カイロス的に。時間を手のなかに。
"POSTALCO for「超」整理手帳"

アコーディオン式の折りたたみカレンダーで、ひと折が1週間分、カレンダーを広げると一面全体で8週間分の予定を目にできる「『超』整理手帳」。経済学博士、野口悠紀雄さんの考案で1995年に発売がスタートし、根強いファンのいる手帳です。

ビジネスエグゼクティブ愛用ツールでもあるこの「超」整理手帳とPOSTALCO(ポスタルコ)とのコラボレーションとなる品が、新たに誕生。先週、POSTALCO ショップでお披露目があり、デザイン・ジャーナルにも何度か登場いただいているマイク・エーブルソンとエーブルソン友理さんが説明をしてくれました。

1_kawa100810.jpgPOSTALCO for「超」整理手帳。POSTALCOらしいケースと、組み合わせて使うカレンダーやオリジナルのノートブックやペーパーなど。Photo: Courtesy of POSTALCO


ただいま8月。年末をなかなか考えにくい蝉しぐれのなかに本日、私もいますが、長期ヴィジョンのうえで日々を満喫している読者の皆さんは、すでに来年に目を向けているのでは......。そうした方々にまさにおすすめしたい「超」整理手帳のPOSTALCO版。その名も、POSTALCO for「超」整理手帳、です。

「野口先生のラボからコラボレーションの話をいただいて、でも、すぐにつくることはしなかったんです。まずは、『超』整理手帳を1年間使ってみました」。デザインに関する具体的な説明の前に、そんな話を聞きました。

プロトタイプづくりを重ねながら改良を加えていくのがPOSTALCOの制作プロセスですが、「1年間使って」には、さすがに私もびっくりです。「(使ってみて)スケジュールを時間の中に見失わない、最上の方法だと確信しました」。その体験をふまえたうえで、デザイン作業に集中。デザインの話以前に、彼ら独自の作業時間の感覚がいつも興味深い。

2_kawa100810.jpg京橋のショップで行われた新製品発表会では、冷えたレモン水ときゅうり水で迎えてくれました(きゅうり水、おいしかった......!)。バイヤーの方々など、ステーショナリーのプロ中のプロに出会えるのも、POSTALCO発表会での私の楽しみです。


3_kawa100810.jpg今回のデザインを始める前にマイクが1年使った従来型「超」整理手帳を拝見。
Photo: Noriko Kawakami


そうして完成したPOSTALCO for「超」整理手帳では、このカレンダーの基本フォーマットをふまえながら、レイアウトや色などが新たに考えられています。カレンダーには時間を表示する数字がありません。朝型の人がいれば夜型の人もいて、ライフスタイルが様々になっている現代、「使う人が自分の時間帯を記入して」との配慮から。

六曜などの情報もいさぎよくカットされ、その分、メモスペースに。用紙はPOSTALCOらしい無漂白パルプの紙。環境にやさしいだけでなく、しっかりとした手ざわりと記入のしやすさも特色です。カバーは3色、ブラック、コバルトブルー、ダークレッド(ダークレッドのみ「超」整理手帳Web SiteとPOSTALCOショップでの販売)。

5_kawa100810.jpgPOSTALCO for「超」整理手帳の折りたたみカレンダーと野口悠紀雄氏『「超」整理法』(1993年)。この本が発行になったとき、私も読みました。時間軸で検索する整理法。デジタルツールが普及した現在も役に立つ本質的な話が詰まっています。


ところで、「手帳」と聞くと、時間の使い方や時間の経過について思わず考えてしまいます。「時間」って何? と考えるのは本当におもしろい。一方向に直線的に流れている......と私たちの大半が思って(信じて)いる時間ですが、文化人類学者のエドワード・T・ホールが指摘していたように、文化によって様々な時間の流れがあるのです。

複数の用件が同時に進められ、その時どきの関係で風船が膨らんだり縮んだりするように状況が変化するポリクロニック型社会があれば、ひとつひとつを順に効率よく済ませていくモノクロニック型の社会もある。時間はぐるぐると円を描くように循環していると考える文化があれば、うねうねと蛇行していると考える文化もある。

ちょうど、『考える人』(新潮社)の最新号(夏号)で、文化人類学者の西江雅之さんが「時間」について書かれています。一方、物理学における「時間」の議論はまた異なっていて、こちらの最新情報は『日経サイエンス』最新号(9月号)に掲載されていました。「時間は実在するか?」。こちらは、時間は幻? というエキサイティングな記事。

そして今回、マイクもプロジェクトの紹介にあたり、時間の概念に触れていました。彼が述べていたのは、ギリシャ哲学の、2つの時間の概念......。

「ひとつは、クロノス的な時間。時計の秒針のようにチクタク刻まれる時間。もうひとつは、カイロス的な時間。タイミング次第で伸びたり縮んだりする」
「時間をコントロールするには、アナログ的に時間を見ること。そして、時間を手におさめるサイズにすること。いうならば、クロノスからカイロスへのシフト」

6_kawa100810.jpgPOSTALCO for「超」整理手帳」。カレンダーカバー クロスグレイン。A4サイズの紙を4つに折るとちょうど納まる9.5×22.5cm。スリムで美しいプロポーション。背面にペンさし、内部に2つのカード入れがあります。Photo: Courtesy of POSTALCO

kawa100811さしかえ写真.jpgウィークリーカレンダーは各自のライフスタイルにあわせて時間を書き添え、使用します。折りたたみ式でコンパクトになるので、毎年の記録を保管しておくのにもよさそう。今回発売されるカレンダーは、2010年11月15日〜2012年1月5日。Photo: Courtesy of POSTALCO

7-4_kawa100810.jpgカバーに組み合わせて使う用紙には他に、1mm方眼のピングラフのノートブック、ジャバラ式のピングラフペーパーなど。Photo: Courtesy of POSTALCO

コンピュータによるスケジュール管理も便利ですが、過去の記録と未来の予定との間で、行きつ戻りつしながら、余白にどんどん書き込みができるアナログ型手帳は、私がどうしても手放せないひとつ。アナログな手帳にはアナログなりの魅力がある。日記のようにメモを加えているうちに(それも何色かのペンで)、新しい考えが浮かびあがってきたり。

時間の大きな流れを俯瞰しながら、その日の時間を自分なりにとらえていくこと。それも、大切な時間を手にするために、カイロス的時間を現代の生活に活かしていく。
POSTALCOが「超」整理法を"料理"するとこうなる、という今回の新製品、彼らの哲学がしっかりと織り込まれていました。発売は9月下旬から。

POSTALCO
http://postalco.net/

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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