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女性アーティストが主要4部門を独占! 第63回グラミー賞。

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第63回グラミー賞は、コロナ禍であることに加え、番組のエグゼクティブ・プロデューサーが新しくなったこともあり、従来とは異なる趣で開催された。当初の予定会場であったLAのステイプルズ・センターを眺められるビルの屋上に白いテントが設置され、そこはまるで豪華な屋外結婚式を思わせる会場に。誰もがマスクまでコーディネートした華やかな衣装を纏い、演奏会場ではお互いのパフォーマンスを見守り、歌を口ずさむなど、アットホームな雰囲気に包まれていた。

オープニングはこれまでなら豪華な組み合わせの共演からスタートすることが多かったが、今回はハリー・スタイルズ、ビリー・アイリッシュ、ハイムの3組からスタート。全体的に演者に若手が多かったのは、コロナ禍ということもあったのかもしれないし、会場に行きやすいアーティストということも、もしかしたらあったのかもしれない。

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最優秀ポップパフォーマンス(ソロ)を受賞したハリー・スタイルズは元ワン・ダイレクションのメンバー。photo:Getty Images

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気になる受賞理由とカテゴリーの難しさ。

そして昨今、女性のノミネートが少ない、また人種差別があるといった意見が多々あったせいか、今回は特に女性のノミネートや受賞、パフォーマンスが際立った。なかでも最も保守的な人たちに聞かれることの多いカントリーミュージックの部門で、黒人女性シンガーであるミッキー・ガイトンが初ノミネートされ、パフォーマンスまで行った。

ノミネート作品も、受賞作品や受賞者も、ザ・レコーディング・アカデミーの会員の投票によって選考されるが、透明性があるとはいいがたい。今回は、全米ビルボードチャートのアルバム部門で第1位となり、今年のスーパーボウルのハーフタイムショーに出演するなど、アルバム『アフター・アワーズ』とともに注目されていたザ・ウィークエンドが、賞も授賞式もボイコットすると発表して注目された。

選出理由が封書の中にひとことでも書いてあればいいのに、と思ったほど、選ぶのは決め難いし、選ばれる側も納得しづらいだろう。今年は、例年以上に受賞者が受賞スピーチの冒頭でノミネートされた全員を讃えていた。なかでもポップスやR&B、ヒップホップ、ロック、カントリーといった形式的なカテゴリーを超えて選出された主要4部門にいたっては、いまの時代、売り上げやダウンロード数、動画サイトへのアクセス数などから簡単に比較することもできず、そう思うとやはり選出された理由を聞きたくもなる。

コラボレーションの多彩さからいっても、もはやカテゴリーに括ることさえ難しい。ジャスティン・ビーバーはダン+シェイとコラボした「10,000 アワーズ」で、最優秀カントリー・デュオ/グループ・パフォーマンス賞を受賞している。カニエ・ウエストは歌の内容によるのだろうが、『ジーザス・イズ・ア・キング』で最優秀コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック・アルバム賞を受賞した。

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テイラー・スウィフトは3度目の年間最優秀アルバムを受賞。

主要4部門のうち、最初に発表されたのは最優秀楽曲賞で、H.E.R.が「アイ・キャント・ブリーズ」で受賞。曲のタイトルは、2020年5月に白人警官によって首を押さえつけられて死亡した黒人ジョージ・フロイドが亡くなる直前に残した言葉から。これはブラック・ライブズ・マター運動のスローガンのひとつとなり、警察によって殺害された黒人たちに捧げる楽曲となった。H.E.R.はフィリピン人の母とアフリカン・アメリカンの父を持つ、カリフォルニア州出身のシンガー・ソングライター。彼女はこの曲をシンガー・ソングライターのティアラ・トーマスと一緒にリモートで作ったと明かした。

最優秀新人賞はミーガン・ザ・スタリオン。新人らしからぬ活躍ぶりで、4部門のノミネート中、3部門を受賞。最優秀新人賞をまさか自分が受賞するとは思ってなかったようだが、同郷ヒューストンの出身であるビヨンセに憧れていたミーガンは、ビヨンセと共演した「サヴェージ・リミックス」で最優秀ラップ・ソングを受賞した時のスピーチが本当にうれしそうだった(同曲で最優秀ラップ・パフォーマンスも受賞)。

年間最優秀アルバムはテイラー・スウィフトの『フォークロア』。ステイ・ホームになったので、そこから制作に入ったというが、本当に良いアルバムでよく聴いた。音楽的に原点回帰を思わせる一方で、ソングライターとして成熟した才能をあますところなく披露している名盤だ。ボン・イヴェールと共演している曲もある。先月、マスター音源の権利問題から、過去のアルバムをレコーディングし直すことを発表していたが、思うことが多かったのだろう。年間最優秀アルバムの受賞は3回目となるが、納得である。

スピーチでは恋人ジョー・アルウィンに感謝の言葉を述べていたテイラーは、元彼であるハリーと和やかに立ち話しているところをキャッチされていた。

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例年以上に多くのミュージシャンが亡くなった2020年。

個人的にうれしかったのは、デュア・リパが最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバムを受賞したこと。2020年いちばん聴いたアルバムで、数え切れないほど気持ちを上げてもらったからだ。

番組として見ると、アーティストを紹介するショートムービーも楽しめたが、コロナ禍で困窮している各地のライブハウスの紹介を兼ねて、オーナーが受賞者を発表する試みも良かったと思う。一方で、昨年亡くなったミュージシャンを追悼するコーナーでは、ビル・ウィザース、リトル・リチャーズ、エディー・ヴァン・ヘイレン、ヘレン・レディ、ケニー・ロジャース、チック・コリアなど1000人近く関係者が亡くなったと伝えられ、言葉が出なかった。コロナウィルスの影響はここにも確実に及んでいる。

ブリトニー・ハワード(歌)とクリス・マーティン(ピアノ)

ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークによるリトル・リチャーズのカヴァーはショーらしい見せ場となったが、ケニー・ロジャースにとってカントリーでもポップスとしても大ヒットとなった「レイディ」は、その曲を書いたライオネル・リッチーにとってもソロの道を歩み始めた転機となった曲で、ゆえに感慨深く歌うライオネルの姿には万感迫るものがあった。さらに、ブリトニー・ハワード(アラバマ・シェイクス)とクリス・マーティンが、ミュージカル『回転木馬』(1945年)の曲であり、とても多くの人たちによって歌われてきた「人生はひとりじゃない(You’ll Never Walk Alone)」を取り上げたのも心に響いた。

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最優秀楽曲賞は、ビリー・アイリッシュの楽曲に。

番組の最後に発表された最優秀楽曲賞は、ビリー・アイリッシュの「エブリシング・アイ・ウォンテッド」。自分の名前を呼ばれて頭を抱えてしまったビリーは、壇上でミーガン・ザ・スタリオンがもらうべきだと讃えたが、それは4年前にアデルが、最優秀レコード賞の時に、ビヨンセがもらうべきだと涙ぐんだシーンを思い起こさせた。

今回の主要部門を見ると、バランス良く受賞者が選ばれているように思える。時代を象徴する曲として、H.E.Rの「アイ・キャント・ブリーズ」はリスナーに人種差別問題について問いかける歌になっているのに対し、ビヨンセの「ブラック・パレード」は黒人であることに誇りを掲げ、配信日をビヨンセの故郷テキサス州で奴隷が完全に解放されたことを記念したジューンティンスの日にしたほど、思い入れが強い。歴史を音楽に記すという意味で前者の方が広く聞かれやすいし、ビヨンセらしいキャッチーなメロディを抑えた後者より、デズリーやインディア・アリーの音楽性をどこか想起させる前者は、個人的にも繰り返して聴きたくなる楽曲だ。さらに年間最優秀楽曲のビリーの楽曲は、ステイ・ホームの時代に最も多く人に寄り添った楽曲だったのではないだろうか。

日本語訳のミュージックビデオ。グラミーでもこれを想起させる美術セットで歌った。

ビリー・アイリッシュは19歳という年齢や外見から、若者向けの音楽だと思われがちかもしれないが、ソングライターとしてもシンガーとしても卓越しているのは言うまでもない。この曲にしても、心の声をメロディに乗せていったウィスパーボイス、さらに兄のフィニアスと一緒に自室(ベッドルーム)でその声をより魅力的に引き出すサウンドを構築し、暗中模索しながらもわっとした霧の中に佇んでいるようなエフェクトが絶妙なのである。

ビヨンセは、女性アーティストとして歴代最多記録を更新。

ビヨンセは今回4部門受賞し、累計受賞数は28となり、女性アーティストとしてアリソン・クラウスを超え、歴代最多記録を更新した。しかし、主要部門はというと「シングル・レディース」で最優秀楽曲賞を2010年に受賞しただけである。番組の最後に映らなかったのが、彼女の思いを象徴しているように思えた。

最優秀R&Bパフォーマンスを受賞した時のスピーチ。

最後になってしまったが、ドラム&パーカッション奏者の小川慶太が参加しているスナーキー・パピーが『ライブ・アット・ザ・ロイヤル・アルバート・ホール』で最優秀コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバムを受賞。また、フィオナ・アップルが最優秀ロック・パフォーマンスを「Shameika」で、最優秀オルタナティブ・ミュージック・アルバムを『Fetch the Bolt Cutters』で受賞したのはとてもうれしい。さらに、パフォーマンスはどれも素晴らしかったが、ハイムが楽器演奏を交代しながら、3人で演奏しきっていたのを見られたのが楽しかった。

やっぱりコンサートが恋しい。

【ハイム】GettyImages-1307100502.jpgハイム。写真左から、長女のエスティ、末娘のアラナはパーカッションも担当、次女のダニエルはギターやメインボーカルも担当した。photo:Getty Images

「第63回グラミー賞授賞式」
WOWOWオンデマンドにて、3月23日(火)15:59まで見逃し配信中。

グラミー賞授賞式の最新情報 
www.wowow.co.jp/music/grammy/

*To Be Continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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