ソフィア・コッポラ、話題の新作について語る。

インタビュー

「女性の地位向上」の大きな波が荒れ狂う映画界で、最も成功している女性監督のひとりであるソフィア・コッポラ。第70回カンヌ国際映画際で女性としてはふたり目となる監督賞を受賞し、新たな歴史をつくったが、その新作『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』の公開を前に来日した。女性の視点を武器にキャリアを切り開いてきた人気監督に、新作の話、キャリアの話などを語ってもらった。

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来日したソフィア・コッポラ監督。

−−新作『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』は、1971年のドン・シーゲル監督×クリント・イーストウッド主演の『白い肌の異常な夜』と同じトーマス・カリナンの小説が原作ですね。映画を最初に観たのですか? 小説を読んだのが先ですか?

「プロダクション・デザイナーのアン・ロスが、5年くらい前に……『ブリングリング』(2013年)の仕事を一緒にしている時に、“これって、あなたっぽい物語よね”って言ったの。それで、映画(ドン・シーゲル版)を観たんだけど、本当に、そうかもねって思ったわ。これを女性の視点で描いたら面白いんじゃないか、って。

それで、原作の小説を読んだの。面白いと思ったわ。パルプ・フィクション(大衆文学)で、シリアスな小説じゃないの。小説はキャラクターを作り上げるのにとても役に立ったわ」

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左から、マーサ・ファーンズワース女子学園の若き教師エドウィナを演じるキルスティン・ダンスト、生徒のアリシア役エル・ファニング、園長のマーサ役ニコール・キッドマン、傷を負って学園に運び込まれた北軍兵士マクバニーを演じるコリン・ファレル。

−−すでに有名な監督と俳優が映画化していることは気になりませんでしたか?

「日本ではドン・シーゲル版は有名なの?」

−−ご存じのように日本にはイーストウッドの熱狂的なファンもたくさんいますからね!

「そうなの? 興味深いわね! アメリカではあの作品はそんなに知られていないの。だから、まったく気にならなかったわ」

−−南北戦争下、女だけの館にひとりの兵士が負傷して運び込まれる……。設定がすでにソフィア・コッポラっぽいですね。

「仕事をする時は、いつも何か自分の枠を押し広げられるものにしようと思っているの。居心地のいいところに留まるのではなく、新しいものにチャレンジしたい。今回は、スリラーに挑戦したの。そういったジャンルの映画は撮ったことがなかったから。それも“サザン・ゴシック”と呼ばれるようなものにしたかった」

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男子禁制の学園で暮らしていた女性たちは、次第にマクバニーに惹かれていく。

−−ルイジアナ州で撮影したんですよね。

「そう。アメリカの南部には独特の雰囲気があるの。陰鬱でダークで。私が育ったカリフォルニアやニューヨークとはまったく違ったカルチャーよ。エキゾティックな感じね。それに“南部美人”と呼ばれるように女性たちも礼儀正しく、独特の優雅さがあるの」

−−実際に、南部の土地にはインスパイアされましたか?

「ええ、とても。女たちが暮らすあの館は、実際にあるプランテーションよ。撮影期間が26日とタイトだったから大変だったけれど、とても心地よい撮影だったわ」

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これまで多くのソフィア作品に携わってきたアン・ロスがプロダクション・デザインを担当。ソフィアとともに時代考証をすることからスタートしたという。

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>>常連のキルスティンから初登場のニコールまで、豪華なキャスト。

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常連のキルスティンから初登場のニコールまで、豪華なキャスト。

−−館で暮らす7人の女性は、素晴らしい女優たちが揃いましたね。常連のキルスティン・ダンスト、『SOMEWHERE』(2010年)のエル・ファニング。ニコール・キッドマンとは初めての仕事ですね。キャスティングの核となったのは誰ですか?

「最初に決めたのはキルスティンね。彼女とは『ヴァージン・スーサイズ』(1999年)や『マリー・アントワネット』(06年)で一緒に仕事をしていて、とても信頼しているの。彼女にエドウィナを演じてもらいたいと最初から思ったわ。

エドウィナは、生真面目で抑圧された30歳くらいの教師で、結婚をしたがっている。キルスティン自身は、まったく違った自由でおおらかな性格だから、正反対のキャラクターをどんなふうに演じるのか見てみたかった。アリシアも小悪魔的だけど、実際のエルはとてもいい子よ」

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キルスティン・ダンストは、『ヴァージン・スーサイズ』(99年)、『マリー・アントワネット』(06年)、『ブリングリング』(13年)に続き、これがソフィア・コッポラ作品4作目となる。

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エル・ファニングはソフィア・コッポラ監督『SOMEWHERE』(10年)に主演、放送映画批評家協会賞にノミネートされた。

−−7人のキャラクターは、女性という複雑な存在のそれぞれ違った面を表現しているようにも見えますね。

「そう考えてつくったわけじゃないけど。面白いわね。確かにそうかもしれない」

−−なかでもニコール・キッドマン演じる女学院の園長マーサは成熟した大人の女性で、あなたのこれまでの作品には登場しなかったタイプです。

「マーサは、子どもたちを守らなければいけないと思う半面、久々に生身の男性の身体に触れて動揺もする。彼と恋に落ちる年齢でもないけど、彼の態度に嫉妬もするの。私も彼女と同じような年齢になってきたので、マーサの気持ちもわかるわ」

−−ニコールは、どのようにキャスティングしたんですか?

「好きな女優で、いつかは一緒に仕事してみたいと思っていたの。脚本を書いている時から彼女が念頭にあったわ。で、ロンドンで会って話をして……。彼女は実際に母親でもあるけど、母性的な人で現場でも母親のように子どもたちに接していたわ。休みの時はみんなで出かけたりして、楽しい撮影だった」

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ソフィアは、ニコール・キッドマンがマーサ役を「威厳を持って演じてくれた」と絶賛。

ーー女性心理を突いた作品ですが、男性観客たちは、このような女性のちょっと恐ろしい一面を見せられどう反応したのでしょうか?

「男性の批評家も気に入ってくれた人が多いと思うけど。でも、面白かったのは、父(*1)がこの作品を好きだと言ってくれたことよ。あんなにマッチョな人なのに(笑)」

*1 映画監督のフランシス・フォード・コッポラ

−−チャレンジといえば、今回はこれまでとは違い、ポップスではなく、電子音のような音楽を使っていましたね。

「ええ。夫のトーマス(・マーズ)と彼のバンド(フェニックス)が今回も音楽に携ってくれたんだけど、彼と話をして決めたの。サウンドトラックを聴いて楽しい、と思えるような音楽ではなく、スリラーのテンションを保つために効果的な電子系の音を使うことにしたの。森の中の館だから、自然の音とか遠くで聞こえる大砲の音とか、そういった静寂の中で聞こえてくる音を大切にしたいと思ったの」

−−この作品は、女性の心理描写などあなたらしさもありますが、確かにこれまでの作品とは一線を画していますね。しかも、カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞。おめでとうございます! 女性監督としてはふたり目の快挙。

「ありがとう。ほっとしたわ。映画祭は賞が欲しいというより何より、初めて新しい作品を見せる場だから、いつもナーバスになってしまうの」

−−監督賞も素晴らしいですが、カンヌではお父さまのフランシスは、最高賞のパルム・ドールを受賞していますね。それも2度も!(*2

「つくりたいものをつくっているだけだから、受賞するかどうかは二の次ね。カンヌは、子どものころから父と一緒に来ていたの。それに最初の映画(『ヴァージン・スーサイズ』(99年))を上映した映画祭でもあるわ。もちろん、ヴェネツィア国際映画祭もグラマラスよ。カンヌとはいろいろと違うけど。

*2『カンバセーション 盗聴』(73年)、『地獄の黙示録』(79年)

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電灯照明が導入される10年以上前という設定のため、多くのシーンで自然光を活用。夜のシーンではロウソクの光が印象的だ。

−−14年にはコンペティション部門の審査員も経験していますよね。

「とても面白い経験だったわ。たくさん映画を観て、みんなと映画について話し合う。ジェーン・カンピオンが審査員長だったのだけど楽しかった」

−−ジェーン・カンピオンと仲良くなったのですね。いま映画界ではダイバーシティ問題や女性の地位向上についていわれていますが、ジェーン・カンピオンこそ、『ピアノ・レッスン』(93年)がカンヌ国際映画祭で女性として初めてパルム・ドールを受賞した監督ですね。

「ジェーンが言っていたのだけど、大事なのは助け合うこと」

−−監督として成功しているあなたでも、ここまで来るまで、女性であることで大変なことはありましたか?

「いろいろあるわ。いまでも“ノー”と言われることもたくさんある。でも、大事なのは、決して諦めないこと。何を言われてもへこまないこと。自分のやりたいことを信じて。私は、頑固なのでそこは譲らないわ」

−−名監督である父から受け継いだものは?

「頑固なところね(笑)。周りの人に何を言われようと最後までやり抜く意志の強さは似ているわ」

−−娘さんたちも映画監督か、クリエイターになってほしいですか?

「いいえ、特には。でも、彼女たちがやりたいのなら。私も10代から好きなことをいろいろやったから」

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Sofia Coppola
1971年アメリカ生まれ。短編映画『Lick the Star』(原題)で脚本と監督を手がけたあと、『ヴァージン・スーサイズ』で長編映画監督デビュー。続く『ロスト・イン・トランスレーション』でアカデミー賞の脚本賞を受賞し、監督賞と作品賞にノミネート。脚本・監督を務めた長編第3作目『マリー・アントワネット』ではプロデューサーも務めた。『SOMEWHERE』では2010年ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞の栄冠に輝く。『ブリングリング』はカンヌ国際映画祭でプレミア上映され、ソフィア・コッポラはウーマン・イン・フィルム・クリスタル・アンド・ルーシー賞のドロシー・アーズナー・ディレクターズ・アワードを受賞。本作で2017年カンヌ国際映画祭の監督賞を女性としては56年ぶりに受賞。

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『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』
●監督・脚本・製作/ソフィア・コッポラ
●2017年、アメリカ映画
●93分
●提供:東北新社
●配給:アスミック・エース、STAR CHANNEL MOVIES
2月23日(金)より、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほかにて全国公開。
©2017 Focus Features LLC. All Rights Reserved.
http://beguiled.jp

interview et texte : ATSUKO TATSUTA

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