編集KIMのシネマに片想い

出遅れた! アカデミー賞。

編集KIMのシネマに片想い

こんにちは、編集KIMです。
もう1カ月経ってしまいました、日本での米国アカデミー賞授賞式の放映から……。毎年1週間以内に記事をアップしていたのですが、出張に出かけていたり、5月号「おいしいパリ。」特集の進行などに追われていました……弱虫のイイワケですけどね!
ここまで遅れてしまったからには、ドレスやら、スピーチやらと絡めて作品紹介していくのは野暮というもの。ストレートにアカデミー賞や、作品そのものに対して、KIMが個人的に考えていることを綴っていきたいと思います。

作品賞『グリーンブック』、真の評価にみんなは興味大?

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助演男優賞を得たドナルド・シャーリー役のマハーシャラ・アリ。©Getty Images

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作品賞を得て、スタッフ、キャストも壇上に。©Getty Images

受賞後に、賛否がここまで分かれる作品賞も久々でしたね。この作品を論じる専門家たちは、さまざまな思惑を背景に原稿を起こさねばならなくて大変だったろうなあ……と推測します。ピーター・ファレリー監督は、「差別描写が徹底していない」と、白人黒人両サイドから責められているそうです。まさに、いま映画界(というか全世界的に)トレンドであるダイバーシティ論争に、実話の題材でのぞんでしまい、おまけに米国アカデミー賞の最高賞を獲得してしまったのだから無理もないでしょう。ニューズウィーク誌のインタビューでは、「自分の評価がこんなに低いとは思わなかった」とファレリー監督は(笑)付きで答えています。日本でのんびり暮らしていると、こういったアメリカの差別問題はなかなかピンとこないですよね。KIMも、差別の描き方というよりは「人と人とはどういったところで繋がっていくものなのか」という監督が最も描きたかった部分にストレートに気持ちが行きました。実際に身近に格差はあっても、差別の存在を執拗に感じないのが日本という国だと思います。深堀されている記事まで探して読んではいませんが、『グリーンブック』は同性愛に関してもほんの少しだけ描写があるのです。いま、白人の黒人への扱いの歴史が、この作品の「差別」論議の軸になってしまっている気がしますが、果たしてイタリア人移民に対して、優位性を感じている欧米人からの差別はないものなのでしょうか、そして日本人に対しては……? 世界は差別、区別に満ちています。そこでファレリー監督が本当に意図した観客に発信したメッセージに立ち返ると、それは、人と人が惹かれあったり、気が合う、ということは、わかりやすい同ジャンルや同共同体・同クラスからくるものではないんだよ、ということなのではないかとKIMは想像しています。ヴィゴ・モーテンセン演じるニューヨークのガテン系イタリア人と、マハーシャラ・アリ演じる教養の高い黒人天才ピアニストの間には、表面的な洗練の度合いや肌の色、収入格差は明らかです。でも、ふたりはとても似ています、他者に興味を持ち、心を寄せるという点で。実話に基づいている映画なので、実在のトニー・リップとドナルド・シャーリーがそうであったか真実のところはわかりませんが、少なくとも本作の中では他者への関心が高いという部分は、そっくりです。シャーリーは自身が危険で自尊心を傷つけられる土地とわかったうえでアメリカ南部への演奏旅行に出ます。恐怖心を隠し、心の奥でその気持ちと闘いながら生きているシャーリーと、稼ぎのために運転手をするトニーは、相互作用的に助け合います。互いが、互いの境遇や人生に、根本的なところで興味関心があって、一線を越えて踏み込もうとする勇気をふたりが持ち合わせているからです。ファレリー監督がうまいな、と思うのは、その深度が増していく過程を描きながら、どこか両者ともしめっぽくならず、明るくかわしている演出です。しかしながら、「うまい」と感じるその部分が、「浅い・軽い」と受け取られてしまう場合もあるのかもしれません。
もうひとつ気になったのは、トニーの妻ドロレスを演じるエンダ・カーデリーニ。そこに関連性はないかとは思いますが、『マンボ・キングス/わが心のマリア』(1992年)に出ているマルーシュカ・デートメルスを思わせました。なんと、いま調べたら彼女の役名もドロレスでした。50年代、大きなダンスホールで成功し挫折していてくキューバ系の兄弟の物語です。『グリーンブック』と、設定が似ているように思えるんですよね、KIMには。
最後に、ファレリー監督は、「ジョン・アービングの小説にはどれも熊かレスリングが出てくる。僕は車の旅が大好きで、22回もアメリカを横断した。人生に迷うと必ず車の旅に出る」とニューズウィークのインタビューで答えていました。私はこのコメントが大好きです。

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ふたりともすごく男前でした。このヴィゴ・モーテンセンが演じた役柄は、どんずばKIM好みの男性。

『グリーンブック』
●監督・製作・共同脚本/ピーター・ファレリー
●出演/ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ 
●2018年、アメリカ映画 
●130分
https://gaga.ne.jp/greenbook/
© GAGA Corporation. All Rights Reserved.

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『ボヘミアン・ラプソディ』でもっとも印象に残ったのは……

ラミ・マレック、おめでとうございます。まさか主演男優賞を彼が取るとは予想していませんでした。

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フレディ・マーキュリーを演じたラミ・マレック。©Getty Images

出っ歯、歌、素振り、すべてにおいてフレディ・マーキュリー瓜ふたつにトランスフォームしたラミ・マレックの演技が絶賛され、そして、ここまでヒットするなんて誰も予測せず、映画における「観客のパワー」を見せられた作品でした。創り手がいて、観客がいる。創られたものは、それを観た誰かの人生の「体験」になる、というクリエイティビティのもっとも魅惑的な部分を、ビジネスの成功も含めて導いたのは彼の演技のおかげかもしれません。が、クイーンのメンバー役全員本人そっくりだったし、セクハラ問題もあって監督賞にもノミネートすらされなかったブライアン・シンガー(『ユージャル・サスペクツ』95年)の、偏りきった編集の指示もよかったとも思います。

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私の周りの映画友だちでクイーンファンもブライアン・メイ役クリソツ、と騒いでました。この写真はアカデミー賞授賞式のオープニングアクトの模様。ブライアン・メイ本人が弾いてます。©Getty Images

ここで、私がもっとも『ボヘミアン~』で印象的だったことを……。フレディのミューズであった元妻メアリー・オースティンと出会うシーンです。彼女はロンドンのファッションを席巻していたBIBAの売り子でした。メアリーのファッションを廊下でチラ見しただけでフレディは彼女に声をかけ、バンドのアシスタント的なことを頼みたい、衣装を手掛けてもらいたい、そして挙句の果てに妻にするわけです。ファッションは人々をグループ化するひとつの手段ですが、この一瞬の出会いが、伝説の人物と彼の一生を支えるミューズとの関係のスタートになったわけです。人が人を紹介して、「合うと思うよ~」なんて簡単に言ったりしますけど、それってホント?といつも疑問に思っているワタシですが、『グリーンブック』のところでも書いたように、人は、その人のなかでしか定義できないオリジナルな感覚で他者と繋がっていくものなのだ、と感じました。実はこの感覚が、今回のアカデミー賞全体のツボになっている気がします。人と人との繋がりや相性は、「らしい」とか「そうあって当然」なんていうことの範疇に当てはまるはずがない、という感覚です。物語上の「反目した関係」さえも不自然に感じてしまうくらい、(実話に基づいたものは特に)、予想不可能かつ規格外な感覚や理由で、人は人に惹かれあい通じ合う、という状況を描いた作品が今回は多かった、と思いました。

190326_bohemianrhapsody-2bdd_SB_S4.jpg©2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 

190326_bohemianrhapsody-2bdd_SB_S9.jpg©2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved. 

 

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『ボヘミアン・ラプソディ』
●監督/ブライアン・シンガー 
●出演/ラミ・マレック、ルーシー・ボーイントン、グウィリム・リー、ベン・ハーディ、ジョセフ・マッゼロ 
●2018年、アメリカ映画 
●135分
●2枚組ブルーレイ&DVD2枚組 ¥5,076
発売・販売:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
www.foxmovies-jp.com/bohemianrhapsody/
©2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

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『アリー /スター誕生 』の題材は現代と合う?

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大好きな70年代の映画の1本『スター誕生』(76 年)。バーブラ・ストライサンドとクリス・クリストファーソン主演で、当代の歌姫をヒロインにするというのは、『アリー~』のレディー・ガガと同じです。「シャロウ」の楽曲が素晴らしいのも共感するし、ノーメイクでがんばったガガさまもすごいし、ずっと理由がわからないですがブラッドリー・クーパーは日本人女性に人気がないけれど(あんなにルックス、経歴、仕事の出来でミスター・パーフェクトはいないのにね)、ほぼ毎年アカデミー賞の常連になる彼は監督兼主演、歌まで歌うとはすごい。今回の主役のふたりのほうが70年代版より美しいし! でも人には好みというものがありますよねー。70年代カルチャーが好きなKIMは、ポール・ウィリアムスの曲と、歌い上げるさまはいま見たらダサくても、バーブラ・ストライサンド版のほうが好き……。ぜひ観比べてみてほしいです。当初、『アリー~』でメガホンをとるつもりだったクリント・イーストウッドは71年の『ダーティ・ハリー』で世に名を知られた俳優だからか、『スター誕生』もしくは『スタア誕生』(54年)にもご執心だったのかもしれません。イーストウッドは、ブラッドリー・クーパーにガガはダメじゃないか?と言った、という記事も読みましたが、『アリー~』は大成功。でも、こういった男女のパワーバランスにフォーカスする必要性が現在は薄れてきているように感じました。70年代のほうが、つまりウーマンリブの動きがあった時代のほうが社会的にもっと切実だったんじゃないか、と。そのぶん、この題材の持つ男女の力の崩れが、76年版のほうがより切なく私には感じられたのではないか、と思います。映画がナマモノで、どこか時代や社会と共存していることを考えると、のコメントですが……。

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『アリー /スター誕生  』
●監督・脚本・製作・出演/ブラッドリー・クーパー 
●出演/レディー・ガガ、サム・エリオット 
●2018年、アメリカ映画 
●本編136分
●4月3日デジタル先行配信開始
●【初回仕様】ブルーレイ&DVDセット(2枚組/ポストカード1枚付)¥4,309
【数量限定生産】プレミアム・エディション(2枚組/国内盤サウンドトラックCD(歌詞カード付)\8,629
【初回仕様】<4K ULTRA HD & ブルーレイセット>(2枚組/ブックレット(36ページ)、特製ポストカードセット付) \7,549
(5月22日発売)
発売・販売:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
© 2018 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

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『ある女流作家の罪と罰』、さみしいニューヨーカーたち。

アカデミー賞であれだけ盛り上がっても、日本で劇場公開されない作品は見向きもされません。ノミネートだけで受賞しなけりゃなおさら……。KIMは出張のため乗った機内で思いがけず出合った、主演女優賞メリッサ・マッカーシーと助演男優賞リチャード・E・グラントがノミネートされた作品が『ある女流作家の罪と罰』です。こちらも実話に基づく映画で、リー・イスラエルという女性伝記作家が落ちぶれて金欲しさに著名人の手紙を偽装して収入を得る、という内容。やがて罰せられるリーですが、80年代のニューヨークを舞台に、物書きという職業にしがみつき、裏切られ、当時は現代よりも理解されていなかった同性愛者でもある難しい役を、レトロムードの画面のなかで、リアルにしっとりと演じています。バーで出会って友人となったジャック役がグラント。こちらも同性愛者で、不治の病としてのエイズが流行っていた時代の、社会の隅っこに追いやられた人物です。心情豊かに演じるふたりが、作品は地味ながら評価されました。機上だから涙もろくなるものなのかもしれませんが、私はこの作品でほろほろと泣いてました。リーが、恋する対象である書店経営する作家志望の女性をだましてお金を得ることになり、揺れる罪悪感をメリッサ・マッカーシーが目線や仕草で上手に表現する場面です。ピュアな人をだます時、大事に想う人を裏切る時、人は倍傷つきます。よね? アカデミー賞の俳優賞は、「よくがんばった!」という役柄を演じた俳優に与えられることが多いようにKIMは感じてます。でも「演技が本当に上手である」ということは、小さな役でも十分証明できるんじゃないかな、と思うんです。そういう視点でこの作品を観ると、改めて映画というものが「人の力」で成り立つ創造物であることを、ジーンと感じます。

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著名人が使用していたのと同じ古いタイプライターを入手するリー・イスラエル。©2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

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詐欺に成功して祝杯を上げる。©2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

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『ある女流作家の罪と罰』
●監督/マリエル・ヘラー  
●出演/メリッサ・マッカーシー、リチャード・E・グラント 
●2018年、アメリカ映画 
●本編106分
●6月19日デジタル配信先行開始
●DVD \4,104(7月3日発売)
発売・販売:20世紀フォックスホームエンターテイメントジャパン
©2019 Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC. All Rights Reserved.

他にもたくさん触れたい作品があるのですが、書ききれず。イオンシネマで公開中のアルフォンソ・キュアロン監督作『ROMA』、パートナーと決して一緒に観に行ってはいけない!と忠告したい『天才作家の妻 40年目の真実』、『ブラックパンサー』や久しぶりのスパイク・リー監督の姿を見た『ブラック・クランズマン』など。

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この映画をカップルで一緒に観に行ったら別れちゃうんじゃないかなあ……。グレン・クロースは結局オスカーを手にできなかった……。『天才作家の妻 40年目の真実』ⓒMETA FILM LONDON LIMITED 2017

WOWOWのビューイングルームの大画面で観るアカデミー賞授賞式は本当にひとつのスペクタクルです。時間は長いけれど、レッドカーペットから沿道インタビューが行われ、ノミネートされていた是枝裕和監督への事前取材が流れ、評論家の町山智弘さんが展開するアメリカの地元での評価や川村元気プロデューサーが語る『未来のミライ』に対する思い、各人の受賞予想など、本国のライヴ中継時のCM中に放映するWOWOW独自コンテンツにも工夫があります。映画以上の、と言ってしまうと語弊がありますが、その映画の背景を非常に演出されたカタチで観られるのがこの番組です。

KIMは来年ももちろんこのビューイングルームにうかがって、アカデミー賞の背景をきちんと把握していきたいと思います。

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