編集KIMのシネマに片想い

行き場のない愛の映画たち。

編集KIMのシネマに片想い

こんにちは、編集KIMです。
平成&令和のミックスGW、映画ざんまいで過ごした方も多かったのでは? 私も例にもれず、満足いくまでたくさんは観られなかったものの、ほぼ1日1本ペースで新作と今後の公開作のDVDなどを観ていました。『RGB 最強の85才』を観て東大入学式の上野千鶴子さんのスピーチを連想したり、『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』でほろっとしたりなどなど。劇場にも訪れましたが、すべて満席御礼の中、観ることができてうれしかったです。

で、今回、なんとなくベルトルッチ監督の映画について書きたいと思います。
先日、ファッションテーマのイメージボードのプレゼンを担当エディターから受け、ジョルジオ・アルマーニ氏が、ベルトルッチの映画『暗殺の森』の中に登場する漆塗りの世界観にインスパイアされて、クチュールラインのアルマーニ プリヴェ2019年春夏をデザインした、と聞いたのがきっかけです。
アルマーニ氏もベルトルッチ監督もイタリア人。昨年亡くなったベルトルッチ監督は、色香と欲望と、人生の不条理と、政治的な背景を巧みに絡ませて物語る監督でした。なんとも艶っぽい画面から、匂い立つようなものをまき散らすクリエイターでした。

『暗殺の森』のドミニク・サンダは美しすぎて、まぶしくて、とことん魅了されてしまいます。女優の圧倒的な存在感が映画に深みを与えて効果的になる、絶妙な例。特に、このダンスの場面は神々しいほどです、センシュアルで。

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左の黒髪はステファニア・サンドレッリ。主人公のジャン=ルイ・トラティニャン演じるファシストの暗殺者の妻役です。右側の金髪がドミニク・サンダ。

ファシストの青年が、反ファシストの学者を殺そうと近づき、その妻であるドミニク・サンダに強く深く惹かれてしまう、自身も妻を持つ身でいながら……というストーリーなのですが、イタリアのファシズムの背景と、デカダンスと、艶のある映像と描き方で、むしろ観客の気持ちが本筋から微妙にずれていってしまうような気分になります。その感覚がいっそう甘美なのです。重苦しさのある甘美なのですが……。

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もちろんファッションも素敵。この時代の優れた作品はファッション的なインスパイアもたくさんありますよね。だからこそ、アルマーニ氏の着想源にもなったのかと。

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ジャン=ルイ・トラティニャン。永遠のイケメンです。

撮影はヴィットリオ・ストラーロ。ベルトルッチ監督の盟友です。流れるカメラワークに酔えます。

『暗殺の森』
●監督・脚本/ベルナルド・ベルトルッチ 
●出演/ジャン=ルイ・トラティニャン、ドミニク・サンダ、ステファニア・サンドレッリ
●1970年、イタリア・フランス・西ドイツ映画 
●本編115分 
©1971 Minerva pictures Group All rights reseived.

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死期が近付いたら、我が人生の映画ベスト100を選出したいと思っているのですが、その際には絶対に候補の一作になりそう、と思っているのが『シェルタリング・スカイ』です。

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砂漠を訪れるアメリカ人夫婦の物語です。

この映画を観たのは、かつて新宿にミラノ座という大きな劇場があった時代。ベルトルッチ監督はミニシアターで封切られることも多い監督ですが(キャリアが長いので時期によって異なりますが、『ラストエンペラー』(1988年)の大成功直後は大型劇場なんですよね)、この砂漠のシーンは、大きな劇場で観て本当に素晴らしかったです。
でも…‥あんなに大劇場に、ほとんど観客がいない状況でKIMは観ました。
孤独でした、大劇場で。(もちろんひとりで観たし)
砂漠を眺める丘の上で、夫役のジョン・マルコヴィッチは、妻役のデブラ・ウィンガーにしがみつくように抱きつきます。そこにはロマンティックな恋愛の姿などなくて、枯れていく衰えていく愛を必死に留めようとしても止めきれない、完全に人生に屈した男が見せるぎりぎりの愛情表現でした。

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『プレイス・イン・ザ・ハート』で初めてジョン・マルコヴィッチという俳優の名を覚えましたが、この作品で観たマルコヴィッチはもっともカッコよく見えました。スーツの着方とか最高。デブラ・ウィンガーは、騒ぎがここまで大きくなる前から、映画界の女性権利を問題化した女優のひとりかもしれませんね‥‥

ストーリーを簡単に説明すると……
かつては愛し合った夫婦が、華やかな時を終えて、ふたりの間においても、そして個々の人生においても、何か新しいものを見つけようとエキゾティシズムを求めて北アフリカを訪れます。そこでふたりはいっそう離れ離れになっていき、そのまま人生に迷いきってしまう、という茫漠とした内容なのです。
夫婦は肉欲を別の相手で満たします。道徳を通して考えてみれば、「そんなの自分勝手で弱い人間よ!」と、裏切り者扱いで、批判されるものでしょうけど。でも、どうしてもそういう否定的な気持ちになれない。深く誰かを愛して、その気持ちが枯渇していってしまうことに繊細に気付ける人は、かつての愛を何としても取り戻そうと、理解しがたい深みに嵌ってしまったりするんじゃないかな、と。最初に観た時からずっと同じ感慨を持ち続けています。
行動として単に誠実であることよりも、社会的なルールを単に守りきるよりも、逃れられない感情に支配される人間を描くことは、極めて「映画的」で、打ちのめされました……。

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光が本当に美しい。

脚本に原作者であるポール・ボウルズが参加しています。
坂本龍一の音楽も、一度聴いたら忘れがたく心に残ります。よく、このテーマ曲を思いだします。初めて観てから30年経つ現在でも、です。
愛の不条理、って言葉にするとあまりに適切すぎて、かえってリアリティがない印象ですが、もともと愛って不条理ですよね。行き場のない想いをどうしたらいいのか、どこが決着なのかもなけりゃ、対処方法のお手本もない。
ベルトルッチ監督は、そんな行き場のなさを、映画のなかで、逃げずに描き切ってくれる。そこに心酔します。

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『シェルタリング・スカイ』
●監督・脚本/ベルナルド・ベルトルッチ 
●出演/デブラ・ウィンガー、ジョン・マルコヴィッチ 
●1990年、イギリス映画 
●本編138分
●Blu-ray¥2,700 
発売・販売:キングレコード
© The Sahara Company Limited & Tao Films SRL. 1990

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