うつわディクショナリー#36 いつまでもずっと一緒に、長峰菜穂子さんのうつわ

アンティークのような佇まいの日常の食器たち

アンティークの食器には、使い込んだ染みさえも一部となって料理を受け止める美しさがあります。陶芸家の長峰菜穂子さんは、ヨーロッパの古いうつわのそうした佇まいを作品に写して私たちのふだんの食生活に味わいをプラスしてくれます。
 
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—今回の個展でもヨーロッパのアンティーク食器を写した長峰さんならではのうつわがずらりと並びましたね。
長峰:フランスを中心にヨーロッパのアンティーク食器をコレクションしたり、展覧会の図録で見たりして、日頃から作ってみたいと思っていたものを個展に向けてコツコツ制作しました。今回は、大皿や耐熱のお皿が多いですね。
 
—アンティークの食器のどんなところを写すのでしょうか。
長峰:まずは、かたちと大きさを忠実に写します。古いものを目の前に置いて、厚みやカーブの形状、装飾まで、できるだけ同じになるように石膏型を作り、そこに粘土の板をあてて成形するんです。
 
—忠実にということは、日本の食卓に合わせて大きさを変えたりはしないのですね。
長峰:はい、そこは絶対に忠実に、なんです。自分のオリジナリティはいくらでも加えられるけれど、それをしていくと、フレンチアンティークから外れていってしまう。現代のためにアレンジしたものではなくて、古いものそのままをやりたいと思っているんです。
 
—そう思うのはなぜですか?
長峰:私は、古い時代の誰かが使いこんだ染みさえもそのものの一部となって、料理を受け止めるアンティークのうつわの佇まいをとても美しいと感じています。アンティークを見る時には、かたちや装飾はもちろんですが、それよりも朽ちた感じや貫入の染み、この時代まで残ってきた中でさまざまなものにさらされた跡のようなもの、そういううつわの表情を感じとることを大切にしています。自分が作るうつわにも、そうした佇まいや美しさを宿すことができたらと思うんです。
 
—白釉の作品には、おっしゃるような深みのある貫入や柔らかな釉薬の流れが見られますね。
長峰:白釉を掛けて焼いた直後に柿渋につけることで、貫入に経年したような色を施すことができるんです。この作業は、とても手間がかかるんですけれど、私にとってとても大切な部分なので丁寧にしています。貫入の入り方は、釉薬の配合や掛けた時の厚み、土と釉薬の相性や焼き方によっても毎回異なります。同じものはできない分、追求するほどにいろいろな表情のものが生まれるんです。
 
—長峰さんは、きっとその作業にのめり込んでいるから、こうしてずっと作品を作り続けているのですね。
長峰:そうですね。本物のアンティークと間違えられるほどのものを作りたい、といつも思っています。どうしたらそういうものができるのか、どこまでも追求してしまいますね。
 
—焼菓子の型を写した豆皿も、人気の作品です。
長峰:焼菓子の型ってかわいいとある時思って、金属のようなブロンズの釉薬を使って写したのが始まりです。好評だったので、フランスの古いタルト型を集めてバリエーションを増やしていきました。かたちを違えていくつか揃えても楽しく使えると思います。
 
—大皿は、しっかりと厚みがありますね。
長峰:私が参考にしている16〜19世紀ごろのヨーロッパの白いうつわというのは、おもに庶民が使っていたものだそう。だから、日常使いに耐えうる厚みや装飾の入り方になっているのだと思います。反対に絵付けや装飾のあるものは、王族が使っていたようです。耐熱のうつわは、フランスのキュノワールを参考に。こちらはオーブン料理などに使い込むことでどんどん育っていきます。長く使っていただけたら嬉しいですね。
 
 
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今日のうつわ用語【キュノワール】
18〜19世紀にフランスの北方で生産された陶器で、キュ(=お尻)、ノワール(=黒)の意。うつわの外側は、赤みを帯びた黒釉、内側が白釉のものを指す。
【PROFILE】
長峰菜穂子/NAOKO NAGAMINE
工房:埼玉県坂戸市
素材:陶器
経歴:武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科陶磁器科卒業後、茨城県笠間焼窯業指導所釉薬研究科修了。青年海外協力隊としてフィリピンで陶芸を指導する。帰国後、ものづくりをする友人と共同で工房「アトリエ線路脇」を設立。http://senrowaki.com/nao.html


スタイルハグギャラリー
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-59-8-208
Tel. 03-3401-7527
営業時間:11時〜19時(展示会最終日〜17時)
定休日:会期中無休
http://www.style-hug.com
✳展示会開催中のみオープン
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『長峰菜穂子 個展』(終了しました)
会期:2018年9/15(土)〜9/18(火)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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