Music Sketch

第52回グラミー賞について

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日本時間の2月1日に発表された第52回グラミー賞。話題の中心は10部門ノミネートのビヨンセVS 8部門ノミネートのテイラー・スウィフト。実はこの2人の間には有名になったハプニングがありました。昨年9月に発表したMTV Video Music Awards (VMA) で、テイラー・スウィフトがBest Female Video Awardsを受賞しスピーチをしている時、カニエ・ウエストがステージに飛び入りして彼女からマイクを奪い、「ビヨンセが受賞すべきだった」と主張。その後、テイラーは何も言えずに壇上から降りてしまったからです。授賞式の最後に、最高賞であるVideo of the Yearを受賞したビヨンセがステージにテイラーを呼び、もう1度スピーチをする機会をプレゼントして、それは粋な計らいだったのですが、奇しくもグラミー賞では、最前列の通路を挟んで左右にビヨンセ・チームとテイラー・チームが陣取ることになっていました。

FIGARO067A.jpg最新作『モンスター』も好評なレディー・ガガ

FIGARO067B.jpgエルトン・ジョンと共演した際のピアノは、カナダの芸術家Terence Kohがデザインしたもので、価格は約30万ポンド約4300万円)。ガガさまは購入したい意向。

FIGARO067C.jpgビヨンセも前半に単独公演並みの素晴らしいショウを展開。

さて、オープニングはミュージック・シーンのみならず、ファッション界も激震させている話題の主、レディー・ガガと、彼女が尊敬するエルトン・ジョンとの共演から。グラミー賞は一昨年の放送が過去最低の視聴率になったそうで、去年から少し方針を変えて、ノミネーションされていないアーティストでも話題性のある人のパフォーマンスを増やすことにしたそう。つまりは視聴率重視のイベントに変わりつつあり、昨年はU2がオープニングで新曲を演奏したり、身重のM.I.A.が歌ったりして注目を浴び、今回一番の目玉は特別功労賞を受賞したマイケル・ジャクソンのトリビュートとなりました。

FIGARO067D.jpg左から、ジェニファー・ハドソン、セリーヌ・ディオン、スモーキー・ロビンソン、アッシャー、キャリー・アンダーウッド。

その内容はというと、彼の遺志を汲んで、最後のツアーで3D上映する予定だった「Earth Song」の映像をを初披露しながら、5人のシンガーがマイケルの歌声と共演するというもの。私は自宅にある3Dメガネで見ても立体化されないことがわかると、しばし目を瞑って聴いていたのですが、どう聴いていても一番素晴らしい、曲の情感を汲み取っているのはマイケルの声で......。5人のうちの1人、アッシャーはポスト・マイケルと言われたほどの逸材なので、彼にダンスを披露してもらうなど、もっとマイケル・ジャクソンの全盛期を想起させる華やかなトリビュートにしても良かったのでは?と感じました。

ito77.jpg3D映像を観るビヨンセとリアーナ。

パフォーマンスだったら、断然P!NKが素晴らしかったです。これは以前オーストラリアまで観に行ったので、その時の模様をコラムに書きましたが、残念ながら日本にはツアーで来ないばかりか、LIVE DVDも日本版として発売されません。ニューヨーク在住のジャーナリスト、中村明美さん曰く、「TVなどで、一般的には今回のパフォーマンスで一番絶賛されています。あの状態であれだけの声が出るなんて本当に素晴らしい、これで、"ダンスが激しいから歌えない"みたいな言い訳が誰も一切出来なくなったと......。リップシンクしているシンガーは見習え、と言われていました。なので、賞は獲らなかったけど、思い切り株は上がっていました」とメールで教えてくれて、実際にLAまでグラミー賞を取材に行っていた友人編集者も、「一番盛り上がっていて、みんなが熱狂していたのはP!NK!!!」と即座にメールしてきたほど。確かに最近女性アーティストに取材していても、尊敬する女性アーティストとして少し前は「グウェン・ステファニー」の名前が挙がっていたけれど、今はもっぱら「P!NKかマドンナ」の場合が圧倒的に多いです。

FIGARO067G.jpg命綱のない、シルク・ドゥ・ソレイユ並みのパフォーマンスで魅了したP!NK。

マックスウェル&ロバータ・フラック、メアリー・J・ブライジ&アンドレア・ボチェッリほか、さまざまな組み合わせでパフォーマンスが行なわれましたが、個人的に印象に残ったのは冒頭のレディー・ガガ&エルトン・ジョン、ビヨンセにP!NK、そしてエミネム、ドレイク&リル・ウェインの本気モード全開のパフォーマンス。また、グリーンデイと、彼らのアルバムから誕生した、現在大評判ミュージカル『アメリカン・イディオット』のキャストとのライヴも迫力が感じられました。ジェフ・ベックは大好きなのですが、今回はレスポールに捧げる演奏で、やや物足りなく......。

FIGARO067H.jpg久々の登場となったエミネムは、気合い十分なパフォーマンスをドレイク&リル・ウェインと披露。

FIGARO067I.jpg07年のトニー賞を『Spring Awakening』で8部門受賞したチームが、グリーンデイの『アメリカン・イディオット』のミュージカルを手掛けているそう。

一方、大好きなスティーヴィー・ニックスが出てきたものの、テイラー・スウィフトと全く歌も声も合っていなくて、リハーサル不足かと思ったほど。しかも現在、歌唱力の面でテイラー・スウィフトは現在ネット上でひどく叩かれていて、今はもう"スティーヴィー・ニックス"についてコメントを求められることも拒んでいるそう。受賞後はとても持ち上げられていたのに、ブログの声にメディアも押されたのでしょうか。

FIGARO67J.jpg論議を呼び起こしたテイラー・スウィフトとスティーヴィー・ニックスの共演。

主要部門は以下の通り。
最優秀新人賞 ザック・ブラウン・バンド
年間最優秀レコード賞 キングス・オブ・レオン「ユーズ・サムバディ」
年間最優秀楽曲賞 ビヨンセ「シングル・レディース(プット・ア・リング・オン・イット)」
年間最優秀アルバム賞 テイラー・スウィフト『フィアレス』

グラミー賞らしく、センセーショナルな話題先行のアーティストよりも、アメリカの魂を感じさせる土着的なバンドや、国民的に人気のあるアーティストや実力者が受賞した結果になりました。R&Bアーティストの作品がヒップホップ寄りになるか、ポップ寄り、もしくはロック・テイストになりがちな昨今、映画『キャデラック・レコーズ』でエタ・ジェームズを演じるなど、最新サウンドを追及しつつルーツも重んじたビヨンセが通算6部門を受賞。カントリー色が強く、ティーンのロールモデルとしても親ウケのいいテイラー・スウィフトは、昨年一番アルバムを売ったアーティストでもあり、4部門を受賞。シングルチャートの全米1位を年間半分を独占したブラック・アイド・ピーズやレディー・ガガのようなパーティ・ミュージックは、なかなかグラミーでは評価されにくいですね。それは、マドンナが長年グラミー賞と疎遠だったことからもわかると思います。

FIGARO067K.jpg過去レディオヘッドやベックなどが受賞した賞を、フェニックスが獲得。

私はTVでしか観ていないので、実際の授賞式はどうだったのかわかりませんが、最優秀男性ポップ・ヴォーカル・パフォーマンスを「メイク・イット・マイン」で獲得したジェイソン・ムラーズや、フランス人として初めて最優秀オルタナティヴ・ミュージック・アルバムを『ウルフギャング・アマデウス・フェニックス』で獲得したフェニックスの受賞シーンも見たかったですね。各部門賞について書き出すとキリがないので、これくらいで。

NY在住のジャーナリスト、中村明美さんのブログhttp://ro69.jp/blog/nakamura

*to be continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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