北欧のさらなる魅力を紹介する「t-b-d」で、
アラビア、ホガナスのアートセラミック展。
デザイン・ジャーナル 2015.10.19
南青山にオープンした「t-b-d(ティービーディー)」で、表情豊かなヴィンテージのアートセラミックに出合えました。
北欧の生活スタイル、ものづくりの姿勢が伝わってくるショップ「biotope(ビオトープ)」を2004年にオープンさせ、ヴィンテージのセラミックやリビングウエアに詳しい築地雅人さん。外苑前の「doinel(ドワネル)」に続き、築地さんが始めたショップがこのt-b-dです。新たな視点で、北欧の品々が紹介されていきます。
t-b-dとはto be determined(後日決定)の意味。作品の買いつけでしばしば北欧を訪れている築地さんですが、このショップの準備の際にはあえてコンセプトを決めることなく、「後日決定」で、ヴィンテージ作品を収集されたそう。
とはいえ長く北欧を見ていらっしゃる築地さんのこと、大切にされている工房や年代、関心のある場所などはもちろんお持ちです。その視点で吟味された貴重な品々がショップには集められているのです。11月3日までの展示は、「COLLECTiON―ARABIA & Höganäs ART CERAMICS―」。
「この夏、フィンランドとスウェーデンで集めたヴィンテージのアートセラミックです。フィンランドのアラビア・アートデパートメントと、スウェーデンのホガナス・ケラミックで、1950年代〜1970年代につくられたものが中心です」と築地さん。どれも「手のあとが残るもの」です。
アラビア・アートデパートメント(アート部門)についてはこのコラムでも、ヘルシンキを拠点に活躍する石本藤雄さんの個展の際に触れたことがありました。1932年にヘルシンキ市内にあるアラビア社内に設けられたアラビア・アートデパートメント。現在も石本さんをはじめ8名の作家が、自身の作品に取り組んでいます。
「今回の展示でとりあげたのは、ライヤ・トゥーミ(1923〜)、フランチェスカ・マスティッティ=リンド(1931〜)、アンニッキ・ボヴィサーリ(1918〜2004)らの作品。アラビア社に在籍していますが、量産品はほとんど手がけず、アート作品で活躍していた作家たちなんです」
ざらりと荒い土の触感。どしりとしたフォルム。落ち着いた茶の表情のほか、美しい青、紫がかった青の釉薬が生かされたものも。1950年代〜1970年代のアートセラミックはヴィンテージ作品のオークションでもまだあまり登場しない時代のものだそうで、その点からも、やはり注目したい作家、時代のものばかり。
「北欧の山小屋など、ちょっと暗い空間にこれらのセラミックが置かれている様子をイメージしていました」
築地さんのそのことばを耳にして、私も山の家の情景を想像していました。この季節のひんやりとした空気。樹々のにおい。しっとりと落ち着いた明かりの部屋に配された棚や木製のテーブルに、釉薬も美しい、これらの作品が置かれている様子......などなど。
スウェーデン南部、スコーネ地方に1909年、設立されたホガナス・ケラミックからは、イングヴェ・ブリクスト(1920〜1981)、ヘニング・ニルソン(1907〜1993)らの作品が紹介されています。
「ホガナス・ケラミックの特色は、オックスブラッド・グレイズと呼ばれる牛の血のように鮮やかな釉薬と、土の表情を活かした素朴な表情です。独特の質感で大らか。北欧のなかでも、やはり南で誕生したものなのだという印象があります」
その地域の土があり、その時代の釉薬がある。その国のその時代に生きた作家だからこそ創造できた質感や色があります。似たものをつくろうとしても、今ではもう実現しえない表情だったりもする......。文化背景、工房や窯の個性もあり、知れば知るほどに、興味をそそられる世界。
アートセラミックやガラス作品の一点一点をゆっくり目にでき、気に入ったものを選ぶ醍醐味、手に入れる楽しみも教えてくれるt-b-d。今後の展示もとても気になります。
t-b-d
東京都港区南青山 5-3-8 パレスミユキ301
Tel.03-6712-5492
営)12:00〜19:00
休)水曜定休
「COLLECTiON―ARABIA & Höganäs ART CERAMICS―」は2015年11月3日まで
www.t-b-d.net
Noriko Kawakami
ジャーナリスト
デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。
http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami