仕事と育児の両立、ダンサーの場合。

パリとバレエとオペラ座と。

職を持ちながらの子育ては簡単ではない。午前はクラスレッスン、午後はリハーサル。そして公演期間中、夜は舞台......という暮らしのダンサーにとっては、なおさらだろう。昨年、パリ・オペラ座では ちょっとしたベビーブームがあった。女性ダンサーはどんな時に出産を決意するのだろうか。そしてその後、職業と母親業をいかに両立させているのだろうか。その例として、2013年12月に長女クロエを出産したマリーヌ・ガニオ(27歳・スジェ)に話を聞いてみた。昨シーズン最後の公演『リーズの結婚』では主役のひとりに抜擢された彼女。このうれしい大役は、本来のコールドバレエの仕事にプラスしてのことなので、稽古の時期から公演終了までの約2ヶ月は体力的にも時間的にも、さぞ大変な毎日だったに違いない。それを乗り切った彼女の気力、強靭な精神力、そしてダンサーという仕事への情熱は感服に値する。


■ 産む決意。母になることとダンサーのキャリアについて。


「若いママになる! って、以前から宣言していたの。それを25歳のときに実行したということね(笑)。たとえ昇級コンクールの結果で上のランクに上がろうが、怪我で休業となろうが、何が起きようと私は2013年に出産する、と決めたのよ。その当時はコリフェで、夫(フローリアン・マニュネ/プルミエ・ダンスール)は、"もしスジェに上がったら仕事を休みたくないって思うんじゃない?"って......。実際2012年の11月のコンクールでスジェに上がったけど、私の決心は変わらなかったわ。そして2013年の12月に出産したの」


「ずっと前のことに遡るのだけど......リハーサル・コーチのクロチルド・ヴァイエから子どもを欲しいかと聞かれたことがあったの。その時に、"もちろん。でも、休む時期を決めるって難しい問題だわ"って答えたのよ。そうしたら彼女が"ひとつ教えてあげるわ。ダンサーのキャリアにおいて、出産に良い時期なんて決してないのよ。もし仕事が落ちつく時期を待とうと思ったって、そんな時期は絶対に来ないでしょ。何か興味が惹かれる作品があれば、それを踊り逃したくないって思うに違いないわ。そうしたら、決して良い時期なんてないのよ。それを裏返していうと、いつだって良い時期ということなのよ"って。彼女のこの言葉が、ずっと頭の中に残っていたのね」


「なぜ子どもが欲しいか、なぜ母親になりたかったか。それは母となっても、仕事のリズムを変化させることなく続けて行く、という挑戦に応じるということでもあったの。私、子供が仕事の障害となるなんて思ったこともないし、今も思ってないわ。もちろん両立させるのは、とっても疲れることよ。でも、管理すべき2つを有していることに私はとても満足してる。もし仕事がなく子どもしかいなかったら、人生が100%喜びに満たされることがないし、もし子どもがなくて仕事だけだったら、それもまた......。両方があることで、私はバランスが取れているの。クロエが生まれる前、仕事でちょっとしたことがあると頭の切り替えをできなくって、家に帰ってもずっと思い返したりしていたけど、今は違う。帰宅したら機嫌悪くしていられないし、部屋の隅っこにうずくまったりなんてしてられないでしょ。私が仕事場で不調だったかどうかなんて娘には関係ない。そんなことで彼女がとばっちりを受けることはあってはならないのだから、家に帰ったときは仕事場でのことを頭から追い払っておく必要がある。そんなことより、この世にはもっと大切なことがある......子どもを持ったおかげで、物事を相対的に見られるようになったわ」


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主役を踊った昨シーズン最後の公演『リーズの結婚』より。テクニック面もしっかりと、お茶目でちょっぴりお転婆なリーズ役を好演したマリーヌ・ガニオ。
photos Benoîte Fanton/ Opéra national de Paris

 


■ 出産し、仕事を再開する。


「これについても、目標を設定したのよ。12月9日に出産し、規定通りの出産休暇を終えて、2月後半に仕事を再開。母親になってもダンサーの私は何も変わらないということを、オペラ座に対して証明したかったのね。幸いにも産後が順調だったから予定通りに進んだわ。まずは朝のクラスレッスンからスタート。3月末頃か4月の頭だったかに『ダフネとクロエ』の創作が始まったの。 正直なところ、1年間舞台に立っていず、いきなり創作に参加するというのはけっこう大胆なことだったと思うわ。実際、少々腰が引けたのよ。でも、こうして目標を定めたことによって、やるしかないという状況に自分を置いたからこそ頑張れたのね。再開時って何もかもゼロからやり直しというくらい出産以前とは体が異なっていて......。目標がなかったら、なんとなく言い訳をみつけて復帰を遅らせたくなってしまうでしょ。それこそ私が一番したくないことだもの。目標を定め、それを果たしたということに、とっても満足できたわ。そもそも早く仕事に戻りたいとなるように、妊娠中はバーにも触れず......。こうして仕事欲を自分でつくったのよ。今、毎朝、クロエの昼食を準備して家を出るのが9時45分。私、子どもには楽しそうに仕事に出て行く姿をみせたいと思ってるの。仕事にとても満足しているという姿をね。仕事は人生でとても大切なことで、育児との両立ができないなんて考えは古臭いと思う。オペラ座でリハーサルが終わって、お疲れ様、となっても、私にとってそれは1日の終わりということではない。1日の別のパートが次に始まるということ。でも、家に帰って娘に再会する瞬間は本当に心が和むわ。赤子の段階では、常に親を必要としているから甘えてくっついてくるでしょう。その次には毎日のように何か新しいことがあって......ああ、寝返りを打った、ああ今日は何をした、というように進歩が確認できる時期があり、そして今は彼女も話し始めたところなので、親の言うことを真似しようとしたり、やり取りがある関係となったので、とても楽しいわ。親がすることを見聞きしていて、一生懸命に学ぼうとして......。子どもを持つことで私自身も豊かになることができて......最高よ!」

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■ 自分だけの時間を作りだすこと。


「近所に住んでいるダンサー仲間がほぼ同じ時期に出産したので、ふたり一緒に保母さんを雇っているの。今週は私の家なら、来週は友人の家と場所は一週おきで、ふたりの子どもの面倒をみてもらうというやり方よ。これは子どもにとっても、とてもいいリズムなの。自分の家でもうひとりの子どもを迎え入れ、次の週は自分がよその家に行ってその家のおもちゃを借りて遊んで過ごす......ということによって、2つのことを経験することができるでしょ。月曜から金曜の9時45分から20時まで、保母さんをお願いしているの。私たちダンサーの仕事時間は公演内容によって変わるので不規則だけど、それにあった人をみつけるのはとても難しい......。今日は4時間でいいけど、明日は10時間ね、といわれたら、雇われる方にしても、給金が一定しなくって望ましくないでしょう。それで、このように少し長めの時間帯でお願いすることにしたの。稽古だけの日は20時以前に戻れるのだけど、時にはすぐに娘を引き取ることをせずに、ひとりで夕食の支度をすることもあるのよ。そうやって、自分の時間を作ったりして......。また、オペラ座で朝のクラスレッスンと午後のリハーサルの間に時間が空くことがあると、その間外出する人もいるけど、私は楽屋でトゥシューズにリボンを縫いつけたり、のんびりとひとりの時間を過ごし......こうやって自分の時間を持つことによって、帰宅したら子どもに存分にかかりきることができるの。子どもの方でも、もう少し大きくなったら、たとえ自分が親の関心の中央を占めているにしても、親は100%子どものためだけの存在ではないのだ、って理解できるようになると思うわ」


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夏のバカンス中は、子どもとの時間を満喫する好機だ。
photos courtesy of Marine Ganio

 


■ 夫はどのように育児参加をするのか。


「育児について役割分担とか交代とかではなく、フローリアンはすごくよくやっているわよ。時間があればクロエと一緒に遊び、おむつも替えればお風呂にも入れ、寝かしつけて......と。夜に彼女の調子が悪ければ、世話もするし。でも、彼も仕事をしているのでいつも家族三人が一緒というわけじゃないでしょう。私、妊娠中に先を想像してこう思ったのよ。"夫の時間が空くのを待つことなしに、子どもを連れて行きたい場所に行きたい時に自由に行くのには車の運転が必要だわ!"って。免許は入団した最初の年にとったけど、ずっとペーパードライバーだった 。母から譲られたものの活用してなかったオートマチック車があったので、妊娠休業中にまずは近所のショッピングセンター、次は病院へ......と、徐々に行動半径を広げて安心して運転できるように自分を慣らしたのよ。今ではどこでも自由に子供を連れて行かれるようになったわ」


祖父母、伯父、両親がダンサーという家庭に生まれたクロエ。将来はダンサーに......と親は願うものだろうか。


「ダンサーが"とんでもない、私の子供がダンスをするなんて!"って言うのをよく耳にするのだけど、私、これが耐えられないの。変でしょう。こんな風に親が言ったら、自分の親はその仕事でハッピーではないんだ、って子供は思ってしまう。もしもクロエがダンスをやりたいって言ったら、それは彼女のために素晴らしいことだって私は思うの。だって、これは素晴らしい職業だって私は知っているから。私の母が私や兄に対して思ったと同じように、それが親を喜ばせるための選択ではなく、自分自身の選択であることをクロエに願うわ。全身を使う仕事であるダンスは、とても厳しい仕事よ。情熱なしではただ辛いだけの仕事になってしまう。親にとっての喜びは、子供が自分のしたいことを見つけるということでしょう。だから、その喜びはダンスでなくても、柔道でも乗馬でも同じ。クロエ自身が選んだこと、というのが肝心なの。彼女が自分で選んだ道で、満足を得られるように援助するでしょうね。」

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『リーズの結婚』より。photo Benoîte Fanton/Opéra national de Paris

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