イレーヌ・ジャコブ&ジェローム・キルシャーが語る、城崎温泉の魅力。

インタビュー

城崎国際アートセンターのこけら落とし公演となった舞台「アンドロイド版『変身』」は、平田オリザ氏がフランツ・カフカの『変身』を原作に、"ある朝起きるとアンドロイドになっていた男"とその家族の葛藤を描いた物語。城崎温泉街でのアーティスト・イン・レジデンスで制作され、大阪大学との強力タッグのもと、新型アンドロイド「リプリーS1」と、フランス演劇界のスターたちが異色の競演を果たした。本作で、息子がアンドロイドになってしまう夫婦を演じたイレーヌ・ジャコブ、ジェローム・キルシャー夫妻にインタビュー。城崎で過ごした時間を振り返りながら、作品への思いをうかがった。
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――「アンドロイド版『変身』」の制作で、城崎にはすでに1カ月間滞在されているそうですね。

イレーヌ・ジャコブ(以下、I):「そうですね。この城崎国際アートセンターに、私たち出演者のほか、制作チーム、舞台に関わるテクニカルチーム、それから今回の場合はアンドロイドの技術チーム、そしてさらに私たちのプロジェクトを記録・研究対象とする方々も滞在しているんです。さまざまな役割を持った人たちがひとつの空間に集って作品を制作できる環境は、本当に恵まれていると思います」

ジェローム・キルシャー(以下、J):「仕事以外の部分でも、城崎は本当に居心地のいい街です。地元の方々に温かく迎えていただき、支えてもらっていることを実感しています。城崎には7つの外湯がありますが、その外湯をめぐりながら、街の方々と交流をはかることができるんです」

I:「何百年と続く文化を持った街ですが、古くからの伝統と、今回のように新たなものをクリエーションする力、ふたつの方向性を持っているというのも素晴らしいですね。このアートセンターにしても、もともとあった施設を再生して、劇場として復活させたという美しいエネルギーに満ちた場所です。ひと月前に私たちが到着したときは、まだ新しくて出来たてホヤホヤという感じでしたが、4週間を経て、いきいきと生命が吹き込まれたようです」

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――お二人は、アーティスト・イン・レジデンスでの滞在制作経験はこれまでにもありますか?

I:「フランスでは経験があります。各地方都市に劇場があって、そこで制作から公演までを行うという体制が充実しているので」

J:「フランスではあまり見られないことですが、旅館を経営されているような方々と、我々のような芸術に携わる者たちの協力関係が成立しているのは素晴らしいことだと思います。豊岡市の中貝市長や市役所の皆さんのお仕事ぶりにも感激しています。豊岡市はコウノトリが棲息していることで有名ですが、"コウノトリが住む環境は、人間にとっても幸せな環境である"という方針で、農薬を減らしたり、環境整備をなさっていると聞きました」


――二人の息子さんも一緒に滞在されているそうですが、ご家族で豊岡市内や城崎温泉街をめぐって、気に入った場所はありましたか?

J:「先ほども言った城崎温泉の7つの外湯、そして何よりも旅館の風情やおもてなしが素晴らしいですね。また、地ビールもとてもおいしいです。子どもたちは城崎を『楽園のようだ』と言っていますよ(笑)。出石の永楽館という古い歌舞伎座も思い出に残っています」

I:「竹野の浜辺も美しかったですね。このセンター周辺も自然豊かで、散歩をしていてもまったく飽きることがありません。夏は蝉の音が、今は秋の虫の鳴き声が聞こえます。柳や橋のある美しい風景があり、この街には喜びや楽しさがあふれていると感じました。ここを去るのが本当に悲しいです!」


――今回の作品は、アンドロイドとの共演というユニークなものですね。

I:「アートと科学という異なる分野を融合させるということを、平田オリザさんが実現してくださいました。この素晴らしい戯曲に出演し、平田さんとお仕事できることを幸せに思っています」

J:「アンドロイドとの共演は、私たちにとって初めての体験です。正確なタイミングで演技をしなければいけませんので、そのタイミングを学ぶ訓練にもなっています(笑)。とはいえ、私はこの作品に大いなるヒューマニティを感じるんです。平田さんは、登場人物に優しさを届けてくださっていると思います。見る方によって受け止め方も違うと思いますが、原作であるカフカの『変身』が持つ、暗くて黒い世界に比べると、オプティミスティックな作品であると言えるかもしれません」

I:「アンドロイドの技術チームの方々も、本当に大変だったと思います。セリフのタイミングがずれてしまった場合、『ちょっと5秒待ってください』と言って、目の前にあるパソコンでプログラムを急いで修正して......というようなことを繰り返し、昼夜を問わずお仕事してくださいました」

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――作品はここ城崎で初演の後、横浜公演を経て、フランスでも上演予定だそうですね。

I:「フランスでも、この作品を首を長くして待っている方がたくさんいると思います。アンドロイドと役者がどうやって共演しうるのか好奇心がある方、平田オリザさんの新作を見たい方、不条理な設定に興味を持たれる方......さまざまな方がおられると思います。でも、最終的には皆さんそれぞれが『この作品は私たちのことを語っているのだ』と感じるのではないでしょうか。大きな危機や混沌に見舞われたとき、人間が再び絆を取り戻していく姿は、どんな方であっても共感していただけることだと思います。この作品が、この城崎国際アートセンターのこけら落とし公演となることが素晴らしいですし、作り上げた作品が街の人に喜んでいただければと思っています」

J:「このセンターはまるでコウノトリの巣のような場所です。作品に関わるエネルギーがここに集約され、作品が生まれ、コウノトリが巣立つのと同じように世界に向かって羽ばたいていく。そして世界を旅したあとに、また戻って来られればなと思っています」

141106_interview_01.jpg【PROFILE】
イレーヌ・ジャコブ/Irène Jacob
1980年代にルイ・マル監督『さようなら子供たち』で映画デビュー。1991年にクリストフ・キシェロフスキー監督『ふたりのベロニカ』でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞。また、同監督の『トリコロール―赤の愛』でナディーヌ・トランタニヤン、ジャン=ピエール・ダルッサンらと共演。舞台ではイリーナ・ブルック、フィリップ・カルヴァリオ、ジャン=フランソワ・ペレ、ダヴィッド・ジェリの作品に出演。2013年にはブッフ・デュ・ノール劇場(パリ)にてダヴィッド・レスコーとブノワ・ドゥルベックの音楽劇『Tout va bien en Amerique』で舞台に立つ。スクリーンでの近作はクロード・ルルーシュ監督『ろくでなし、愛してる』(2014)。

141106_interview_02.jpg【PROFILE】
ジェローム・キルシャー/Jérôme Kircher
フランス国立高等演劇学校(パリのコンセルヴァトワール)卒業後、オリヴィエ・アサイヤス監督『クリーン』、『パリ、ジュテーム』、『カルロス』に出演。マニュエル・シャピラ監督が第57回ベルリン国際映画祭で入選をはたした短編作品『Pick up』に主演。ニコラス・コルツ監督の『Heartbeat Detector』、ヴァレリア・ブルーニ=トドゥスキの長編第2作『Actresses』、ダニエル・シカール監督の『Drift Away』主演等。舞台では、ロベール・カンタレラ、アラン・フランソン演出作品に出演。
 

photos:NORIKO YAMAGUCHI

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