うつわディクショナリー#29 幸せを運ぶ鈴木麻起子さんのうつわたち

うつわのまわりに笑顔があふれるように

意外なほど料理をおいしく引き立てるだけでなく、インテリアとしても美しい
ターコイズブルーのうつわで知られる陶芸家の鈴木麻起子さん。
使う人のまわりが笑顔であふれるように願ううつわの成り立ちに迫ります。
 
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—鈴木さんがうつわを作り始めたきっかけを教えてください。
鈴木:叔母が陶芸教室をしていたので、土から生まれる手作りのうつわというものは小さい頃からいつも身近にありましたし、高校で陶芸に触れたこともありました。そんなこともあって教室を手伝うことになったのですが、しばらく働くうちに、教えに来ていた叔母の友人に「一度ろくろをきちんと教えてあげよう」と言われて。短期集中でろくろの手ほどきを受けた経験が、陶芸家としてうつわを作ることに繋がっていきました。
 
—短期集中で手ほどきを受けたあとは……、独学ということですか?
鈴木:うつわを作る時、基本的な技術はもちろん必要です。と同時に、その日に使う土の状態をきちんと感じとることも大事なんですね。私は比較的扱いやすい信楽の土を使っていますが、それでも私が作っているような薄手の焼物は、力づくでコントロールしてはうまくいかないもの。ろくろをひいている間にも刻々と変化する土の状態を細やかに感じながら、その土の美しい面を取り出していくようなイメージで取り組む必要があるんです。私は、そうした土との対話に時間をかけて制作していて、先生に基礎技術を習ったあとは、独学で続けてきました。うつわ作りを始めて今年で15周年を迎えます。
 
—土と向き合うとは、どのような感覚なのでしょう。
鈴木:土と向き合う時は、心を鎮めて。毎朝、自宅から工房に向かいろくろに座るまでに、気持ちを平らにする時間を持つようにしています。かたちを土にゆだねるといっても、こうしたいという作為はどうしても芽生えてしまいますよね。でもそれを土に気づかせないほど静かで自然な動きを心がけるんです。土に気づかれないうちに「できちゃった」という時ほど、美しい線が生まれてくる気がしています。
 
—いまから15年前、代表作のターコイズブルーのうつわはどのように生まれたのですか?
鈴木:イギリスの陶芸家、ルーシー・リーの一冊の作品集に出会ったのがきっかけです。写真を見ながら、彼女が何を美しいと感じ、ろくろをひいていたのかをいつも考えていました。彼女のものの見方に近づきたいと憧れながら、自分なら何を美しいと思うのだろうかと手を動かしていくうちに、スタンダード・ボウルというオリジナルのかたちが生まれてきたんです。と同時にブルーを着せようと思いたちました。かたちや色のイメージは、何か理由があるというよりも、ふと目の前に広がっていくことが多いような気がします。
 
—ターコイズブルーは、使ってみると意外なほど料理を引き立てどんな献立も受け止めます。
鈴木:ターコイズブルーは、さまざまな料理の色に合うだろうなといつも思っていました。ブルーの釉薬というのは昔から焼物に使われてきましたが、うつわに用いるという人はあまりいなかったのかもしれませんね。家で使うのは、自作のうつわがほとんどです。うつわ同士の色の組み合わせ、料理との色合わせを自分でも楽しんでいます。
 
—薄く繊細なうつわですが、弱いイメージはなく凛とした佇まいです。 
鈴木:うつわとして、繊細でありながら使いやすさも備えていたいと思っています。特に女性に優しいうつわでありたいですね。食器棚でスタッキングできることや5枚重ねて持ち運べる軽さであること、無造作に置いただけでインテリアとして馴染むデザインであること、立ち姿が美しく花器としても美しいこと、そしてなにより、料理の見栄えを鮮やかにすることを大切にしています。
 
—どんなものを作りたいと思っていますか?
鈴木:私は幼い頃からファンタジーや物語の世界が大好きで、頭に浮かんだストーリーを色やかたちにこめていきます。うつわがうつわ以上の世界を持ち、使う人のまわりが笑顔に溢れるようなものでありたいと思っています。
 
※2018年5月3日まで「スパイラルマーケット」にて「鈴木麻起子 陶展 感じるうつわ」を開催中です。
 
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今日のうつわ用語【信楽】
滋賀県信楽町は日本六古窯のひとつとして中世から続く焼物の産地。古くは壷や甕、すり鉢のほか、たぬきの置物の生産でも知られる。種類豊富かつ扱いやすく耐火度の高い土が採れることから、現在、国内で作られる焼物の多くが信楽の土を使っていると言われている。
【PROFILE】
鈴木麻起子/MAKIKO SUZUKI
工房:滋賀県甲賀市
素材:陶器
経歴:2003年陶芸家を志し制作活動を始める。2006年自身のブランド「Pot Blue」を設立2009年「La Maison de Vent(=風の家)」にブランド名を改名。うつわが織りなす世界観を大切にストーリー性のある作品を展開する。 https://lamaizon.exblog.jp/


スパイラルマーケット
東京都港区南青山5-6-23
Tel. 03-3498-5792
営業時間:11時〜20時
定休日:不定休
http://spiralmarket.jp
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『鈴木麻起子 陶展 感じるうつわ』開催中
会期:2018年4/27(土)〜5/3(木)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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