うつわディクショナリー#66 異国情緒と使いやすさと。城進さんのうつわ

世界50カ国を旅した記憶がうつわの細部にあらわれて

陶芸家多しといえども、世界50カ国を旅したことがあるという作り手はそういない。城進さんは、本格的にうつわをつくり始める直前まで、シルクロードの国々やアフリカをバックパックひとつで闊歩。そこで得た風土、手触りやものに宿るにおい、色彩感覚は、作るうつわにそっと現れ、私たちの日常に異国情緒を運び込む。
 
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ー城さんといえば、幾何学的な線を描いた茶褐色のうつわが真っ先にあたまに浮かびます。他のどこにもないうつわです。
城:鉄絵と呼んでいるこのシリーズのインスピレーションは、アフリカの泥染なんですよ。西アフリカのマリ共和国に伝わる布で、樹木の葉で染めたのち泥で柄を描いたもの。伝統的に使われる柄には、それぞれに意味が込められているんですが、幾何学的な構成が面白く意味をよく知らなくてもひかれるものがあって強く記憶に残っていました。
 
ーアフリカを旅した経験があるのですね。
城:僕は、京都の大学で陶芸を学び1年ほど弟子入りした後、少し時間をとってその先のことを考えてみたいと、旅にでました。絵付けの経験があったので、本場中国の景徳鎮の焼物を見てみたいと最初は上海に入って。北京、チベットからパキスタン、イラン、イエメン、イスラエル、ヨルダン、シリア、トルコなどをバックパックひとつで。一度帰国して、今度は、タイ、東南アジア、イエメンを経由してアフリカへ。最後はポルトガルやスペインまで。50カ国くらい訪ねました。
 
ーシルクロードから始まり、アフリカ、ヨーロッパまでとは驚きです。焼物の旅ですか?
城:その土地に焼物があれば興味はありましたが、それよりも単純に人や暮らしを見てみたかったんです。上海を訪ねる道中で日本語の分かる景徳鎮出身のおばちゃんに偶然出会って。現地で過ごした2週間のあいだ、ずっと家に泊めてもらい、案内してもらい、本当によくしてもらいました。それに味をしめた、わけではないですけど、どの国でも大抵は地元の人と仲良くなって泊めてもらっていました。
 
ーなかなか大胆な……。その国に暮らす人の生活の中に入り込んで過ごしたんですね。
城:沢木耕太郎さんの『深夜特急』という本の影響で、安宿に泊まったり現地の人と交流することに抵抗はありませんでした。アジアでも中近東でも、女の人が家事に育児にと忙しく働き、男たちは昼間からお酒を飲んで気楽にしゃべっている。僕もその輪に入って彼らと同じうつわで酒を飲み、食事をして、気に入ったら数日〜数週間過ごすという毎日。アフリカで、オレンジ色のプラスチックの洗面器のようなものに料理が盛られていたのは刺激的でしたね。毎日充実していたけれど、うつわへの枯渇感はあったかもしれないです。
 
ーそれが、帰国してからのうつわ作りに生かされたのかも?
城:そうですね。旅のおかげで4年間もブランクがあるのだからと最初は人と違うもので勝負したいと思っていましたが、結局は「これを食べるなら、こういううつわがいい」という気持ちの中からうつわが生まれていったような気がします。三重県の伊賀で本格的に陶芸をやっていこうと思った時に、地元の土の焼き上がりがアフリカの泥染の雰囲気と合うのではないかと、ピンときたんですよね。
 
ー泥染の柔らかい布と焼物ではずいぶん質感が違いますが、柄ではなく土の質感に親和性を感じたんですね。
城:昔の黄瀬戸の釉薬が泥染の質感に近いような気がして。やってみたら思い描いていたような手触りのある焼物になったんです。マットなこの質感をベースにすれば、記憶に残っているあの柄も合うだろうと思いました。
 
ー美味しいものを知っている人が作るかたちや手取り。マグや取り皿、ご飯も炊ける飴釉の土鍋には、いろんな国で食べた味の記憶もきっと入っていますね。
城:エキゾチックなうつわとよく言われるんですが、手に取った時の収まりや使いやすさはとても大事にしています。和でも洋でもアジアでもない、どこのものとはいえないようなボーダーのないものを作っていけたらと思っています。
 
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※2020年3月2日まで、横浜の「sumica 栖」にて「城進 陶展」を開催中です。
 
今日のうつわ用語【黄瀬戸・きせと】室町時代末〜桃山時代に美濃を中心として焼かれた古陶で、鉄分を含む淡黄色の釉薬をかけた焼物。
【PROFILE】
城進/JO SUSUMU
工房:三重県伊賀市
素材:陶器
経歴:京都精華大学美術学部で陶芸を専攻後、2000年まで世界50カ国を旅する。2010年、伊賀、丸柱に築窯。1971年大阪生まれ。

sumica栖
横浜市中区山下町90-1 ラ・コスタ横浜山下公園101号室
Tel. 03-5717-9401
営業時間:11時〜19時
不定休
http://www.utsuwa-sumica.com/index.html
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『城進 陶展』開催中
会期:2020年2/22(土)〜3/2(月)
定休日:2/26(水)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

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