Music Sketch

フォールズ ライブ@原宿アストロホール

Music Sketch

イギリスのオックスフォード出身の5人組、フォールズの最新アルバム『トータル・ライフ・フォーエヴァー』は、私の今年の上半期のトップ3に入る大傑作です。デビュー・アルバム『アンチドーツ(解毒剤)』も気に入っていて取材もしましたが、このセカンドアルバムは、その50倍くらい気に入っています。アルバム全体で緩急のついた情感の波があり、水深9メートルの中で行われたアルバムジャケット撮影そのままの、孤独も静寂も、安堵感も希望の光も感じさせるサウンドスケープが広がります。その音楽空間に心身を浮かべるように漂っているだけで心地良いのですが、歌詞が気になって中心人物ヤニス・フィリッパケス(Vo.G)が書くフレーズをチェックすると、その詩情溢れる歌詞にも心打たれます。心に想う人がいるからこそ、書ける歌詞なのだと思います。

0630musicsketch2_1.JPG『フィガロジャポン』誌での取材中、写真家の村越元氏と打ち合わせをするフォールズ。

当然ながら今回もインタビューしましたが、記事は『フィガロジャポン』9月号(7月20日発売)に掲載しますので、それまで待っていただければ、と思います。レコード会社からの資料にはヤニスが書く歌詞がアメリカのフューチャリスト(未来学者)であるレイモンド・カーツワイルに影響されたように書いてありましたが、本人に確認すると、「本の中で気になる章だけ少し読んだけれど、反映されるほどではない」とのこと。なので、私は、幼少時に小説家になることを考えていたヤニスが、その時々の心象を独自の言葉を使って描いているのだと解釈しています。

0630musicsketch2_2.JPG5人の見事なコンビネーションで、一糸乱れぬ演奏を展開。 Photo:TEPPEI

ライヴは、ステージと観客がとても近い距離にある原宿アストロホール。新人のライヴがよく行われる会場で、フォールズをこんなに近くで見られるチャンスはこれが最初で最後でしょう。私は30分以上も前に会場へ行き、前列近くをキープしました。

この日のセットリストは以下の通り。

1) Total Live Forever ☆
2) Cassius  
3) Olympic Airways
4) Blue Blood ☆
5) Miami ☆
6) Balloons
7) Alabaster ☆
8) Spanish Sahara ☆
9) Red Socks Pugie
10) Electric Bloom
EC1) The French Open
EC2) Two Steps, Twice    (☆印は最新作から)

ニュー・アルバムの曲は、すでにイギリスで何度か演奏していたそうですが、この日はキーボードとベースの機材の調子が悪く、終演後に話をしたメンバーは不満気味。特にニュー・アルバムではキーボードの音に凝っていたこともあったからでしょうが、でも私は、ライヴはライヴとして楽曲を新たに再構築するものだと思っているので、さほど気になりませんでした。どの曲も緊迫感に溢れ、真剣に演奏する姿からは音楽を探究する彼らの強い意志が伝わってきました。

0630musicsketch2_3.JPGデビュー時に比べ、一気にカリスマ性の増したヤニス。 Photo:TEPPEI

大ヒット曲「Cassius」に代表される、トーキングヘッズやアフリカのポリリズムからインスパイアされた初期衝動に躍るようなロックの疾走感、また、「Red Sock Pugie」や「Electric Bloom」のように圧倒的なビートで前へ押し出していくスタイル。今回はさらにそこへ心の機微が繊細に丁寧に編み込まれ、心の情景を一気に広げていきます。ヤニスはギリシャ人の父親と南アフリカの血を引く母親との間に生まれたそうですが、以前よりも伸びた髭のせいかカリスマ性を帯び、また小柄な彼をフロントに置き、創造性豊かな音楽を展開していくバンドの姿に、同郷のレディオヘッドを思い浮かべてしまいました。

ヤニスが話すことには、「子供のような発想だけど、地元では"僕たちVSオックスフォードの他のバンド"のような対立しているようなムードがあったので、僕らの一体感を高めるために5人が一箇所に集まって自分たちの城を作ってそこに籠もって曲作りに専念したんだ」とのこと。その並々ならない決意がオリジナリティの高い楽曲を完成させ、加えて演奏しながら曲を形成していったことで、自然と演奏力も一気に向上したのでしょう。

0630musicsketch2_4.JPG終盤に向けて、さらにエネルギッシュなパフォーマンスに。 Photo:TEPPEI

ライヴ会場は、そのフォールズの城に日本の熱狂的ファンが招かれたかのような昂奮の坩堝となり、ファンにとっても、もちろん私にとっても忘れられない夜になりました。メンバー曰く、5人を兄弟に喩えるなら、長男はべース担当のウォルターで、末っ子はドラムス担当のジャックだそう。そしてそのジャック、ステージ上ではドラムスを叩きまくって超カッコ良かったのに(編集部Iさんは「カワイイ!」と絶賛☆)、終演後に雑談をしていたら、『となりのトトロ』の大ファンで、キディランドではキティちゃんとトトロのグッズを多数購入したそう。そんなギャップも彼らの魅力なのでしょう。

0630musicsketch_5newest.JPG大傑作『トータル・ライフ・フォーエヴァー』

フォールズはフジロックフェスティバル'10に出演します。今からとても楽しみです。

*to be continued

伊藤なつみ

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
Twitter:@natsumiitoh

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