うつわディクショナリー#19 富井貴志さんの毎日使ってこその木のうつわ

モダンな食卓に馴染む木のうつわ

洋皿のようなモダンなリムプレートも、オイルフィニッシュのナチュラルなボウルも、日本酒の酒器も、富井さんの手にかかると和でも洋でもなく、私たちの暮らしにちょうど心地いいうつわとなる。

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—富井さんが、木工を始めたきっかけは?

富井:高校でアメリカのオレゴン州に留学した時に、林業が身近にあったことが最初のきっかけです。木材に関心を持ち、帰国後は木を削ってバターナイフを作ったり。大学時代は、一人暮らしでキッチン道具やうつわに凝って。男だけど生活のものへの興味もずっとありましたね。その後、木工が盛んな岐阜県高山市で基礎をひと通り学んだ時に、小坂礼之(こさか・あやゆき)さんという木彫の作家さんに出会い、家具よりも小さな細工仕事に影響を受け、それまでのいろんな興味がひとつに繋がって、うつわを作るようになりました。

—モダンなデザインも富井さんらしさですが、こだわりはどんなところですか?

富井:木というのは伐採して加工した後も呼吸をして生きているので、見た目を重視して薄くしすぎると使い込んでいくうちに木材本来の力を失ってへたってしまうんです。漆のものは必要以上に薄くシャープに作らずに縁の部分の処理で緊張感を持たせるように、木地のものはしっかりと厚みを残して作るようにしています。木の存在感があってその力を引き出せているものは、その分、いいうつわに育っていきます。

—富井さんの作品といえば、一番に思い浮かぶのが白漆のリム皿です。

富井:リム皿は、何年も前から継続して作っています。始めた頃は、オイルフィニッシュの純朴でナチュラルなうつわが人気を集めていた時代だったんですが、僕はもっとシャープなものがあってもいいんじゃないかという考え方で木のものづくりにアプローチしていました。そのひとつがリム皿です。

—白漆というのも当時は新鮮だったと思いますが、いまではすっかり富井さんの定番ですね。

富井:旋盤(せんばん)の機械で皿の形にひいた無垢の木に、蒔地(まきじ)という土を焼いて粉にしたもので下地を作ってから、白漆で拭漆を施します。土の粉のざらざらしたテクスチャーや、漆を刷毛で塗ることで顔を出す下地の質感をあえて残すことで、漆器であることを感じながらカジュアルに心地よく使えるいいニュアンスが生まれました。たくさんの人に愛用してもらっています。

—リムの深さや底のデザインも洋皿のように精密で、まるで漆ではないような。金属のような印象も受けます。

富井:焼物は、高台から上へ向かって粘土を挽いていきますが、木工は表と裏のどちらからでも木を削っていくことができます。裏と表、ちぐはぐなデザインもやろうと思えばできてしまう。だからこそ、うつわのあるべき形には心を配っていますね。リムの部分がへこんでいるということは、そのラインが底の形にも出てくるはず。直径に対する高台の大きさもおのずと決まってきます。そのバランスが理にかなっていないと、手に取った時に違和感となる。人の感覚って目に見えるもの以上に敏感だと思うんです。デザインの格好良さありきで作るのではなく、生活に楽しみを与える使いやすいアイテムをきちんと作って、人の暮らしの中に届けていきたいですね。

—木のうつわの取り扱い方で、気をつけるべきことはありますか?

富井:肉や魚の料理、ドレッシングをかけたサラダなど油を使ったものを盛り付けた時以外は、洗剤で洗わないことがおすすめです。パンとかお菓子だったら水洗いで十分。洗いすぎると木の油分が抜けて乾燥してしまいます。そういう時は、オイルを塗るのもいいですが、これも洗剤をあまり使わなければ1年に1回ほどで大丈夫です。木のうつわは焼物よりすこし値が張りますが、その分壊れないし、気軽に使えば使うほど自分のものになる。ナイフの跡さえいい味になっていくので、神経質にならずに使ってほしいと思います。

※「工藝 器と道具 SML」では11/19(土)まで「富井貴志」展を開催中です。

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今日のうつわ用語【旋盤・せんばん】

工作物の元となる材料(おもに木材や金属)を回転させ、そこに刃物を当て回すことで削っていく工作機械。うつわの場合、内側、外側と方向をかえて固定し削っていく。

漆に青い顔料をまぜた青漆が新鮮。使っていくともう少し鮮やかな色に変わっていくそう。青漆リム皿¥16,200/工藝 器と道具 SML

人気のロングセラーでもある白漆のリム皿は、おもてなしのうつわにもぴったり。白漆リム皿¥16,200/工藝 器と道具 SML

舌触りがすこぶるよいスッカラには富井さんの技術の高さが感じられる。スッカラ¥3,240/工藝 器と道具 SML

鉢ものの多くは、旋盤の機械ではなく手作業で削っていく。手つき楕円ボウル¥54,000/工藝 器と道具 SML

柔らかいけどエッジはシャープ、富井さんらしいデザインの蓋物¥21,600/工藝 器と道具 SML

表面を蜜蝋とオイルでコーティングした無垢のリム皿はしっかりと厚みがあり毎日使っても丈夫。栗の木のリム皿¥12,960/工藝 器と道具 SML

【PROFILE】
富井貴志/TAKASHI TOMII
工房:新潟県長岡市小国町
素材:木(栗、朴、楢、山桜など)
経歴:1976年新潟県生まれ。1994年から1年間アメリカのオレゴン州に留学し林業に触れたことがきっかけで木に関心を持ち、再生可能な資源である木を使ったものづくりにひかれていく。大学では物理を学ぶも、2002年岐阜県高山市の森林たくみ塾、オークヴィレッジを経て木工家として独立。
https://www.takashitomii.com

工藝 器と道具 SML
東京都目黒区青葉台1-15-1 AK-1ビル1F
Tel. 03-6809-0696
営業時間:12時〜20時(11:00〜土日祭)
✳不定休 ✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを http://www.sm-l.jp


『富井貴志展』開催中
会期:2017年11/11(土)〜11/19(土)
会期中無休

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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