うつわディクショナリー#45 新田佳子さん、ガラスで冬をあたためる

初めての体験、いちめんの白いガラスの世界

冬にガラスを使うなら何を選びますか?
芽吹いたばかりの菜の花のグリーン、おおらかに花びらを広げるアネモネの白など、立春を迎えさまざまなものが控えめに色づきはじめるこの季節には、そんな小さな変化を朗らかに受け止めてくれる新田佳子さんの白いガラス器がおすすめです。
 
190206-nitta-1.jpg
—いちめん真っ白なガラスの世界。薄氷のような、雪解けの大地のような冬から春へと変化するほのぼのとした自然の光景を見ているようでもあります。
新田:私自身、白いガラスが織りなす世界がとても好きなんです。ガラス工芸というと、クリアなものや色ガラスを思い浮かべる方が多いと思いますが、私は最初から白がやりたくて。サンドブラストという技法で表面を削ることで、白を表現をするようになりました。
 
—まずはクリアなガラスを吹いてその表面を削って白くするということですか?
新田:サンドブラストは、表面に砂の粒などの研磨剤を吹き付けることでつや消しの装飾をする技法です。私は、長めに砂を吹きつけて深めに彫り込みます。そうすることで濃淡がつき奥行きのある白が出るんです。
 
—模様はどうやってつけるのですか?
新田:サンドブラストを施す場所とそうでない場所を最初に分けておくんです。シートを貼って模様を切り出すやり方が主流ですが、私はスポイトに入れたボンドを使って模様を描きます。サンドブラストの後、ボンドを取り除くと、描いた部分は削られずに残り、描かない部分が白くなるんです。
 
—ボンドを使うとは、意外でした。
新田:スポイトを使うと、絵を描くようにサラサラと手を動かせるので、細かい線や小さなドットも描くことができます。吹きの工程では、ガラスを直接触ることはできませんが、冷却後、模様を描く工程では、手で触って、かたちを眺めて、それぞれのうつわに生まれた線やゆがみを感じながら、どう装飾しようかと考えていきます。一つ一つ個性が違うので、ついついすべて違う柄にしたくなって。湯呑みや取り皿でない限り、同じ柄を描くことはあまりないんです。
 
—一瞬でかたちが決まる吹きの工程と、手をかけるサンドブラストの工程、どちらもあるから生まれる作品なんですね。
新田:一つ一つにかける手間も時間もとても多いのですが、それをするからこそ、他にはない白の世界が生まれるのかなと思います。
 
—湯飲みや蕎麦猪口には、あたたかいお茶も入れてみたいです。
新田:耐熱ガラスではないのですが、あたたかいものも入れられます。ガラスは、うつわと入れるものの間の温度差が大きいと割れてしまうことがあるので、熱いものを入れる時は、あらかじめぬるま湯を注いで、うつわをあたためておいてください。熱湯は避けたほうがよいですが、そのように準備すれば緑茶や中国茶などの温度なら大丈夫。口当たりもよく見た目も綺麗でおすすめです。
 
—ところで、新田さんが、ガラスを始めたきっかけは?
新田:学生時代に、あるガラス作家の展示に衝撃を受けて、その方が先生をしていた倉敷の大学のガラスコースで学びました。衝撃を受けたのは、板ガラスを積層したオブジェだったんですが、うつわを作るようになったいまも、そういう抽象的な表現にひかれますね。線描きの装飾は、古い染布やオリエンタルなモチーフの中にある線の描き方に影響を受けていると思います。曲線より直線の組み合わせ、連続するドットという構成も好きですね。
 
—どんなものを作りたいと思っていますか?
新田:うつわは、使い方も買い方も自由なもの。私自身、食べることが大好きなので、美味しく食べて、飲むことができる生活に馴染むうつわでありたい。私のガラスを使うことで、生活がちょっと楽しくなっていたら嬉しいです。
 
※2019年2月9日まで「千鳥 UTSUWA GALLERY」にて「新田佳子展」を開催中です。
 
190206-nitta-3.jpg
 
今日のうつわ用語【サンドブラスト
うつわの表面に砂粒などの研磨剤を吹き付けつや消しの装飾とする加工法。
【PROFILE】
新田佳子/YOSHIKO NITTA
工房:東京都
素材:ガラス
経歴:倉敷芸術科学大学芸術学部工芸学科ガラスコース卒業。TAIZOGLASS STUDIO勤務ののち、作品づくりをはじめる。1976年大阪生まれ。

千鳥 UTSUWA GALLERY
東京都千代田区三崎町3-10-5原島第二ビル201A
Tel. 03-6906-8631
営業時間:12時〜18時
定休日:不定休(定休日はHP、ブログで確認のこと)
http://www.chidori.info
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『新田佳子展』開催中
会期:2019年2/2(土)〜2/9(土)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
キーワード別、2024年春夏ストリートスナップまとめ。
連載-パリジェンヌファイル

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories