うつわディクショナリー#67 八田亨さんの三島手と黒掛けのうつわ

毎日の気取らない料理を受け止める焼物

縄目のような文様が特徴の三島手や、すべての色を内包するかのように深い黒釉のうつわがずらりと並ぶ陶芸家・八田亨さんの展覧会。同じものはないといっていいほどそれぞれのうつわに丁寧な意匠が施されていて、今日欲しい一枚にきっと出合えます。

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—朝鮮由来の三島手を中心にしながら、同じかたちであってもひとつひとつ色味もツヤも味わいが異なる作品。自分の食生活や暮らしに合うものはどれかとじっくり選びたくなります。
八田:焼き上がりが予測できない薪窯(穴窯)での焼成をベースに、ものによってはガス窯でもう一度焼くなど、一枚一枚、一碗一碗の焼き上がりに応じて仕上げを工夫しているので、マットなもの、ツヤのあるもの、釉薬の流れのあるものなど、ひとつひとつ違った表情になっているんです。
 
—毎月欠かさず薪窯を焚くそうですね。展覧会の案内状に「火に意識を傾けて、ひたすら土を焼き切る。仮に人の心を動かす銘品を残すことが陶芸家としての本分であるなら、この単調な日々こそ唯一の方法だと思うのです」とあって。ひたすら焼き切る、という言葉が印象に残りました。
八田:うつわの表面を覆う釉薬が溶けるのは、窯の温度が1200度くらいに達した頃ですが、その直前まで土にどう火を加えて焼いていくのかが重要だと思っているんです。「焼き切る」というのは、自分の感覚で言うなら、釉薬が溶け始める前に土を焼くイメージです。土をしっかり焼くことで土の持ち味を引き出す事ができると思っています。
 
—例えば、それを料理でいうと「表面は火が通っていて見栄えがよいのに、内側の火の通し方が不十分では、本当の美味しさは引き出されない」というような感覚でしょうか。
八田:その発想、面白いですね。遠からず、かな。それでいうと、薪窯は圧力鍋でじっくり火をいれていくような感覚かもしれません。実際、火の圧力というのはすざまじい。圧力によってうまみを閉じこめて美味しさを引き出す料理になぞらえるなら、炎の圧力によって土の中の鉄分が引き出されたり、味のある表情が出るのが焼物です。
 
—八田さんはそれをした上で、最後の仕上げをガス窯にゆだねることもあるんですね。
八田:薪窯が素材の魅力をどう引き出したかを受け止めた上で、それに対して自分が思う意匠を施す時にガス窯で焼くこともありますし、ガス窯で焼いたものを薪窯で再度焼くこともありますね。
 
—「黒掛け」と呼んでいるざっくりとした手触りのある黒いうつわは、特に、八田さんならではの意匠を持っています。
八田:「黒掛け」は、古い高麗茶碗にもある技法のひとつで、鉄分の多い泥を生の素地に施しています。釉薬に鉄分を入れて出す黒は以前からやっていましたが、もっと奥行きのある黒を狙ってそうしています。
 
—三島手の縄目のような線描きというのも、作り手の手の動きの癖などその人らしさが出やすいところかもしれませんね。
八田:そうですね。陶芸ではどんな素材を選び、どんな道具を使って、どういうタイミングで線を施すかが作品のイメージを左右します。それは常に手探りですがその繰り返しで自分の作品ができあがっていくんだと思います。今回、いくつかの茶碗には、線自体に情緒をもたせる気持ちで線を描きました。
 
—自分ではコントロールできないことと、自分らしさを込めること、きっとそのふたつのバランスが大事なのですね。
八田:僕が大切にしているのは、ふたつのことなんです。ひとつは、自然の良さを引き出すこと。もうひとつは、陶芸は芸術に終わらず、人が使うことで生活の中に落とし込むことができるものですから、使い勝手の良さを追求すること。
 
—薪窯で焼いたうつわというと力強いイメージもありますが、八田さんのうつわは、気取らない毎日の献立によく合う軽やかさも持っている。大切にしていることがうつわに現れているのを感じます。
八田:酒器も花器も食器も、自分ならどう使おうかと考えてかたちを決めていきます。茶碗なら手が引っかかりやすい高台の作りに特に気を配ったり。そういうことを考えるのはとても楽しいですね。
 
※3月15日まで「うつわ楓」にて「八田亨 陶展 -南青山にて-」を開催中です。
 
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今日のうつわ用語【三島手・みしまで】
うつわの素地に縄目のような紋様を施しその部分に白土を象嵌したのち釉薬をかけて焼成する焼物やその紋様のこと。15〜16世紀に朝鮮半島で焼かれた白化粧の高麗陶器に由来する。紋様を三島暦の仮名に見立ててこう呼ぶようになった。
【PROFILE】
八田亨/TORU HATTA
工房:大阪府富田林市
素材:陶器
経歴:大阪産業大学工学部環境デザイン科卒業後、2003年に独立、2004年に穴窯築窯。大阪府富田林市の自宅兼工房で、暮らしのうつわを作る。1977年生まれ。
https://www.hattatoru.com/

うつわ楓
東京都港区南青山3-5-5
Tel. 03-3402-8110
営業時間:12時〜19時
定休日:火、祝日
http://utsuwa-kaede.com
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

「八田亨 陶展 -南青山にて-」開催中
会期:2020年3/7(土)〜3/15(日)
定休日:3/10(火)

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

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