うつわディクショナリー#59 古くて新しい白磁。山本亮平さん、ゆきさんのうつわ

有田で作るということ

陶芸家の山本亮平さん、ゆきさん夫妻は、日本の磁器発祥の地である佐賀県有田町で、現代の有田焼とはひと味違う、やわらかな白と淡い染付をそなえたうつわを手がける。それは、400年以上前に作られた初源伊万里とよばれる焼物を手本としたもの。この土地で作り、生きることで、ふたりが見てみたいと憧れるうつわのその先とは? 開催中の個展に合わせて亮平さんにお話をうかがいました。
 
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—山本亮平さん、ゆきさんが陶芸を始めたきっかけは?
山本:僕は東京の美大で油絵を専攻していたんですが、いちから自分で関われることを仕事にしたくて陶芸に興味を持ち、佐賀県、有田の窯業大学校に入りました。有田は、古くは伊万里焼、現在は、有田焼と呼ばれる染付や色絵磁器の産地です。妻のゆきとは、窯業校で知り合いました。いまは、僕が成形し、ゆきが絵付けを担当しています。
 
—白磁を作ると決めていたから有田の窯業校を選んだのですか?
山本:白一色で表現するミニマムなうつわの世界。究極にシンプルな白磁に憧れました。それでせっかくなら磁器発祥の地で学びたいと思ったんです。
 
—住んでいる有田周辺の土を使って白磁を作るのですか?
山本:最初の頃は、粘土屋さんから買ってきた天草や有田の磁器土を使っていたのですが、自分が使う原料がどこから来るのか気になるようになって。自宅周辺や近くの山の土を掘ってきて水簸(すいひ)を繰り返し、自分で土を作りはじめました。
 
—私がはじめて手にした作品は、リムの部分に青色で花が描かれた染付陰刻花卉文皿でした。定番の作品のひとつですが、最近は染付の色がすこしやさしくなっているような……。
山本:うつわって怖いもので、まともに作ると自分が出すぎてしまうんです。でも本来、うつわは、料理を盛りつけるなど、人がかかわることで成立するものですよね。それ自体が主張するのは違うのではないかと思うようになって、絵付けも淡くなっていきました。
 
—作家であれば自分が出てもいいような気がしますが、なぜそう考えるように?
山本:有田の磁器は、いまから400年ほど前、「文禄・慶長の役」で有田に連れてこられた朝鮮人の陶工が焼物の技術を伝え、陶石を見つけたことで産業として発展しました。この土地に住んでいると、周辺のいたるところに文字通りゴロゴロと、400年以上前からの伊万里焼の古い陶片が落ちているんです。現在の有田焼は、華やかなハレのうつわという印象ですが、昔の陶片を見ると、釉薬はもっとやわらかく、絵付けもほのかで素朴で。朝鮮の陶工が故郷を思って作ったなんでもないものという感じなんです。それがとてもよくてね。そういう創成期の伊万里焼に近づいてみたいと思うようになったんです。
 
—400年前の焼物を写したい、のですね?
山本:正確には、磁器が生まれるすこし前の焼物もふくめて、かたちというより考えを写そうとしています。陶石を発見する前には、砂岩という石を使っていたという説もある。砂岩は削ると白い部分が顔を出し白いものを焼けるんです。こうなるともう、原料から自分で採って写すしかないんですよね。実は、いま住んでいる場所は、初源伊万里と呼ばれるそうした焼物を焼いた「小物成窯(こものなりがま)」があった地域でもあって。当時の人が何を考えてどう作っていたのか、その精神を写しとることに、運命的なものを感じているところもあります。
 
—今回の個展でも、すっきりと白いお皿や茶器、淡い染付が施された酒器や壺、土ものに近い緑がかった鉢と、さまざまな白が見えますね。
山本:釉薬も、基本的には、有田の泉山の陶石や砂岩と自然灰の釉薬だけを使ったシンプルなものにしていますが、釉薬の掛け方や、窯の中での置き場所、土と釉薬の相性によってできあがるものは、ひとつひとつ違って、同じ材料のものでも同じようにはできあがらない。この土地の素材から生まれる、いろいろな白を感じてもらえたらと思います。
 
—染付は、ほとんど見えないくらい薄くはかない。その分、どんな絵なのだろうと使うたびに想像がふくらんで自分にとって愛おしいうつわとなっていきます。
山本:「描かないけれど、描いている」という感じですね。自分を抑えつつ描くのですが、感覚は抑えることなくフル稼働。描きながら自分を抑えるということに集中することでむしろ自由になれると、ゆきは言っています。それに、見えない部分を想像してもらうことで、うつわを通して使う人と対話ができるような気がするんです。
 
—どんなものを作りたいと思っていますか?
山本:古いものにひかれる理由を知りたくて、昔の人のように土や釉薬を自分で作り、薪を集めてきて焚く薪窯で焼くようになりました。作りたいものを頭に描いてそこに向かっていくというのではなく、ただシンプルに、ものができる状況をととのえていきたい。そうした先に何ができるかは、お楽しみ。そんなものづくりをしていきたいと思っています。
 
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※2019年10月7日まで、横浜の「sumica 栖」にて「山本亮平・ゆき展」を開催中です。
 
今日のうつわ用語【水簸・すいひ
水を利用して原土や陶石から細かい粘土だけを取り出すこと。原土や陶石を砕いたものを入れて攪拌し、早く沈殿する砂利や粗粒を取り除いて寝かせ、粘土分を沈殿させる。これを繰り返すことで粘土ができる。
【PROFILE】
山本亮平・ゆき/RYONEI YAMAMOTO, YUKI YAMAMOTO
工房:佐賀県有田町
素材:有田泉山と天草の陶石、砂岩、木灰
経歴:亮平さんは、多摩美術大学油絵科卒業後、佐賀県立窯業大学校短期終了。絵付け師を経て2007年有田に築窯。1972年東京生まれ。ゆきさんは、佐賀県立窯業大学校短期終了後、絵付け師ののち、亮平さんとともに作品作りを始める。1978年長崎県生まれ。

sumica栖
横浜市中区山下町90-1 ラ・コスタ横浜山下公園101号室
Tel. 03-5717-9401
営業時間:11時〜19時
不定休
http://www.utsuwa-sumica.com/index.html
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『山本亮平・ゆき展』開催中
会期:2019年9/28(土)〜10/7(月)
定休日:10/2(水)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

うつわライター/編集者

フィガロ編集部を経て独立。子育てをきっかけに家族の食卓に欠かせないうつわにはまり、作り手を取材する日々。うつわを中心に工芸、インテリア、雑貨など暮らし関連の記事を執筆。著書に『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)。Instagram:@enasaiko

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