「DESIGNART TOKYO」から厳選、先端のデザイン+アート。

Interiors 2018.11.12

東京の街をデザインとアートで彩った「DESIGNART TOKYO 2018」。2度目の開催となる今回は、10月19日から28日の10日間にわたって約90の会場で120の出展が行われた。約12万人が訪れた会場から、特に優れた作品をピックアップ。あらためてその作品を追い、東京のデザインシーンのいまを探っていこう。

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べサン・ローラ・ウッドの「HyperNature」。木々の枝にはグラスがかけられるようになっており、会期中はそのグラスを使って来場者にペリエ ジュエのシャンパーニュがサーブされた。photo:©️ Nacása & Partners

今年、「DESIGNART TOKYO」がテーマに掲げたのは「EMOTIONS ~感動の入口~」。デザインやアートの美しさを通じて、観る者の感情に訴えかける作品が多く見られた。色鮮やかなブドウの木でそれを叶えたのが、1811年に創業したシャンパーニュ・メゾン「ペリエ ジュエ」のポップアップバーだ。これまでもフラワーアーティストの東信らとコラボレーションしてきたペリエ ジュエは今年、イギリスのアーティスト、べサン・ローラ・ウッドを起用。その作品「HyperNature」を世界で初披露した。カラフルに彩られたブドウの木を思わせるオブジェは、そこに人が集まりシャンパーニュを愉しむひとときをイメージしたものだという。

「ペリエ ジュエは熟成度によってシャンパーニュの色が違うんです。その透明で力強く美しい色を作品でも表現したいと思いました。枝葉は藤をイメージしたもので、パープルやプラムといった色を使っています。ペリエ ジュエが大切にしているアールヌーヴォーの精神である自然とアート、そして彼らの敬愛するエミール・ガレへの尊敬から作り出した作品です」とウッドは話してくれた。

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動きを取り入れ、心に訴えかける作品が増加。

海外のデザイナーとともに「DESIGNART TOKYO」を盛り上げたのが、日本の若きクリエイターたち。インテリアショップ「リビング・モティーフ」や複数のギャラリーなどでデザインを発信するAXISビルでは、彼らが数多くの作品展示を行った。同ビルの中庭では、テキスタイルデザイナーの氷室友里が「BLOOM collection」を発表。これは氷室が今年の「ミラノサローネサテリテ2018」に出展し、現地でも高く評価された作品だ。織りの構造からデザインに挑む氷室は、本作において表裏で柄を変えつつ、花や葉、茎などを異なる織り方で表現。1枚の布に複雑な表情を生み出した。モノトーンの空間に氷室の美しい植物が加わり、会期中は花園のような華やかさに満たされていた。

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AXISビル中庭に設置された氷室友里の「BLOOM collection」。倉俣史朗がデザインしたことで知られる階段をはじめ、吹き抜けの随所に布をかけ、色鮮やかな空間に変容させた。photo:©️ Nacása & Partners

一方、リビング・モティーフでは建築家の沖津雄司が作品「focus」を展示。これはモビール状に吊られた複数のレンズがさまざまな光を集め、そして拡散するというモビールのようなオブジェだ。同時にそのレンズは風景を切り取りながら、室内に漂う風とともにわずかに揺らぐ。1日を通じて刻々と変化するその姿はまさに感情に訴えるもので、今回の「DESIGNART TOKYO」が掲げるテーマを体現する作品のひとつとなった。

またデザインスタジオのYOYもこれまでにミラノサローネで発表してきた作品を中心に展示。一見してもその仕組みがわからないような照明や時計など、彼ららしいユニークなプロダクトで来場者を楽しませた。

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沖津雄司の「focus」。白いフレームに二枚のレンズがはめ込まれ、フレーム内部の照明で光りつつも、内外の風景をレンズに写し込み不思議な風景を作り出した。photo:©️ Nacása & Partners

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YOYの作品「PAINT」。光をペンキで描いたかのような照明。消灯時は真っ白なキャンバスになるが、光を灯すとペンキのかすれや筆跡が現れる。photo:©️ Nacása & Partners

沖津やYOYのように、キネティックな作品は年々増加傾向にある。ウォッチブランド「グランドセイコー」が、「ミラノデザインウィーク2018」で発表したインスタレーション「THE FLOW OF TIME」を東京で初披露。展示内でデザインスタジオ「TAKT PROJECT」による自然界の時の流れを映像で表現したインスタレーション作品を展示。モチーフにはグランドセイコー独自の機構があり、その時という壮大な体験はミラノに続き、東京でも多くの来場者の心を掴んだようだ。

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TAKT PROJECTによるインスタレーション作品「Approach to TIME.」。時計のムーブメントのパーツが浮かぶ12体のオブジェに「流れる時」を表現した映像が溶け込んでいく。photo:Daisuke Ohki

空間デザイナーの吉添裕人は「B&B Italia Tokyo」のショールームで「PIXEL」を発表。吉添が開発した、“くの字型”に曲がった筒状の構造体を重ねたオブジェに、映像を投射するビジュアルインスタレーション作品として発表された。スクリーンとしてもオブジェとしても機能し、インテリアにおける作品の可能性を提示する。

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吉添裕人による「PIXEL」。建築の構造体としても活用をできる、くの字型の筒を重ねてスクリーン状に構成。プロジェクターから映像を投射してインスタレーションを展開した。photo:©️ Nacása & Partners

また異色の展示として、建築家・プロダクトデザイナーの板坂諭がフレッドペリーショップ東京で発表した「Neba Chair」にも着目したい。一見するとアノニマスな椅子のように思わせるシンプルな形状の椅子が、いくつもの樹種で並べられているように思える。しかし椅子とともに提示されるのは、それぞれの木材の産地が抱える問題や課題。素材違いの多様な椅子にはそれぞれに違う背景と問題があり、それを浮き彫りにすることで、家具に限らずさまざまな製造物の背景、ひいては私たち自身の暮らしをもあらためて考えさせる展示であった。

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板坂諭がフレッドペリーショップ東京で発表した「Neba Chair」。それぞれの木材の産地が抱える問題が椅子とともに掲示されている。photo:©️ Nacása & Partners

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表現のエッセンスとして取り入れる、職人技の美しさ。

いま多くのデザイナーがアート性とともに指向するのが、クラフト的なアプローチだ。アバハウスで展示を行ったイタリア人建築家・デザイナーのラウラ・サッティンは、ムラーノグラスの吹きガラスに着目し、ガラス職人による金型なしのフリーブローの作品を制作した。

「伝統的な技術と新しいデザインを静かに融合させることで、なにが生まれるかを模索しました。ムラーノのガラスはグラフィカルでアート性が高いものが多いのですが、その技術を用いて普通の形をつくり、日々使うガラスを作れないかと考えたのです。アートとクラフトの中間を目指しました。作品のひとつは『MokaSake』と名付けていますが、これはコーヒーも飲めて、日本酒も楽しめる器として考えています。いまの生活に沿った美しいものを、三人の職人とともに探っていった作品です」とサッティンは話す。

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千葉大学にも留学していた経験をもつラウラ・サッティンのムラーノガラス作品。古典的な手法と新しいデザインを組み合わせている。現在はスイス在住。photo:©️ Nacása & Partners

一方、スウェーデンのガラスアーティストであるサラ・ルンドクヴィストは、ボルボ スタジオ 青山で人工的でありながら自然界から生まれたオブジェのようにも思えるガラス作品を発表した。いつまでも見飽きることのない複雑で美しい表情のオブジェだけに、もう少し繊細な展示空間であればよりよかったであろうと悔やまれる。

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サラ・ルンドクヴィストのガラス作品。水晶のような作品から幾何学や不透明なオブジェなど、多様な技術を用いて作品を制作している。photo:©️ Nacása & Partners

自然物を思わせるプロダクトの可能性としては、荒川技研工業 「TIERS GALLERY」で行われたワイヤー固定金具を使ったデザイナーのグループ展「Experimental Creations」で発表された村越淳の「EQUILIBRIUM」にも注目したい。金具の特性とワイヤーの張力を活かし、不規則な形状を描くユニットを木材で覆うことで自然の枝物のようなモビール型のオブジェを制作。どこか生け花のような佇まいは実際の商品化も今後期待できるだろう。

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自然の枝のような形状を描いたワイヤー固定金具を木でカバーリングした村越淳の「Equilibrium」。photo : Junya Igarashi

また、「DESINGART」とは別に開催されたデザインイベントではあるが、ミラノサローネで高評価を得たプロダクトデザイナーの岩元航大はアディダス オリジナルス フラッグシップストア トウキョウで「UPCYCLED MATERIAL LABORATORY」展を行なった。岩元は廃棄された塩ビ管に熱を与えて花瓶を作るという一連の作品をアップデートし、これまでにないフリーフォームな作品を実際に会場で制作。安価な工業製品をクラフトのアプローチで再生させるアプローチは、今後も楽しみだ。

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塩ビ管を素材にした岩元航大による展示。photo:Satoshi Watanabe

巧みな職人技を取り込んだのが、プロダクトデザイナーの鈴木啓太がフリッツ・ハンセン青山本店で発表したガラススピーカー「exponential」。ハンドメイド・グラスウェアなどで知られる菅原工芸硝子とともに制作した色とりどりのガラスは、内部の空洞にスマートフォンなどを置くと音が反響してスピーカーになるというもの。フリッツ・ハンセンから復刻されたばかりのポール・マッコブがデザインしたテーブルに置かれた色とりどりのガラスが、サカナクションの山口一郎率いるNFとのコラボレーションにるサウンドインスタレーションで美しい音を奏でた。

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鈴木啓太の「exponential」はくぼみにスマートフォンを入れて音を鳴らすと、スピーカーとして機能する。そのままオブジェとして置いておくのもいい。photo:©️ Nacása & Partners

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アートと生活、アートと社会の関係を提示。

アートを暮らしに取り入れるためには――。その可能性の模索もまた、「DESIGNART TOKYO」の目指すところだ。東京ミッドタウンの「TIME & STYLE」は、スウェーデンの建築ユニット、Claesson Koivisto Rune(クラーソン・コイヴィスト・ルーネ。以下CKR)とともにアートと家の関係性を探った。

CKRは以前に設計したアートコレクターの住宅を再訪し、オーナーとともにその家の暮らし、時間を見つめ直したという。それをきっかけに「TIME & STYLE」とのコラボレーションで9つの新たなオブジェクトを考案し、制作。その展示を行なった。家具から小物まで、日本のメーカーなどとともに作られた端正なプロダクトはもちろん、住宅をあらためて見つめ直し、そこにさらなる豊かさを加えていく彼らの手腕に、あらためて驚きを覚えた。

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TIME & STYLE で行われたCKRの展示。実際の建築をもとに、そこからアートと生活のさらなる融和を考えられたプロジェクト。日本のメーカーも数多く参加している。 photo:©️ Nacása & Partners

最後に紹介するのは、建築家の永山祐子がパートナーでもあるアーティストの藤元明とともに発表した大型インスタレーション「2021#Tokyo Scope」だ。永山と藤元は東京という都市に引かれたさまざまな軸線を見つめ直し、絶えず変化するこの街をあらためて見つめるきっかけとなる、巨大な鏡面の焦点を制作した。直径7m、奥行き17mの巨大なバルーンは街とともに、この街のまだ見えない未来をおぼろげに映し出す。デザインとアートを通じて見える未来は果たしてどのようなものか。ふたりの社会的な眼差しは、イベントそのものを骨太なものにする視点とアクションが込められたものだった。

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建築家の永山祐子がアーティストの藤元明とともに発表したインスタレーション「2021#Tokyo Scope」。青山通りに面して巨大なバルーンで東京の都市軸を再認識させた。photo:©️ OMOTE Nobutada

プロダクトやインスタレーションなど、さまざまな視点で東京の街を彩った「DESIGNART TOKYO 2018」。次なる挑戦はどのようなものになるか、期待して待ちたい。

réalisation : YOSHINAO YAMADA

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