私的に振り返る、オートクチュールとメンズコレクション。

Fashion 2021.02.26

コロナ禍により、引き続きオンラインでの発表がメインとなったオートクチュールとメンズコレクション。新アーティスティックディレクター就任で話題のブランドから、女性にとってもスタイリングの参考になりそうなメンズ、日本でショーを開催した気鋭ブランドまで、ファッションエディターの栗山愛以が、個人的に気になった5つのコレクションをピックアップする。

フェンディ/21年春夏オートクチュール

オートクチュールにおいていちばん注目を集めていたと言っていいのがキム・ジョーンズが初めて手がけるフェンディ。クチュール=豪華絢爛という固定観念もあるからか、落ち着いたトーンでシンプルな印象がする? そんなことを思いながらムービーを眺めているとケイト・モス母娘をはじめとして、錚々たるメンバーが続々と登場。振り返れば、整形後の顔を見慣れていないせいで気づかなかったがトップはデミ・ムーアだった。

ヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』(1928)や、彼女が姉のヴァネッサ・ベルと中心となって作った「ブルームズベリー・グループ」をイメージしたよう。『オーランドー』といえば、2019年ウィーン国立歌劇場でオペラ化されてコム デ ギャルソンが衣装を手がけたのが記憶に新しい。女性へと性転換し、300年あまり生き続ける美少年オーランドーという驚きの設定は、メッセージ性とクリエイティビティの両立を叶えるのに絶好の着想源なのか。フェンディではパンツルックやメイクを施した男性モデルにもそれが反映されていたような。

キャスティングには顔が広いキム・ジョーンズらしさが出ていたが、シリアスで静かなムードはちょっと意外ではあった。

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フェンディの全ルックはこちらから!

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ヴァレンティノ/21年春夏オートクチュール

オートクチュールをオーダーするのはハリウッドセレブか超富裕層。私たちにとっては浮世離れした夢の世界だが、今季珍しくこういう感じ着たいな、というブランドがあった。それがヴァレンティノだ。

いつもながらシルエットは美しいし、これぞオートクチュールという手の込んだ作り。が、くすんだ色調とビビッドカラーの組み合わせや、スパンコールやメタリックの使い方にパンチがある。ゴールドに輝くメイクや、超ハイヒールのシューズもすごい。

現代的だし一見飛ばしているようではあるのだが、エレガンスがあり、会場であるローマ・コロンナ美術館の豪奢な広間にもしっくりきている。テクノロジーを用いた表現を追求するマッシヴ・アタックのロバート・デル・ナジャが手がける音楽とも違和感なく融合していて、まさにキーワードとして掲げられていたように「タイムレス」。クラシックでコンサバティブなコレクションが多いような気がするオートクチュールの中で異色の存在として楽しめた。こちらも男性モデルを起用していて、時代以外にもいろいろ垣根を越えている。

ちなみに、ムービーには、ルックが登場するたびにディテールや素材などを説明する字幕が付いていた。顧客向けかと思われるが、記事を書く時なんかにこのシステムは便利かもしれない。

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ヴァレンティノの全ルックはこちらから!

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プラダ/21-22年秋冬メンズ

21年春夏ウィメンズの話題の中心だったのは、ラフ・シモンズが加入したプラダ。ウィメンズは双方の「らしさ」が合体した「コラボ」という印象が強かったが、続くメンズはラフの専門領域だからか、ラフ色がやや濃いめだったような。

ショーの後はウィメンズ同様質問コーナーが設けられ、2人の意見が合わないことはやらないだとか、ミウッチャさんはピンストライプがきらいだったが今回考えを変えてトライしてみた、だとかまた貴重な裏話を披露。対話コーナーは21-22年秋冬ウィメンズでも継続していた。

まったく着るあてのないメンズにはあんまり情熱を傾けられずにいたのだが、近頃はメンズでもジェンダーレス化が加速し、デザインも豊富になって少しずつ関心を持つように。今回のプラダでは俄然まるで肌着のようなニットが気になった。身体にフィットしたトップ使いはウィメンズやラフ自身のブランドで登場していたので、このシルエットが彼の中でブームなのかもしれない。メンズではコートやジャケット、カーディガンの袖をまくって見せたり、パンツの裾からのぞかせたり、コートやオーバーサイズのニットの下にボトムスとして着たり。ぴったりトップやレギンス類は好きでけっこう取り揃えているのでぜひスタイリングの参考にさせていただきたいと思っている。

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プラダのメンズコレクションをチェック!

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セリーヌ/21-22年秋冬メンズ

先シーズンのメンズの南仏のサーキット場、ウィメンズのモナコの競技場に続き、今回はフランス・ロワール地方にあるシャンボール城が舞台。この1年足らずでいろいろなムービーを鑑賞し、結局のところモデルが歩くという昔ながらの方法がいちばん服が伝わる、ということがわかった。だから広大な場所の一定のコースを周って歩くモデルたちをあらゆる角度から撮影し、ループするキャッチーな音楽に合わせた編集、というセリーヌのフォーマットは映像ならではの表現もうまく取り入れていて、最適なバランスだとつくづく思う。

さて、今回もまた若い世代に焦点が当てられ、90年代のカルチャー、70年代後半から80年代に出現した音楽コールドウェーブ、ゴス、シャンボール城もその代表的な建築である16世紀のフランス・ルネサンスなどの要素が融合している。出演していたモデルたちのような細身の美少年が着てこそ映えるのは重々承知なのだが、ここでもまねしたいポイントを見つけてしまった。それは、黒いアイメイク+白いフリルシャツの組み合わせである。フーディ、ライダース、デニムといったどんなにストリート、カジュアルなアイテムを着ても、このセットがあるだけでひと味違って見える。さらにシルバーの太いチェーンネックレス+揺れるピアスがあればなお良し。

ということで、女性で、さらに十分な大人の自分がそれをやってどんな結果になるのかはわからないが、とりあえずフリルシャツを手に入れねばならないような気がしている。きっと続くウィメンズもこちらにリンクしたコレクションだろうから、そこで女性向けの商品が発表されるのでしょうか。次はお城つながりのどんな広大な場所が選ばれるのかも含めて楽しみにしたい。回廊とか、庭園とかなんでしょうか?!

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セリーヌのコレクションフィルムをチェック!

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ダブレット/21-22年秋冬

最後に取り上げたいのは、パリコレのスケジュールに合わせて日本でショーを開催したダブレット。幸運にもご招待いただき、1月23日、横浜・綱島駅からバスに揺られて20分ほどの指定の場所へと向かった。あたりはすっかり暗くなり、雨が降り注ぎ、気温は1桁。少々暗い気持ちになりながら会場に入ると、工事現場のような所に火が焚かれている。赤い照明もあってなんだか不穏なムードを感じていたところにショーが始まった。

最初に出てきたのは作業服姿のデザイナー、井野将之さん。さっとおじぎをして退場すると、モデルが大勢出てきた。最初に全部見せるやり方? と不思議に思っていたら突如皆後ろに歩き出す。それからひとりずつ後ろ向きでウォーキングするのだが、雨で地面が濡れているしよろよろとして足元がおぼつかない人も。背後ではパワーショベルが車やプレハブ、ロッカーなどをがんがんつぶしていて大騒ぎ。モデルのぎこちない動きや次々とモノが潰される様子を見て吹き出したり驚いたりしているうちに終了。直後に逆再生されたムービーが流れ、ようやく事態が飲み込めた。モデルはおかしな歩き方をしていて、目の前で潰されていたモノは元に戻っていき、なんとも不思議なムービーに仕上がっている。

ダブレットと言えば、ユーモアあふれるものづくり。何度か井野さんの取材をしたことがあるのだが、彼はいつも人を楽しませることを考えている。コロナ禍でオンライン発表にせざるを得ない、という苦渋の決断をした時も、マイナスに捉えるのではなく、サービス精神旺盛な彼はどうすれば面白く見せることができるか、と悩みに悩んだはず。結果、「再生」をキーワードに、遠方に足を運んだショーの観客も、ムービーしか観ることができない海外の関係者も皆楽しめる方法を見つけ出した。演出だけではなく、なつかしいモチーフの採用や、サステイナブルなものづくりなどもすべて1つの言葉に集約させたのもすがすがしい。

コロナ禍においては妥協を余儀なくされたり、気分が落ち込んだり、守りに入ってしまいがち。そんな中、ダブレットは変わらずブランドらしいユーモアを貫き、それを見た私たちは大いに楽しんだ。意表を突くかっこよさで一気に世の中のムードを変えるデザイナーはもちろんクールだが、こんな世の中には特に、人を笑顔にさせる力はとても偉大なのではないかと思ったのだった。

 

 

ダブレットのコレクションをチェック!

 

栗山愛以

ファッションをこよなく愛するモードなライター/エディター。辛口の愛あるコメントとイラストにファンが多数。多くの雑誌やWEBで活躍中。「栗山愛以の勝手にファッション談義。」も好評連載中。

illustrations et texte : ITOI KURIYAMA, photos : Imaxtree

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