「誰かのために」活かされた知恵・提案。
注目したい24組が集ったデザイン展です。

企画に関わったデザイン展が昨年10月末に開幕しました。開幕直前の準備とその後のイベントに没頭しているうちに、このコラムもすっかりお休み状態になってしまって、ごめんなさい......!
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

「活動のデザイン展」と題した展覧会で、会場は東京ミッドタウン・ガーデン内にある21_21 DESIGN SIGHT。来週2月1日(日)までの開催です。

展覧会のディレクション(キュレーション)を、フィガロでも「ストックホルマレ・デイズ」を連載中、ストックホルム在住の横山いくこさんとの共同で行いました。すでに横山さんが展覧会について紹介してくれていましたね!

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「PET Lamp(ペット・ランプ)」。スペインのデザイナー、アルヴァロ・カタラン・デ・オコンが始めたプロジェクト。各国の手しごとでランプシェードを制作。PET Lamp、日本ではシボネ(http://www.cibone.com)での販売が決まったところです。Photos:Masaya Yoshimura

1階、エントランスで紹介しているのは(上の写真)、コロンビアとチリの手仕事でつくられたランプシェード。このコラムでも以前に紹介した「ペット・ランプ」、念願かなってついに日本で紹介することができました。階段を降りたところでは、京都の竹細工作家による竹のシェードによる最新のペット・ランプの試作品も見ていただけます。開幕直前に京都から届いた貴重なものです。

そして、展覧会ポスターの写真でもある「ロースさんのセーター」。ロッテルダムのなかでも160か国からの移民が集まるシャロワー地区に暮らすロースさんが、60年にわたり編み続けた500枚以上のセーターの一部、60枚を紹介しています。展示ではこれらのセーターの背景、発見のいきさつをぜひ知ってほしくて......。

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ロースさんが編み続けたセーターの色、柄には驚かされます! Photo:Masaya Yoshimura

ご近所との交流もなく、セーターを贈る相手も身近にいないロースさん。ひとり半世紀以上セーターを編み続けては、そのまま押し入れにしまい続けていた......。それがなぜ発見(発掘!)されたのかというと、「文化とは、アーティストやデザイナーなど特定の人々だけのものではない」との持論で、100以上の文化背景をもつこの地区の「社会、文化の変容のあり方の調査、保存」を目的としたミュージアム・ロッテルダムの活動によってでした。

地元のデザインスタジオ、ヴァンスファッペンとデザイナーのクリスティン・メンデルツマの発案で、「地元の大切な文化」となるロースさんの長年の手仕事をたたえるフラッシュ・モブ(サプライズ・イベント)が企画され、これまでただ眠っていたセーターに、初めて人の手が通されることに。

大勢の人々が通りに集まることなどありえなかったシャロワー地区でのイベントの様子をおさめた映像は、展覧会会場でも紹介しています。そこに映ったロースさんの、とっても嬉しそうな表情。この映像を目にしていると、身近に目を向けるとの大切さ、文化の意味、デザインの面からできる活動......などなど様々なことを考えてしまいます。

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壁には、クリスティン・メンデルツマのデザインでロースさんのセーター556枚を納めた本を紹介。Photo:Masaya Yoshimura

日々の生活、身近なところに目を向けた他のプロジェクトとしては、自家製パンをつくる際に用いる「天然パン酵母」を集めた「リビング・アーカイヴ」もあります。スウェーデンのデザイナー、ジョゼフィン・ヴァリエのプロジェクトで、それぞれに手間をかけ、工夫して大事に育てている酵母を乾燥させ(生きた状態で)アーカイヴする、というもの。

手間をかけて育てているパン酵母は、その家の、そしてその人の「知恵が詰まったもの」。持ち主が綴った「自分にとっての酵母の価値」「酵母のストーリー」も大切なアーカイヴとなっています。人々の知恵の凝縮である酵母が生き方のヒントとなる、と考えて、人々の知恵や気持ちとして共有し、交換する機会もジョゼフィンはつくっているのです。

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ジョゼフィン・ヴァリエの「リビング・アーカイヴ」、展示風景。Photo:Masaya Yoshimura

ちょっと異なる類の作品も紹介しましょう。世界にまだ1億以上残されていると言われる対人地雷。それを撤去する装置の提案である「マイン・カフォン」は、アフガニスタンに生まれ、現在はオランダ、アイントホーフェンを拠点とするデザイナー、マスード・ハッサーニによるものです。

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マスード・ハッサーニ「マイン・カフォン」。Photo:Masaya Yoshimura

風で転がり、地雷を検知すると同時に、その重みで地雷を爆発させる、という発想です。その地雷があった場所は、中央部に備えられたGPSで記録されて次に役立てられます。低コストでつくれること、地雷が残る地域の方々が自分たちで手入れできるものであることも大切な点。実はこれ、マスードが子どもの頃に遊んでいた「風で転がる自作のおもちゃの記憶」を原型として考えられたものなんです。

生まれ育った国の課題を今まだ残る世界の課題に結びつけること。それも、子ども時代のおもちゃという身近なところと結びつけながらの提案です。地雷撤去装置の実現に向かうマスードはさらに装置の開発を継続中、いまは次段階の地雷撤去装置に取りくんでいます。余談ですが、マスードは最近、お母さんとアフガニスタン料理の本を出版したそう! 今後も気になるデザイナーです。

さて、展示にはジュエリーもあるんです。ペットボトルで、それも砂漠でつくられていて......。フランス生まれのデザイナー、フローリー・サルノットのプロジェクトです。誰と、どうつくっているのか、会場でぜひご覧くださいね。

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フローリー・サルノット「プラスチック・ゴールド」。Photos:Dominic Tschudin

海外のものは日本初紹介のプロジェクトばかりで、他もこのための新作が揃っています。展示のなかでは、誰かの日々の「お悩み」を解決するプロジェクト(フィックスパーツ)も含んでいます。会場後半では私たちの未来に目を向け、問いかけをするデザイナーのプロジェクトも紹介しています。

幅広い作品ですが、共通するのは、他の誰かのためにさしだされる知恵であり、課題を解決しようとする姿勢であったり。私たちのこれからを真剣に考えようとする問いかけだったり。たとえ個人であっても、それぞれに思いを持って始めている動きであるということ。

横山さんと考えた展覧会の英語タイトルは、「The Fab Mind」。一人ひとりのすばらしい(ファビュラス/fabulousな)思考こそが活動の原動力となっていきます。また英語サブタイトルで添えたように、変わりゆく社会におけるこれからのヒント(Hints of the Future in a Shifting World)になっていくと考えました。

今週末には横山さんが再び来日、1月25日と1月31日には私たちが会場をご案内するギャラリーツアーも予定しています。ご興味のある方はどうぞおでかけください。会場でお会いしましょう!

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ここからの写真2点は会場で体感していただきたいのであえて説明をしないでおきます(笑)。POSTALCOを主宰するマイク・エーブルソンさんの作品「考える手」。触ってください。Photo:Masaya Yoshimura

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こちらはのぞいてみてください。会場をより楽しむために、と、制作してくれた作品なのです。建築家の大西麻貴さんと百田有希さん/o+h「望遠鏡のおばけ」Photo:Masaya Yoshimura

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メインビジュアルは「ロースさんのセーター」です。Photo:Masaya Yoshimura


「活動のデザイン展」〜2月1日(日)
21_21 DESIGN SIGHT(東京ミッドタウン・ガーデン内)
TEL 03-3475-2121

1月25日(日)、31日(土) 
ギャラリーツアー 13:00-14:00/15:00-16:00

2月1日(日)
フィニッサージュ(クロージングイベント)
私たちの他、国内の参加作家が会場に。

展覧会詳細、イベント詳細は以下をご覧ください。
http://www.2121designsight.jp/program/fab_mind/index.html

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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