皆川 明×MARUNI×Kvadrat、「詩」から生まれるインテリア

前回のコラムから時間をあけてしまい、気づくと年末になってしまいました。秋にはロンドンで開催された第1回「ロンドン・デザイン・ビエンナーレ 2016」で日本公式展示のキュレーションに関わったり、その後も都内で展覧会を行なったり、お伝えしたいことは山のようにあるので、順に紹介していきたいと思っています。

その前にきょうは、世界でも愛されている家具のメーカー、マルニ木工のショップ「マルニ東京」に関する情報を。ミナ ペルホネン(minä perhonen)の皆川 明さんとインテリアのお話です。

まずは12月25日のクリスマスまで開催されているワークショップのお知らせを。ミナ ペルホネンのインテリア・テキスタイル「dop」の余り布を用いたクリスマスオーナメントのワークショップが開催されています。皆川 明さんがデザインしたオーナメントの型は、クリスマスツリーや雪だるまなどの4種類。好きな布とお気に入りの型を選んでオーナメントをつくる時間をぜひ楽しんでください。

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オーナメントづくりのワークショップ。詳細は文末をご覧ください。Photo © Maruni Wood Industry Inc.

皆川さんとマルニ木工の出会いは2013年、「『ふしとカケラ』 MARUNI COLLECTION HIROSHIMA with minä perhonen」で注目を集めました。プロダクトデザイナーの深澤直人さんがアートディレクターを務める「MARUNI COLLECTION」のひとつで深澤さん自らデザインを手がけたチェア「HIROSHIMA」を、通常は製造工程で排除されてしまった節(ふし)のある木材とミナ ペルホネンの余り布を張り地に用いたプロジェクトです。

「愛情とは、そのものの『欠点』を愛してあげることから始まる」。「ふしとカケラ」をスタートしたときにそう実感したと皆川さんは述べていました。

「自然物が時のなかで刻んだ痕跡をものの欠点として見るのではなく、その痕跡に思いを馳せ、むしろ愛着の証にすること。節は木が生きてきた記憶で、洋服づくりで余った生地にも時間がしっかりと込められています。そして、それぞれ異なる節や不揃いのパッチワークは、自分だけのものとなります。背景にある考え方はとても大切なので、これからも継続していきたいと思っています」

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2013年、2015年に開催された特別展「ふしとカケラ」に続いて今年も注目を集めた11月伊勢丹新宿店での「Barabara Lovers. MARUNI COLLECTION with minä perhonen」。Photo: Noriko Kidera

興味深いプロジェクトを重ねてきたミナ ペルホネンとマルニ木工。さらにそこにデンマークのテキスタイルメーカー、Kvadrat(クヴァドラ)も加わってのプロジェクトも、先日披露されました。

「MARUNI COLLECTION with Akira Minagawa for Kvadrat」です。皆川さんデザインのインテリア・テキスタイル「Akira Minagawa for Kvadrat」を発表しているクヴァドラ社の新作コレクションをマルニ木工の家具に用いるという、これもまたスペシャルなコレクション。

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マルニ東京で行なわれた展示の様子。クヴァドラのテキスタイルを用いた皆川さんデザインのオブジェのインスタレーションが登場しました。Photo © Maruni Wood Industry Inc.

このコレクション展示中に開催された皆川さんのトークイベントで、私はお話の聞き手役としてご一緒させていただく機会をいただきました。自分がマイクを手にしていることを忘れてしまうほどに気になるお話ばかりで、楽しくうかがっているうちに1時間があっという間に過ぎてしまったなあと感じられたほど……!そのときの皆川さんのお話もぜひ皆さんにお伝えしたいと思います。

皆川さんとマルニ木工との出会いはさきほど触れた通りですが、クヴァドラとの出会いは、2006年。デンマークのフリッツ・ハンセン社を訪ねた際、同社社長に皆川さんの仕事やテキスタイルを紹介したところ、クヴァドラに会いに行くことを薦められ、その場でクヴァドラのCEO、アンダース・ブリエルさんに連絡をしてくれたのだとか。

「コペンハーゲンに戻って、SASロイヤルホテルのロビーでアンダースさんにお会いしました。ここでも自分の仕事について紹介したところ、デザイン・ディレクターに会ってほしいと言ってくださいました。デンマーク エーベルトフトにある同社のオフィスは窓の外には海が広がり、庭を手がけたのはアーティストのオラファー・エリアソンです。環境を大切にしていることが伝わってきました」

「そこで会ったデザイン・ディレクターのアンネが、僕のデザインから『タンバリン』を選んでくれました。ナナ・ディッツェルさんが手がけたクヴァドラのファブリック『ハリンダル』にタンバリンの刺繍が施されることになり、コペンハーゲンにあるディッツェルさんのご自宅にうかがい、ご本人にもお会いしました。とても大切な思い出です」

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クヴァドラから発売されている「Tambourine Hallingdal」。Photo: Noriko Kawakami

このように出会いが次々連なりながら始まった「Akira Minagawa for Kvadrat」のコレクションから、今年新たに発表されたテキスタイルは3種類、「Crystal Field(クリスタル・フィールド)」と「Forest Nap(フォレスト・ナップ)」と「Stick Tree(スティック・ツリー)」。

これらのなかから「クリスタル・フィールド」と「フォレスト・ナップ」が、MARUNI COLLECTIONとして深澤直人さんがデザインした「HIROSHIMA」と「Roundish」、ジャスパー・モリソンさんがデザインした「Lightwood」「Bruno」に用いられることに。この嬉しい展開に注目ください。

ざらっとした表情が印象的なクリスタル・フィールドは「霜柱」をイメージしてのデザインだそうです。「霜柱がはった地面を歩くとざくざくという音がする光景を、クヴァドラの皆さんと話をしました。グレーなど静寂の街に朝もやがかかったような色です」。今回、MARUNI COLLECTIONのための色にはブラウン、パープル、グレーの3色。家具とあわせられることで、幻想的で美しい織りの魅力が一層楽しめることを実感します。

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「クリスタル・フィールド」。家々や畑の風景のような造形のパッチワークのようにも見えるテキスタイルは霜柱のイメージからデザインされたものだそうです。柄に感じた空間の奥行き感。話をうかがい、霜柱を踏んだときの「ざくっ、ざくっ」とした感触と重なりました。Photo: Courtesy of Kvadrat

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「クリスタル・フィールド」を用いたソファ「Roundish」。Photo: Yoneo Kawabe, © Maruni Wood Industry Inc.

シンプルでプレーンな織地の「フォレスト・ナップ」は18種類もの色が用意されており、どの色とどの色が同じ空間で出会っても美しいように考えられています。今回、MARUNI COLLECTIONの張り地としてセレクトされたのは、ブラウン、パープル、ダークグリーン、ペールピンクの4色です。

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「フォレスト・ナップ」。Photo: Courtesy of Kvadrat

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マルニ東京でのインスタレーション。「FOREST COMES HOME.」には「forest」と「for rest」の2つの意味が。皆川さんの詩がここにも。「森のなかにはさまざまな色が点在し、調和もあれば対比も、静寂もパッションもある。森を歩くように色を感じてもらいたいと思いました」。Photo © Maruni Wood Industry Inc.

「インテリア・テキスタイルのプロジェクトでは、どのような景色に想起されてその柄に至ったのか、なぜその色にしたのかということやテキスタイルとしての物性を同時に話します。テキスタイルはグラフィックの面だけではありません。重さや重力、張りやドレープ、触れたときの印象もあり、摩擦との関係もあります」。それらと柄の背景にあるストーリーの双方がまさに織り込まれる。それがテキスタイルの大きな魅力です。

さらに家具に用いられることでの醍醐味も。「MARUNI COLLECTIONでは家具をデザインした深澤さんジャスパーさんやマルニ木工の皆さんの想いに共感しました。関わる皆さんの想いを読みとくのはとても楽しいですね。想いの『深度』に共通するところがあり、そこから生まれる。これもまた家具の大きな魅力です」

「この仕事をしていて嬉しいことは、ある家族の時間はもちろん、次の家族に引き継ぐように長く使ってもらえる家具がつくれること。自分の時間で、自分の人生よりもはるかに長い生命のものをつくれるということです。僕たちはつい『ものを消費する』と表現してものが自分の人生を通過するような錯覚を持ってしまっていますが、実は逆で、何千年という樹齢の木もあります。そうした長い時間を借りてつくるものが自分たちより短い生命であってはいけないと考えています」

「つくり手がこうして最善を尽くせる時間をもらえることも、社会の仕組みとしてとても良いなあと思います」と、すばらしいコラボレーションであったことが伝わってくるひとことも。

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Photo: Yoneo Kawabe, © Maruni Wood Industry Inc.

印象的だった皆川さんのもうひとつのお話も、ぜひ記しておきたいと思います。「僕のデザインはいつも、詩からはじまります」と。

「絵画を描くことにも似ています。生活のなかで共感してもらえる部分を皆さんに見つけてもらうことになるので、僕自身が想像の世界を広げることが大切だと思いました。デザインでは『型』を定めず、得意技を持たないことも重要で、でも、手が覚える経験値はどんどん自分というものに凝縮されてきます。頭のなかはどこまでも自由に、手の経験は積まれていく……そのバランスでデザインをしていきたいと思っています」

「共に暮らす仲間のような存在であってほしい」と皆川さんが述べるインテリア。それに深く関わるテキスタイルデザインの奥底に流れる本人の大切な考えに触れることのできたこの日、感慨深いものがありました。

詩をはじまりとして丁寧に考えられたテキスタイルデザインの数々と、同じく時間をかけて考えられ、つくられた家具。だからこそ、その先にさらにさまざまな詩が生まれていく。デザインの限りない魅力が、「MARUNI COLLECTION with Akira Minagawa for Kvadrat」から伝わってきます。

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皆川 明さんとマルニ木工の山中 武社長。Photo: Noriko Kawakami

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クリスマスオーナメントをつくるワークショップ

会期: 12月25日(日)まで、10:00~17:00 (水曜日は定休日)
参加費:ひとつ¥500円(税抜)

ミナ ペルホネン「dop」の余り布で皆川 明さんデザインのクリスマスオーナメントをつくるワークショップ。どなたも気軽にお楽しみいただけます。
事前申し込み不要です。直接マルニ東京までお出かけください。


「MARUNI COLLECTION with Akira Minagawa for Kvadrat」

クヴァドラのテキスタイルを組み合わせたスペシャルコレクションは引き続き購入可能。クッションをはじめとする限定版アクセサリー・コレクションも販売中。

マルニ東京

東京都中央区東日本橋3-6-13
 TEL 03-3667-4021
水曜日定休日
www.maruni.com/jp/

 

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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