うつわディクショナリー#53  岡さつきさんの瑠璃と花

踊るようにほがらかに料理を引き立てる、絵付けに魅せられて

九州の陶産地・唐津にて、うつわを制作する陶芸家の岡さつきさんは、染付、安南、白瓷と、土や釉薬の異なるさまざまなうつわに絵や彫り模様を施します。そこに感じられるのは、人の手が描くことができる線の豊かさではないでしょうか。草花模様であっても、波模様であっても、踊るようにほがらかに料理を縁取り、使う人の心を高鳴らせるのです。
 
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—岡さんは、同じく陶芸家の夫・岡晋吾さんとともに唐津で天平窯(てんぴょうがま)という工房をされていますね。陶芸をするようになったのはいつごろからですか?
岡さつき:私、実はカメラマンになりたかったんですよ。中学生の頃に従軍カメラマンの方の本を読んで、男社会で生きていくことに憧れてね。でもそれを聞いて父がこう言ったんです。地元九州の伝統でもある焼物に携わってみるのはどうかと。当時の窯元は、それこそ男社会。その中でやってみるのも確かにいいなと思って、美術系の短大に進学し陶芸を専攻しました。
 
—窯元などで修業もされたんですか?
岡:短大を卒業後は、有田の窯業試験場(現・佐賀県有田窯業大学校)で絵付けとデザインを学んだ後、有田の窯元や石川の九谷青窯で経験を積みました。もともと絵を描くのが趣味でしたが、陶芸は、仕事としても好きな絵を生かせる恰好のフィールドでした。
 
—染付、安南、白瓷など、さまざまな作品に取り組むのは、なぜですか?
岡:有田、九谷で修業をしたこともあって、最初は磁器が中心でしたが、夫の影響もあって、陶器、磁器に関わらず、いろいろな素材を使うようになると、その形に添う絵柄をイメージすることや、生地の特徴をとらえて線を描くことが楽しくなりましたし、そうやって、自分の考えが広がっていくことがとても心地よかった。それからは、形も材料も、画風も「こうでなくては」ととらわれることなくやってみるようになりました。
 
—唐津という陶産地で制作していることは、作品に影響を与えていますか?
岡:いま唐津には、30〜40代の若い作り手が増えていて、絵唐津や黒唐津、三島などの古唐津や、古伊万里にのめり込み、その良さを追い求めるような作品づくりをしています。私は、古唐津そのものというよりも、そういう、下の世代の作家さんたちに影響を受けているかもしれません。
 
—こうして気さくにお話してくださる様子を見ても、さつきさんが若い陶芸家と分け隔てなく交流されていることが想像できます。具体的には、どんな刺激を受けているのですか?
岡:彼らは、土の選び方はもちろん、成形の方法、窯の焚き方や焼成時間、薪の種類まで、桃山や江戸時代のやり方を研究し尽くして再現するのだけれど、でき上がるものには、間違いなく、その人の匂いが出ているんですよね。それを知ってからは、古典的な表現を用いながら、そこに自分の表現をどう織り交ぜるかを考えるようになりました。今回の個展では、濃淡の違いでさまざまな瑠璃色を表現したり、彫りで描く彫紋を取り入れていますが、彼らから受けた影響による収穫のひとつでもあるんですよ。
 
—15〜16年間、子育てに専念していた時期もあったそうですが、生活のうつわについては、どんな思いがありますか?
岡:うつわは、美術品ではありません。あくまでも日常に使う食器であって欲しい。私のうつわが「いつもの献立が、より美味しそうに見えるなあ」って、特に私とおなじ主婦の方に思ってもらえたら、一番嬉しいですね。うちの娘も、家庭でコロッケや煮物などに使ってくれていますが、夫や私のうつわには、私たちらしい匂いがあってすぐ分かるというんです。そうやって料理が邪魔にならない程度に、ほのかに私が匂う、くらいがちょうどいいですね。
 
※2019年7月15日まで「雨晴」にて、岡さつき×雨晴「星に願いを」を開催中です。
 
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今日のうつわ語【唐津焼・からつやき】
佐賀県唐津市に伝わる唐津焼は、桃山時代に始まり、豊臣秀吉が朝鮮より連れ帰った陶工によって発展、御用窯として栄えた。茶人にも愛され地位を確立したが明治以降に衰退。大正に入り、地元の陶家、唐津焼12代中里太郎右衛門が研究し復興させた。
【PROFILE】
岡さつき/SATSUKI OKA
工房:佐賀県唐津市
素材:陶器、磁器
経歴:1974年九州造形短期大学窯業入学、1976年有田窯業試験場 絵付科 デザイン科研修ののち有田の窯元、九谷青窯にて勤務。陶芸家・岡晋吾と結婚、子育てに専念したのち、2009年うつわ制作を再開。https://www.tenpyougama.com/

雨晴
東京都港区白金5-5-2
Tel. 03-3280-0766
営業時間:11時〜19時
定休日:水曜
https://www.amahare.jp/
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

「岡さつき×雨晴『星に願いを』」開催中
会期:2019年6/28(金)〜2019年7/15(月)
※定休日:水曜日、7/6(土)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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