シトウレイの東京見聞録

アートってなんだろう。

シトウレイの東京見聞録

ファッションのエキスパートたちの間でアートが盛り上がっているな、とは昨今うっすら感じ始めてて。いままでだったら休日はセレクトショップやブランドのお店をはしごしていたような人たちが、ギャラリーに行ってみたり、香港のアートバーゼルまで遠征もしたり。最近だと、ふもとっぱらキャンプ場で開催されたKAWSのエキシビション『KAWS:HOLIDAY JAPAN』へは、ファッション界隈の人たちが軒並み遠征して楽しんでいた。

いま、ファッションとアートの距離がこれまでになく近づいているのを感じてる。ファッション界隈でアートを語る人たちに、これまでにないアートに対しての興味関心、好奇心を感じるのだ。私の肌感覚的には、それはファッションとサスティナビリティの関係と似てるなぁって。数年前まではエコとかサスティナブルって、なんとなく上辺っ面で言ってるだけの人が多かったのに、一昨年あたりから加速度的に本気で心の底からの共感と責任を持って取り組んでる人や会社が増えている。もはやそうじゃないとヤバい、くらいの空気にすらなってると思う。私がいま感じてるファッションとアートの関係の空気感って、ちょうど一昨年あたりのファッションとエコ&サスティナブルの関係の空気感と似ている気がするのだ。

190930-kenkagami-01.jpgファッション関係者にもファンが多い中目黒のギャラリーVOILLDにて開催されている、西雄大さんの新作個展『COMMA (コンマ)』。

ただここでひとつ問題が! 私自身があんまりアートとかわかんない人だ、ということ。シーンの空気感はキャッチしたものの、そこに参加する知識も教養も、そして何より興味関心が圧倒的に不足しているという事実。

アートって一体なんなんだろう? 興味関心はあるのだけども、わからないってことがもどかしい&なんせ悔しい。それに「アートに興味はない」って言うんだったら、少なくともどんなものかを理解して、納得してからじゃないとフェアじゃない気がする。

190930-kenkagami-02.jpgギャラリーVOILLDの主催であり、キュレーターである伊勢春日さん。展覧会の企画やディレクションを中心に、アートイベントの開催やアーティストマネジメント、広告制作など、多岐にわたるプロジェクトを行う。

わからないことは知ってる人に聞くのがいちばん!ということで、訪れたのは中目黒のギャラリーVOILLD。キュレーターの春日さんに話を聞く。
「アートを好きな人とファッションが好きな人って、わりと近い属性にいるのかなって。ファッション好きな人って、ぱっと見のよさはもちろん、デザイナーの背景だったり、生地や素材、縫製のこだわりに惚れ込んで服を買いますよね。服の奥にあるうんちくが『いいな』って思うポイントになってる。アートも同じで、ファッションみたいにぱっと見で好きってのももちろんあり。それに加えて作品の奥にあるコンセプトとか文脈を知ることで、『おもしろいな、いいかも』って感じるようになったりもするんです。ひとつの作品に対して『いいかも』って思ったらまずはそこからディグってみるといいですよ。どんな作家で、他にどんな作品を創ってるの? それぞれのコンセプトとかは? みたいな感じで、少しずつ興味があるところから深めていくと楽しめると思います。そういう意味では好きなミュージシャンをディグるのと同じ感覚ですね」

190930-kenkagami-03.jpg「現代アートをもっと気軽に幅広い人に楽しんでほしい」という思いから、春日さんが企画したグッズも並ぶ。ステッカーやTシャツなど、アート作品を落とし込んだオリジナルのグッズは、いつかは本物の作品を手に入れたいと願う、若いファン層にも人気。

なるほど、アートの楽しみ方は見た目だけじゃなくて、その奥の背景、うんちく含めての楽しみなんだなっていうのは、春日さんがファッションに紐付けて説明をしてくれたおかげで私は少し腹落ちがする。そしてファッション界隈では、男性の方がアートに興味を持っている理由もなんとなくわかってきた。女の人はわりと見た目のかわいさとか、着てみて似合うって理由で買うけど、男性は服にあるうんちくや背景を重視する、わりとディグるのが好きな傾向にあるというか。ファッションを掘り深め(=ディグる)た、彼らが次に見つけたディグり先がアートなのだ。

「ただ、日本のアートシーンはまだ欧米に比べ『敷居が高い』ってイメージが拭いきれないもどかしさがあって。私はもっと気軽にアートを感じてもらえる場所を作りたくて、ここを作ったんです。カジュアルに行けて、アートに触れられ、買える値段のものもある。ファッション好きな人(で背景やうんちくが好きな層)って、服では5万だとか、お気に入りなら10万円出すこともいとわない気概がある。同じテンションで買える値段のものを揃えたら、アートってもっと彼らの生活の一部になっていくんじゃないかなって。そのポテンシャルはあると思ってて」

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春日さんの話を聞いて、アートを「どう」楽しめばよいかっていうのは徐々にわかってきた。多分これはアートの取説を読んだ段階なんだと思う、我ながら超初心者!

でもまだアートが「何」なのかがわからない。
ということでさらに話を聞きに行ったのは、アーティストの加賀美健さん。

190930-kenkagami-04.jpg現代芸術家である加賀美健さん。企業ロゴや美術史上の名作、ポップアイコンなどを自在に組み合わせ、立体やドローイングなどでシニカルで笑える表現を行う。国内外で作品を発表しながら、代官山でオリジナルアイテムと古着を扱うストレンジストアを経営。

「いままで考えたこともなかったことを考えるようになるきっかけが、アートにはあるんです。たとえば現代アートを始めた人っていわれてるマルセル・デュシャン。便器にサインして、『これはアート作品だ』って言って展覧会に出した人っていえばわかるかな。しかるべき展覧会でサインした便器を見た時、『なんでこの便器がアートなの?』って普通は思いますね。で、その時に頭の中でパッカーン!って気づくんです。『じゃぁ何をもってアートだって自分は考えてたんだろう?』って。それから自分との対話にスイッチするんです。こんな風に現代アートって『あ、自分ってこんな風に物事を捉えてたんだ』とか自分を知るきっかけになったり、作品を通じて世の中の常識って呼ばれているものが案外よく考えるとおかしいなって、常識のバグを知るきっかけにもなるんです。僕の場合は世の中で起こっている、大したことではないけどちょっと考えると変だなってことをユーモアに変えて、それをアートとして表現してます」

190930-kenkagami-05.jpg代官山にあるストレンジストアは、空間そのものが加賀美さんの作品。

たとえば最近。サードウェーブコーヒーが日本で流行って、どこもかしこもコーヒー屋さんになって、コーヒー屋さんを一日何回もホッピングしたり、誰もがお気に入りのコーヒー屋さんについて語ったり、豆のこだわりについて書いたりしてる。加賀美さんの作品で殴り書きで「コーヒーコーヒーうるさい!!」って書いてある作品は、白熱過多のこの状況をクスッと笑っちゃう形で表現してる。
アートという形で表現されると、置かれたいまの状況を客観的に捉えられ、かつ「あ、自分もそうじゃん」なんて気づいて苦笑しちゃったりする。世の中の状況と自分のあり方を考えるきっかけになる。

190930-kenkagami-06.jpgストレンジストアの店内には、加賀美さんがおもしろいと思って集めたさまざまなコレクションと、加賀美さんの作品が所せましと並ぶ。

奥に隠されたコンセプトやメッセージは明示されてなくて、興味を持って作品について考えを深めることにより、加賀美さんの言う「パッカーン!」って瞬間が訪れてようやく何を意図してたかがクリアになる。モヤモヤした視界がスーッと晴れたような快感がそこにはあるんだろう。謎解きゲームとか宝探しみたいだな、と話を聞いて思う。そうかアートって、知的探究心の最高峰なのかもしれない!

190930-kenkagami-07.jpgギャラリーを通さずに直接アーティストから作品を購入できる、という独自のシステム。気軽に手に取ることができる価格帯のものも。

「もちろん、見てピンとこないとかはあると思うんです。音楽でも文学でもピンとくるものとそうじゃないのがあるのと同じだから、まず興味を持ったらたくさんいろんなギャラリーに行って、いろんな作品を見てみるといいかと。そのうちに自分の好きなアーティスト、とか好きな傾向が自分でもわかってくると思うから。そこまできたら『もうアートすごく楽しい!』ってなると思いますよ」

アートってなんだろう。その答えはまだわかんないけど、私は興味がむくむく湧いている。もはや「アートに興味関心はありません」って言ってた自分は過去のもの。いろんなところに行っていろんなアートに触れて、もっと知りたいわかりたい「パッカーン!」の瞬間を体感したい。好奇心が押さえられない。

VOILLD
東京都目黒区青葉台3-18-10 カーサ青葉台B1F
開)14時~19時(水~金) 12時~18時(土、日)
休)月、火 
www.voilld.com

STRANGE STORE
東京都渋谷区鴬谷町12-3-301
不定休
www.instagram.com/store_strange/?hl=ja

シトウレイ

ストリートスタイルフォトグラファー兼ジャーナリスト
日本が誇るストリートスナップのパイオニアであり、独自の視点で捉えた世界のファッションを発信するメディア『STYLE from TOKYO』 を主宰。

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