「人生をより良くする音楽をやりたい」、ダイメ・アロセナに取材
Music Sketch
アップするのが遅くなりました。
取材したのは少し前になってしまったものの、キューバ出身のダイメ・アロセナのインタビューは忘れられない取材のひとつになりました。ステージ上で大きく揺れていた身体は目の前に現れるととても小柄で、でも喋っているうちに壁を叩いてリズムを取り、立ち上がって身体を揺らし始めると、オーラが輝き出す。まるで、アラジンのランプから飛び出したような魔法を感じてしまうほど。そしてインタビュー中に「サウンドチェックの時間だから」と、突然席を外し、予定外の行動に出たかと思うと、戻ってきてからは何事もなかったようにトークを再開。まさに全身がエネルギーの塊のような女性でした。
5月1日、ブルーノート東京の2ndステージで熱唱するダイメ・アロセナ。Photo by Makoto Ebi
■ キューバの歴史が、この複雑なリズムを生んだ
ダイメ・アロセナが注目を浴びたのは、イギリスの人気DJ/プロデューサーのジャイルス・ピーターソンが彼女の才能に気づき、彼のレーベルBROWNSWOOD RECORDINGSからアルバムをリリースしたことから。デビューアルバム『ヌエバ・エラ(NUEVA ERA)』(2015年)は歌に重きを置いたアルバムだったが、今回の2作目は、『キューバフォニア(CUBAFONìA)』というアルバムタイトルからわかるように、母国キューバを意識したリズミックなもの。ダイメを中心に曲作りが行われ、レコーディングはほぼキューバで、ストリングはロサンゼルスで加え、最後の仕上げのミキシングとマスタリングはロンドンで行われた。
— 今回の制作で、LAに行くなどしましたが、自分の音楽性に変化はありました?
ダイメ(以下、D):何も変化はないわ。ミキシングもマスタリングも全てのプロセスに自分が関わってその場にいるので、場所を変えたからといって自分の音楽が変化するようなことはない。音楽制作は子供を育てているようなものなのよ。
— ブルーノートでのライヴはエネルギッシュで刺激的で素晴らしかったです。新世代のキューバン・サウンドをどのように捉えているのでしょうか?
D:キューバの音楽は(突然、壁を叩き始める)、私はキューバ人なので、手だけでサウンドを作ることができる。全てフィーリングなので、キューバの音楽にするために、「この楽器を使わなきゃ」とか、「このリズムを使わなきゃ」とか、一切考えないの。
— 曲作りはどのようにして? 自分で楽器を演奏するの?
D:(手を叩き、リズムを取りながら歌い始める)これでキューバらしさがわかるでしょ? キューバの音楽を作るために自分たち自身以外必要なものはないのよ。
— キューバの音楽はリズムが複雑な上に、コーラスも複雑に絡んでくる。それも自然に身につくものなのですか?
D:爆発みたいな感じね。というか、自然なこと。だからこそ、自分の国以外のミュージシャンの手を借りたり、共演したりしている。というのも、キューバ人にとってリズムは自然のものだけど、他の国の人々にとっては理解するのは大変だと思うから、複雑だというものをよりわかりやすくするために、自分たち以外の国の人と共演しているの。キューバの2、3歳くらいの子供が踊っているヴィデオを観ていると、本当に面白いわよ。そんな小さくても、キューバ人の踊り方をしているから(笑)。
そこからしばらく複雑なリズムが生まれる過程の話が続いた。それはキューバの歴史そのもので、スペインがキューバを侵略し、原住民が全員殺された話に始まり、スペインやフランスから渡ってきた音楽要素とナイジェリアやコンガなどのアフリカから伝わった音楽要素が結びつき、しかもスペインの音楽にはもともとアラブの音楽要素が入っていたために、その多くがミックスされて複雑になったと、一気にトーク。「キューバに生まれた人はみんな混血。クリオーリョス(CRIOLLOS) とキューバ人が呼ばれていた時代があるのよ」と、ダイメは説明。そして、バッグからiPhoneを取り出し、「facebookにこんな記事があった」と見せてくれた。
D:「Do you don’t look like Cuban?」という記事で、4人のタイプの女性を載せているけど、この4人が全部合わさったのがキューバ人だというの。つまりブロンドやコーヒー色の肌、アジア人の瞳のようでもキューバ人では有り得るという。この4人の中に、私の写真が入っているのが笑っちゃうけどね。私の肌はダークだけどブロンドの髪で、これはキューバではクレイジーな組み合わせなの。だからそれが音楽に反映されている。ハハハ。リズムと同様に、人もいろんなコンビネーションがあるのよ。
■ これからの音楽はベース奏者のクオリティが重要
— 音楽性豊かなキューバ人たちは、地球上で自分たちの音楽が最高だと思っているのでしょうか?
D:そんなことはないわ、アメリカの音楽もキューバの音楽と同じ現象を持っていると思う。アメリカはイングランドが侵入して来て、ネイティヴインディアンが殺されたし、アフリカからの血も同じように入っている。ブラジルもポルトガル人以降、多くの人種が移民して来たし、アフリカなども同じような境遇でしょ。いろんな血がミックスした国は、ネイティヴだけの国よりも強固なものが生まれているはずよ。
来日公演では、新進気鋭のミュージシャン達がダイメの歌をサポート。Photo by Makoto Ebi
— では、あなたがカッコイイと思う音楽とはどういうもの?
D:私が好きで面白いと思うのは、ラッパーやMCが鍵を持っている音楽。ストリートの言語でできている音楽だから、より多くの人に受け入れられるはずで、彼らがいい音楽をやれば大きな現象になると思う。私はジャズやアーバン・ミュージックも好きで、ケンドリック・ラマーのようなタイプや、カマシ・ワシントンやロバート・グラスパーにも注目している。バックグラウンドにあるベース奏者のクオリティが重要で、サンダーキャットのようなタフなミュージシャンをベースとして必要としている音楽ね。彼らから力を借りることで、よりダンサブルになり、面白いものが仕上がっていると思う。ジャズも本来は1920年代に楽しんでダンスするための音楽として作られたはずなのに、それがだんだん複雑になりすぎていって、聴き込むような音楽に今はなってしまった。でもダンスできるようなバイヴを取り戻して行くような音楽がこれから面白く、必要になっていくと思うわ。
— ではあなたも、今後は大きい会場でみんなを踊らせるライヴを目指していくの?
D:そうよ。わざわざハイにならないと聴いていられない音楽はやりたくない。人生をより良くするような音楽をやりたい。お客さんをクレイジーにさせるような、みんなが音楽を体感していると実感できるようなショーをやりたいわ。
■ 最新作はキューバという国を表現したアルバム
— 今回のアルバムについて、歌詞の内容も含めて教えてもらえますか?
D:これはキューバという国を表現したアルバムなの。1曲目「Eleggua」は聖人(セイント)のことを歌っているアフロジャズなナンバー。2曲目「La Rumba Me Llamo Yo」のリズムはグアンゴで、キューバの国の人々が自分たちのことをどう考えているか、自分たちの困難をどうしたいのか、聖人が何をしたいのか、といったことを歌った歌。3曲目「Lo Que Fue」のリズムはチャチャチャよ。4曲目「Maybe Tomorrow」は希望や愛について。5曲目「Negra Caridad」はカソリック教会とサンテリア(キューバ人の民間信仰)の関係について。私はカソリック教徒で聖人を尊敬して愛しているので、彼らの自分たちに対するメッセージや、自分たちがそれに関してどう思うかを歌っているものが多いの。
— ダイメさんはサンテリア教徒ではないのですか?
D:違うわ。サンテリアはカソリックとナイジェリアのヨルバ族の宗教が混じったもの。だけど、これについて話し出すと長くなってしまうので……。ただヨルバもカソリックも同じ聖人を崇めているの。その聖人がその2つの宗教についてどう思っているかを語っている、音楽のミューズをテーマにした歌よ。
— 宗教の話は簡単には語れないですよね。だからこそ、歌にしたんですね?
D:そうよ。次に行くわ。6曲目「Mambo Na’ MÀ」は文字通りマンボの曲。7曲目「Cómo」は70年代のキューバン・ミュージックをミックスしたキューバン・ポップな曲。普通のラヴソングね。8曲目「Todo Por Amor」は両親に感謝を込めて書いたボレロの歌。9曲目「Ángel」は先祖や魂について書いた歌で、リズムはタンゴ・コンゴ。10曲目「It’s Not Gonna Be Forever」はちょっと楽しい気持ちになりたくて書いたソンゴ・ピロンのナンバー。11曲目「Valentine」はキューバで音楽の聖人と言われているシャンゴについて書いたものでチャングイのリズムでやっているわ。
■ 自信やインスピレーションを与えられる女性になりたい
— ダイメさんはどうしてそんなにパワフルなのですか?
D:音楽の才能は神から与えられたものね。ただ、音楽業界はタフじゃないとやっていけない。美貌があれば簡単なのかもしれないけど、そうでないとより大変なの。自分がリスペクトを得るためには、何かを証明してみせないとならない。才能以外のものでね。そこで自分が見せているのが強さなんだと思うわ。そして、両親も祖母の好きなことをどんどんやらせてくれたからとても感謝しているわ。
自由人の象徴という、水瓶座生まれの25歳。チョコレートが大好物。
—最後に、夢を聞かせて下さい。
D:ミュージシャンとしては、世界的に活躍したい。世界中の人に自分の音楽、キューバの音楽を認識してもらうことね。女性としては、女性が自分の美に対してや自分自身であることに対して、やりたいことに対して自信を持てるような、そういうことにインスピレーションを与えられる女性になりたいわ。音楽業界でも、「体重を減らせ」とか、「髪にエクステをつけろ」とか、自分のイメージを変えようとすることをすごく言われてきた。でも、それがプロフェッショナルとして大事なことではなくて、「自分自身に自信を持って強くあること」、それがプロだと思う。それを女性に伝えていけたらと思っているの。
2ndアルバム『キューバフォニア(CUBAFONìA)』。現在発売中。
*To Be Continued