってくださったのを、いまのいままで心に留めてやってきています。そう言ってくれたのは蜷川さんだけだから、すごく救われたし感謝しています。

蜷川 うちはガラパゴスみたいで、それこそ母のほうが女優として稼いでいたので、0〜5歳の頃は私、父に育てられているんです。その時に「男を通じてしか社会と繋がれない女になるな」「いつでも男を捨てられるような女になりなさい」と、要するに経済的にも精神的にも自立した女であれ、と小さい時から言われ続けて(笑)。だから女性が働くのも、男性が家事をするのも当たり前でした。父はすごく真面目に育児をやりすぎて育児ノイローゼの診断書をもらったくらいなんです。ミルクも私たちならだいたい人肌だね、なんてやるのに、ちゃんと温度を測って。そういう家庭環境があったから、男女が平等ではないことをあまり感じないで育ち、「女子大生カメラマン」と言われた時にはすごくびっくりしました。

スプツニ子! 私は両親とも数学の教授で研究者で、共働きでした。でも母親の時代は女性が数学の勉強をすることを反対されていたらしくて。私はこうして好きな仕事ができて、日本とイギリスの両方で女性の置かれた状況をクリアに見ることができて、恵まれているなと思います。イギリスと日本では女の人の態度や謙虚さが全然違う。医大が受験で女性を制限したり、この時代に!?と思う。私がたまたまラッキーなだけで、本当はできるのにそういう状況にない女性がきっとたくさんいるんだと思うと、何とかしたいっていう気持ちになるんです。

蜷川 そのことに慣れすぎているというか、疑問を持たない状態になっていることもすごく問題だと思う。やっぱり家庭環境は重要だなって思います。女性は男性より3歩下がっていたほうがモテるけど(笑)、それはあなたの人生ではないよ、と。男性に依存する人生っていうのはすごく危険でもあるので。

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蜷川実花の語るエピソードから、蜷川幸雄氏が子育てをする男性の先駆的な存在だった一面が伺える。

−−蜷川さんと寺島さんはお母さんでもありますが、子どもに男女平等ということを認識させるうえで気をつけていることはありますか。

蜷川 うちの子はあらためて言うまでもなく、当たり前のように強い女性が好きなんですよね。小さい頃からよく仕事場に連れていって、見せられる仕事場では一緒にいるようにしていたので、私がどういうふうに外で働いて、どういう時間を削って家のことやっていて、どんなに大変な思いをして僕といるのか、ってわかるようにしていて。働いている背中を見せる(笑)みたいなことはしています。

寺島 ほぼ同じですね。主人の仕事も見せるし、私の仕事も見てもらう。7歳くらいになるともうごまかしがきかなくて、私たちが勝手に先回りしてこうしたらうまくいくかな、と思うことも絶対うまくいかないから、全部正直に話したほうが彼も納得します。その信頼関係というか、常に私はあなたに注目していますよ、どんなに離れている時でも見ていますよ、という、見えない糸が繋がっていれば子どもは育っていくのだと思います。

それから、とにかくたくさんの人に会わせたいと思います。いろんな価値観があって、親が絶対正しいわけじゃないから。あと主人はフランス人だから、女性に優しくあれ、とすごく教育しています。幼稚園では女の先生に公園で花を摘んであげたりしていたらしくて(笑)、そういう女性の喜ばせかたとか、エレベーターでも日本人の男性だったら先に出るところを、女性を先に出させてあげるとか、そうしたことが普通になじんでいくのはいいなと思って。

蜷川 私もすごくやってもらってる(笑)。荷物持ってもらったり。

寺島 実花ちゃんのお子さんもうちの息子も、絶対強い女性を選ぶと思いますね。やっぱりお母さん像って強烈だと思うんだよね。

−−保育園や学校に行った時に、自分は育てられ方が違うんだな、という感覚がお子さんたちにもあると思いますか?

蜷川 小学校受験の面接ではお父さんが先に入らなければいけないとか、常に3歩下がった妻を演じなければいけないんですよね。そういう世界観だから、やっぱり入学してからお母さんたちと話していても、悪いというわけではないけど、だいぶ違うなと思いました。

衝撃的だったのが、ママ友たちが名刺を作っていて、自分の名前がなくて「○○ちゃんママ」って書いてあったこと。挨拶するときも、○○の母でございます、と。お母さんである、ということが当たり前のカルチャーがいまだにある。私たちがいるのは独特な世界で、現状の日本の女性がどう過ごしているかというところからあまりに遠いから、そういう意味で学校のお母さんたちと触れ合うのは衝撃の連続ですが、おもしろいですね。

寺島 子どもって意外と順応していけるし、どこでもうまくやってきますが、親のほうが拒絶反応を起こしてしまうんです。やっぱり自分がいるのは独特の世界なんだなと感じます。でも主人はそこで頑なに反発する。何で全員紺の服を着なければならないんだ、おかしいだろう!?とか。私もおかしいと思ってはいても、いまはここに住んでいるんだからやるべきだよね、って言うんだけど、そこから議論が始まるんです。フランス語をペラペラ話せるわけじゃないから、何とかわかってもらうか、その場にいないようにしてもらう(笑)

蜷川 何でこうしないといけないんだろう、って思うことは確かにあります。学校のことも、映画界のいくつかのことも。でもそこで突っかかっていたら進めないから、いいや、ネイビーで、って(笑)。コスプレだと思って楽しむことによって、自分を騙しながら前に進むしかない。おもしろおかしくチャンネルを変えていくことで、飛び越えていく癖が女性には身についているのかもしれないですね。

−−スプツニ子!さんにはこういう話は衝撃的ではないですか。

スプツニ子! すごくおもしろい。でもうちも母がイギリス人で、私、中学校は日本のインターナショナルスクールに通っていて、みんなすごく綺麗なお弁当を持ってくるんだけど、母が作るのはピーナッツバターサンドウィッチにリンゴとかだったんです。「みんな豪華なお弁当持ってきてるだろうけど、私は大学でバリバリ教えてて超かっこいいお母さんなんだからうれしいと思いなさい!」って言われて(笑)。うちのお母さんは忙しいからって思いながらピーナッツバターサンドウィッチ食べてました。

寺島 でもほかの子のお弁当を見ても平気だったってことは、ちゃんとお母さんと繋がっていたんだね。

スプツニ子! もし親が自信なさげだったり罪悪感を持って言ったりすると、子どもは察知するのかもしれない。でもあれだけ自信たっぷりに言われると、カッコいい!って思っちゃうんですよね(笑)

蜷川 手作りが尊い、という文化が日本にはすごくあるから、私もついそれに負けてお弁当手作りしちゃうんです。買ってきたものを詰めたり、それこそピーナッツバターサンドウィッチでもいいのに、その洗脳が解けていなくて、卵とか焼くし(笑)。ちゃんとやっているっていうことが免罪符みたいになっていて、自己満足のためにやっている手作り観は自分の中にもある。これはたぶん日本人のスピリットだね(笑)。私はすごい合理主義者のはずなのにそこからは抜けられない。

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「お弁当はピーナッツバターサンドウィッチだったけど身長175cmになりました(笑)」と話すスプツニ子!

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女性たちがさらに活躍できるように。

−−#MeTooムーブメントが生まれてから2年経ち、世界的にも変わりつつある中で、日本ではこれからどんなことをしていけば、女性がより活躍できるでしょうか。

スプツニ子! 長い道のりだと思いますが、まずソーシャルメディアで連帯できるということがひとつのステップ。たとえば10年前ならテレビをつけても可愛くてばかっぽい女の子像ばっかりだったのが、インターネットを通して、もっと複雑な女性像にたくさん出合える。それは映画だけじゃなく、作家やインフルエンサーもいて、女性が勇気を持ちやすい時代なのは確か。女性の映画監督や脚本家、技師が増えれば、若い世代がもっと入りやすくなると思います。

あと男性の教育も大事。最近も確定申告をちゃんとやってなくて話題になった人が「結婚しろ」って言われてて、妻をなんだと思っているんだろう、妻は税理士じゃなくて妻の人生があるのに、って思いました。男性が女性にサポートしてもらって当たり前、という風潮をなくさないといけない。だから女性が勇気を持つことと、男性が変わっていくことの両方が大事じゃないかなと思います。

蜷川 大人の女性は楽しいよ、ということを大々的に勇気を持って宣伝しようと思っています(笑)。お母さんだからこうしなければいけないとか、大人なんだからそんな格好するのやめなさい、なんて、まったくもってナンセンス。大人の女性の物語がない、という話が出ましたが、そういう意味でいまNetflixでやっている「Followers」は40代女性がめちゃくちゃ暴れまくる話なんです。

まず私は自分自身が楽しいし、自主規制しなくてはいけないことなんかないし、好きな服を着て、誰と恋愛したっていい、とちゃんと伝えようって思っています。そして、そういうことを描いた物語を紡ぎ続けたい。写真ももちろんですが、映像作品を作る時は、いつも観に来た女性が、映画館を出た時に肩で風切って歩けるようなものにしたいと思っています。どんな物語でも、来た時よりも帰りが早足になるような、そんな感情を残せたら。あとは息子の教育(笑)

寺島 どんな人間がいたって、この地球に生きているかぎり、それぞれの個性があっていいわけです。女性だろうが男性だろうが、全員が人間だから、いいものができたらそれでいい。だからいまふたりが言ったように、自分でちゃんと主張していく力をそれぞれが身に付けて変わっていく、恥ずかしいと思わず発言するくらいの我を持って生きていけば変わっていくのでは、と望んでいます。女優としては、もっともっとひとりのキャラクターを突き詰めて、多面性のある女性を演じたい、深めていきたいと思っています。

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素敵なメッセージを届けてくれた3人の、今後の活躍にも期待したい!

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