TAO'S NOTES

【TAO連載vol.28】分断する世界を生きる。

TAO'S NOTES

大統領戦が終わったいまも、アメリカは赤青真っぷたつに分断されている。

右派と左派はともにそれぞれの情報源を「フェイクニュースだ」と批判し、一向に交わっていく様子がない。
日本は幸か不幸か政治や社会問題に興味がない人も多いせいか、アメリカほどのわかりやすい分断とはなっていないが、確実にその傾向が出てきている。

この世界の分断に大きな影響を与えてしまったのは言わずもがなSNSだと思う。

自分が検索したもの、閲覧したもの、「いいね」を押したものなどをAIがまとめ、アルゴリズムを生み出す。結果私たちの目には類似したものばかりが目に入るようになり、対峙するものは目に入りくくなっていく。

SNS上での世界がすべてだと錯覚し、自分と同じ考え方の人と同志を組み、違った考え方の他者を排除して各自の考える「より良い世界」を作ろうとする。

私が最近身近に感じている寂しい分断は、ヴィーガンを推進する人たちとの間にある。

ヴィーガニズムの元来の意味は、「可能な限り動物への虐待や搾取を含まない生き方をする」ことである。ここに最近は後付けで、「本来は気候変動でも健康の問題でも、動物愛護でもない」と付け足す人がいる。

私も順番で言うと、まず動物の権利、そして工業式畜産などの影響から見た気候変動への負荷、おまけで健康にも良い。という順番でヴィーガンの生活を選んでいる。

そして元来の理由に強く賛同している一部のヴィーガン活動家たちは、気候変動の話や健康の話、動物愛護と一緒にされるのを極端に嫌がる人もいる。

健康はさておき、気候変動に対してちゃんと対応しないと、たくさんの動物の命が犠牲になるし(事実気候変動による災害では人間より逃げることのできない家畜動物の方が犠牲が多いし、変化に対応できなく命を落としていく動物は多いとされている)動物愛護ともそこまで対立することないのになー、どちらも賛同してくれればなーと緩めに思っているのだが、先日特に「おや?」と思うことがあった。

日本に帰国していた際、菜食レストランや菜食のオプションがあるところで食事をし、その様子を写真に収めて私のインスタグラムに投稿した。その中にはヴィーガン焼き肉の投稿もあった。

その焼き肉屋さんはもともと普通の牛肉を提供しているレストランなのだが、時代の流れに沿ってか一部メニューにフェイクミートのお肉が頼めるようになっているのだ。私も折角なのでどんなものなのか試してみて、リポートした。

すると後日あるヴィーガン活動家の投稿に、「そんなに食べたいなら通販でもフェイクミートは買えるし、牛が殺されるレストランにお金を落とす必要がどこにあるのだ。そもそも自分はヴィーガニズムを食事の問題だと捉えてほしくない」というようなものが目に入った。

私の投稿に対してなのかなと自意識過剰気味になり、公開処刑のようなこの批判の仕方に少し戸惑ったが、その人がどういう気持ちでそれを発信したのかちゃんと考えてみようと思った。

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動物の権利への尊重がしっかり腑に落ちている人には、フェイクミートを食すること自体おかしいと考えている人も結構いる。私自身はお肉が恋しくて食べているというよりも、いままでの食生活とほぼ変わらないようなメニューを食べることで自分も無理なくすすめられるし、ヴィーガンでない人にも「おいしいしうえに環境や動物にも優しい、しかもヘルシーならこっちの方が良いかもね」と思ってもらいたくてフェイクミートや卵風の料理などを紹介している。

過程はどうあれ、最終的にどちらのタイプも守りたいのは動物の命なわけで、しっかりした信念の人が少なかったとしても、肉の需要が減れば目指すところに近づけるんではないだろうか? 確かに動物性の食べ物を提供する飲食店にお金を落とすのはどうかと思う気持ちもよくわかる。しかしそこに需要があると示し、提供を増やすことも大切な気もしている。

たとえそれが正義だとしても、自分の考え方を押し付けていると、たいていの人は嫌がる。「こっちのほうがいいよ!」という提案くらいのほうが響いたりすることもある。ヴィーガンの思想に対しては多少リラックスして対応できる私も、人種差別や性差別などの問題には「キーッツ!」となって自分の考え方ばかりを主張してきてしまっている。この投稿をした人の苦悩や怒りも、考えれば考えるほど痛いほどわかる自分もあり、考えさせられる一件だった。

また別の精進料理屋に行った時、お話し好きで陽気な女将さんは、「最終的には愛なんだよ、愛! わかるでしょ? 善悪ではなくて、愛があれば差別も動物への虐待も環境破壊も戦争もないんだよ!」と熱弁してくれた。

「私も同じ気持ちです!」なんて言っていた数時間後、おや?と思う話が飛び出した。女将さんはトランプサポーターで、今回の大統領選挙はバイデンが不正選挙の末に勝利したと信じていた。「ニュース見てないんだ?」とまで言われ、それは私の中で上記の「フェイクニュース」だと思ってしまうのだが、ひとまず彼女の主張を聞くことにした。

愛があれば差別はなくなる、戦争はなくなると言っていた彼女は、話の端端に反中国であるような発言があり、だから世界を守れるのはトランプだけ、聖書にもトランプが載っていると言っていた。

どうしよう、そろそろ話を合わせられないなと思っていたその時、彼女は私の手をグッと握って、「私はあなたと喧嘩するつもりはないし、何よりも今日会えたことがうれしいの!」と大きく笑った。

そうか、違う考え方を列挙していったら分断するばかりだけど、同じ考え方を拾っていくことを怠るからお互いを排除しようとするのだ。こんなにも多くの共通点や同じ夢を持っている人がたくさんいる。アプローチや細かい考え方は違ったとしても、大きな目標に向かって手を取り合うことだってできるはずなんだ。

他人の考え方に対し、賛・否の二択ではなく、「理解しようとする」という選択肢を入れる。簡単なようで難しい、不可能そうで実現可能なこの生き方を、より多くの人が実践できたら、さまざまな考え方が混在するこの世の中を統合させることだって本当はできるはずなんだ。と、ナイーブなことを願ってしまっている。

混乱の年が、もうすぐ終わろうとしているいま、今後も他人と考え方で大きく相違することがたくさん出てくるだろう。

闘うべきところは闘いながら、お互いを尊重し、大事な共通点を忘れないように良い年を迎えたいと思っている。

201225-tao-photo.jpg来年も他人に対して、敬意と興味と愛を持って接したい。

TAO

千葉県出身、LA在住。14歳でモデルを始めた後、2013年『ウルヴァリン:SAMURAI』のヒロインとして女優デビュー。以降、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(16年)やドラマ「ハンニバル」「高い城の男」(ともに15年)など話題の映画やテレビドラマに出演。18年はHBOドラマ「ウエストワールド」に出演、日本では『ラプラスの魔女』や『マンハント』が公開され、国内外で活躍の場を広げる。インスタグラムのアカウント@emeraldpracticesでは、バイオダイバーシティや環境問題について投稿。新たにポッドキャストにて「エメラルド プラクティシズ」をスタート、ゲストを迎えてグリーンなライフスタイルへのヒントを発信していく。

※TAOのオフィシャルインスタグラムでは、連載「TAO'S NOTES」で読みたいテーマを随時募集中。コメントまたはDMにてお知らせください。@taookamoto

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