attitude クリエイターの言葉
SNSへの風刺を忍ばせて、巨匠たちの投稿を創造する。
インタビュー
ジャン=フィリップ・デローム|イラストレーター
独特なタッチのイラストでモード界でも長らく活躍中のフランス人アーティスト、ジャン=フィリップ・デローム。その鋭い洞察力とウィットに富んだユーモアセンスを、フルに生かした新しい本が刊行された。インスタグラムを題材にしたこの新刊に登場するのは、ゴーギャンやゴッホ、ピカソにモンドリアンなど、20世紀初頭を飾った巨匠たちだ。
「いま、世の中の人たちはインスタグラムに夢中だよね。まあ、僕もやっているんだけど。現在でも強い影響力を持つ、アート界のマスターたちが活動していた時代にインスタグラムがあったら? とイマジネーションを膨らませながら描いたんだ。とても楽しい作業だったよ」
ジョークだけではない、新作で伝えたかったこと。
タヒチでの日々を発信するゴーギャン、ヘルムート・ラングにもらったデニムを披露するルイーズ・ブルジョワ……巨匠たちのライフスタイルをベースにしたインスタグラムのポスト。そこに、実際彼らが交友関係のあった友人たちのコメントが並ぶ。デロームらしい視点で描かれたイラストとコメントは、思わずクスッと笑ってしまうものばかりだが、そこには彼なりの風刺も忍ばせている。
「いいね!がほしくて投稿を続けるのは、インスタグラムにはまっている人によくあること。もちろん、人気商売のセレブリティたちはそれでもいい。でも、いまも昔もアーティストは、共感を求めて世間に迎合してはいけない。芸術家は常に孤独かつ、自由、そして心地よい状態じゃないといけないからね。ゴーギャンも生前は無名だった。大衆に理解を得られないスタイルでも貫き通す、その姿勢も重要だと思う。ある意味、インスタグラムは芸術家には向いてないものだと思うよ」
デロームは、イラストだけでなく、小説も書く多彩なアーティストだ。人々の生活をつぶさに観察し、それを表現するのを得意とする。自分の本の制作も、モード誌にイラストを描くことも楽しんでいる。
「これからフランスで発売されるシャネルの本のイラストも、僕が描かせてもらってね。アトリエでは、帽子、靴、ニットや刺繍など、多くの職人たちに会わせてもらい、とても刺激的な体験だった。モードの仕事は描く対象物が美しくて、心が弾むね」
しかし自身の個展用の絵を描く時には、イラストの仕事とは逆で想像力を一切使わないのだという。
「観たものをそのまま描く。そこに僕のアイデアは介在しない。イラストとは、また別の創造性があるんだ」
フランス生まれ。18歳で美術大学に進学し、漫画家を目指す。卒業後、イラストレーターのキャリアをスタートし、仕事を求めてニューヨークへ。バーニーズ ニューヨークの広告キャンベーンを手がけ、話題を集める。
アート界の巨匠たちの実際のエピソードに基づいた内容の投稿をインスタグラム風のイラストで表現。#(ハッシュタグ)の内容、いいね!の数など、ジョーク満載の一冊。サイン会も行われた、BOOKMARCにて販売中。『Artists’ Instagrams : The Never Seen Instagrams of the Greatest Artists』(August Editions刊)¥4,320
*「フィガロジャポン」2019年6月号より抜粋
interview et texte : TOMOKO KAWAKAMI