うつわディクショナリー#58 ガラスの美しさを食卓に。ガラス作家・有永浩太さん

陶器や木と合わせるほど綺麗なガラスのうつわ

有永浩太さんのガラス器は、アンティークや古道具を置いた味のある部屋で使うとすっきりとした「ライン」が映え、スタイリッシュな空間ではクラシックな「かたち」が際立つ、というように、使う場所や合わせる食器によって違った魅力を発揮する。陶器や木など異素材にもよく合って普段使いのコーディネートが楽しくなるうつわです。
 
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—有永さんのガラス器は、置く場所や合わせる食器によって、モダンにもクラシックにも使えてコーディネートが楽しい。その理由は、落ち着いた色味にもあると思いますが、こうした色をつけるようになったのはなぜですか?
有永:ガラスの「かたち」を見せたかったからですね。吹きガラスは、熱したガラスの塊に息を吹き込んでかたちを作りますから、薄く伸ばせば色のグラデーションが生まれ、分厚くすれば深い色をとどめることができる。厚みの強弱が目に見えて、かたちに直結するということは、ガラスの面白さのひとつでもあると思うんです。色をつけることで、そうしたガラスの魅力を生活の中で感じながら使ってもらえたらと思っています。
 
—写真のボトルやショットグラスも、一つのものの中に異なるガラスの表情を感じられます。陶器にも合う色なので、ワイングラスなどもできるだけ普段使いにしたくなります。
有永:生活の中に馴染むものでありたいので、ワインやリキュールなどお酒の色を綺麗に見せる色や、陶器や木工品に合う色味を意識しています。ブルーグレーの「スミ」、ブラウンの「アンバー」、淡いブルーの「ソーダ」を定番色に、今回の個展では、新作としてピンクの「ウスベニ」を作りました。
 
—ところで、有永さんがガラス工芸をはじめたきっかけは?
有永:子供の頃、近所にガラスビーズを作る工場があったので、ガラスを扱うことや一人で黙々と仕事をする職人的な仕事には馴染みがあったんだと思います。高校時代は、登山が好きで、スイスやフランスなどヨーロッパの山にも出かけました。考古学も好きでしたが、手で作る仕事への興味も引き続き持っていて。結局、倉敷芸術大学の工芸学科に入りました。授業ではいろいろな工芸をやりましたが、ガラスが一番、思い通りにならなくて、いいなと。
 
—思い通りにならないほうがよかったんですね?
有永:そのほうがやりがいがあるし、できるようになっていく手応えはいいものです。倉敷芸術大学には、吹きガラス作家の先駆者でもある小谷真三先生もいたので、当初から食卓のうつわを作ることが当然でした。在学中にドイツに短期留学してガラス制作をしたこともあります。卒業後は、ガラスの体験教室を持つ工房などで働き、独立しました。
 
—選ぶ色も、かたちも、すっきりとしていて、これまでの日本の吹きガラスとはひとあじ違うと感じます。海外での経験も生きているのでしょうか。
有永:日本人が作るガラスであるということは意識していると思います。例えば、フラットなお皿。取り回すなどお皿を上げ下げすることの多い日本人の感覚では、ふちに折り返しをつけて厚みを出し、持ちやすさを備えたいと思いました。ブルーやブラウンという色は、新しいように見えて、日本では、昔から薬や飲料の瓶に使われているちょっと懐かしいものでもありますよね。
 
—表面にガラスを吹いた時にできる線がほのかに残っているのもいいですね。
有永:吹いた時の勢いを大切にしたくてあえて残しています。僕は陶器も好きなんですが、焼物は、焼き方によって釉薬の表情に違いが生まれますよね。そういう不揃いな部分がガラス器にもあっていいと思うんです。定番で作っているクリアなワイングラスも、あえて不揃いなかたちで「バブルワイングラス」と名づけていたり。
 
— 一方で繊細なレースの模様のうつわはオブジェのよう。食卓を上品に彩ります。
有永:ガラスの細い棒を糸をひくように伸ばして束ね、さらに伸ばしてレース模様にしていくヴェネツィアングラスの伝統的な技法を使いますが、僕にとっては日本の織物を織るようなイメージなんです。レースの線を重ねて奥行きのある模様を出していく。そんな風に私たちにとって気持ちのいいかたちや意匠、馴染みのある色を使って、いままでの普段使いのガラスの世界にはなかったものを作っていけたらと思っています。
 
*2019年9月29日(日)まで、KOHORO二子玉川にて「有永浩太展」を開催中です。
 
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うつわ用語【ヴェネツィアングラス
イタリア・ヴェネチア本島の北東にあるムラーノ島で作られるガラス工芸品。ヴェネツィアのガラス製品は13〜14世紀に発展し、1291年にすべてのガラス工房がムラーノ島に移転した。極薄に吹き上げる高い技術とレースガラスなど芸術性のある装飾が特徴。
【PROFILE】
有永浩太/KOTA ARINAGA
工房:石川県七尾市能登島
素材:ガラス
経歴:倉敷芸術大学芸術学部工芸学科 ガラス工芸コース卒業後、福島県のガラス工房、新島ガラスアートセンターを経て作家として独立。2011年〜2016年には金沢の卯辰山工芸工房ガラス工房に勤める。2017年能登島に工房 kota glassを設立。1978年大阪生まれ。https://www.kotaglass.com/


KOHORO二子玉川
東京都世田谷区玉川3-12-11 1F
Tel. 03-5717-9401
営業時間:11時〜19時
定休日:水曜(展示会中無休)
http://www.kohoro.jp
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

「有永浩太展」開催中
会期:2019年9/20(金)〜9/29(日)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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