何を見ようか、350周年を祝うパリ・オペラ座。

パリとバレエとオペラ座と。

オペラ・ガルニエの舞台にかかる緞帳の上方に、ラテン語で“ANNO1669”と描かれている。現在のパリ・オペラ座の母体となる王立音楽アカデミーをルイ14世が創立したのが、この1669年なのだ。2018年9月に始まるオペラ座の来シーズン、そして2019年12月までその350周年を祝うプログラムが予定されている。また2019年はフランス革命200周年を記念して建築されたオペラ・バスチーユの30周年を祝う年でもある。 レパートリーとクリエーションを謳い文句に、2019年はオペラ座にとって記念すべき1年となりそうだ。新シーズンについてバレエ絡みの気になるポイントをいくつか挙げてみよう。

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パレ・ガルニエの劇場内、1669年と記念すべき年号が掲げられている。

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これから目にすることになる、来季のポスターより。

杉本博司とリック・オウエンスが関わる創作『鷹の井戸』

毎年9月に始まり翌年7月で終わるシーズンのプログラムは、年頭に発表される。2018〜19年のプログラムは1月29日にプレス発表されたが、例年の形式と異なり、ジャーナリストに加え28歳以下位の観客、メセナなども招待してガルニエ宮での公演形式で行われた。 さりげなく小さな文字で“1669年以来モダン”と表紙に書かれたプログラムを開くと、2019年7月で終わるところ、次のシーズンの9月と10月の公演まですでに記載されているという驚き 。

350周年を記念する公演ということで明かされた2019〜20の幕開け公演は、まだ先のこととはいえ紹介せずにはいられない。それは「杉本博司/ウィリアム・フォーサイト」(2019年9月20日〜10月17日)。フォーサイトは彼によるオペラ座での最新創作『Blake Works 1』の再演なのだけど、その前の杉本博司とはいったいどんなバレエ? と好奇心がそそられる。公演名にフォーサイトと名前が並列されているものの、杉本博司は振り付けをするのではなく演出と舞台美術を担当。ウイリアム・バトラー・イェイツの戯曲『鷹の井戸』をベースに創作されるバレエで、振付けはアレッシオ・シルヴェストリンである。杉本、シルヴェストリン、『鷹の井戸』を結ぶキーワードは「能」だが、さて、パリ・オペラ座バレエ団のために、どんなバレエが生まれるのかは2019年9月のお楽しみだ。音楽は池田亮治、そしてコスチュームはリック・オウエンス!!

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シーズン2018〜19の発表会でレオノール・ボラックとフランソワ・アリュが『Blake Works1』の一部を踊った。photo:E. Bauer/ Opéra national de Paris

パリ・オペラ座350周年記念はオルセー美術館でも。

2月25日まで『ドガ ダンス デッサン』展を開催中のオルセー美術館。2019年9月24日から2020年1月19日に催されるのは、ドガの仕事の焦点をオペラ座に絞った『オペラ座のエドガー・ドガ』展である。ドガはバレエだけでなく、オペラ座のオーケストラもよく描いていたこともあり、12月9日には美術館のグランド・ネフでフィリップ・ジョルダンの指揮によるコンサートも行われる。

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発表会では、ドガの絵画の紗幕の後方でオペラ座のバレエ学校の生徒たちがドガの絵画の世界を再現。photo:E. Bauer/ Opéra national de Paris

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セザール・フランクのヴァイオリンとピアノのためのソナタにのせて、白いロマンティック・チュチュが舞った。photo:Mariko OMURA

マーサ・グレアム・ダンスカンパニーとイサム・ノグチのセット・デザイン

シーズン2018〜19年にオペラ・ガルニエで最初に開催されるのは、ゲストのマーサ・グレアム・ダンスカンパニーの公演だ。オペラ座でマーサ・グレアムの作品が踊られるのは30年ぶりとのこと。9月4日〜8日の間、4作品で構成する2種のプログラムがあり、合計5作品が踊られる。そのうち『Lamentation variation』はオペラ座のダンサー・コレオグラファーとして経験豊かなニコラ・ポールが、マーサ・グレアム・ダンスカンパニーのために創作するものだ。イサム・ノグチはこのカンパニーの複数の作品のセット・デザインを手がけていて、その中の『Cave of the Heart』と『Appalachian Spring』がプログラムに入っているので、楽しみにしよう。

さて、オーレリー・デュポン芸術監督はオペラ座を引退して間もなく、フリーのダンサーとしてこのカンパニーに自ら出向いて行き、そのスタイルを学んでいる。2016年にニューヨークで開催されたカンパニーの90周年公演では、ゲストとして参加。彼女とはとても関係の深いカンパニーといえるだろう。オペラ座のこの9月の招聘公演でゲストとして招かれるマーサ・グレアム・ダンスカンパニーが、ゲストに招くダンサーは……オーレリー・デュポンである。

来季の年末公演は、『椿姫』と『シンデレラ』

毎年12月はオペラ・バスチーユで古典大作、オペラ・ガルニエでコンテンポラリーというプログラム。新シーズンはどうかというと、バスチーユではルドルフ・ヌレエフの『シンデレラ』であるから、いつも通り。12月31日にはエトワールのカール・パケットの引退公演が予定されている。2009年12月31日に『くるみ割り人形』を踊り、エトワールに任命された彼。9年目にアデュー! である。ちなみに次の男性ダンサー・エトワールのアデューはステファン・ビュリオンの番だが、彼が定年42歳を迎えるのは2022年と先のことだ。

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2018年12月31日、カール・パケットがルドルフ・ヌレエフの『シンデレラ』でアデュー公演を行う。例年通りシャンパンとプチフール付きの大晦日公演なので、これは特別料金となる。photo:Laurent Philippe/ Opéra national de Paris

さて、オペラ・ガルニエではコンテンポラリーではなくネオ・クラシック作品の『椿姫』である。2014年のオペラ座来日公演で主人公のマルグリットを踊ったアニエス・ルテステュ、オーレリー・デュポン、イザベル・シアラヴォラは全員引退してしまった。クレールマリ・オスタももういない。マルグリットを踊ったダンサーとしていま残っているのはエレオノーラ・アバニャートひとりである。12月、誰が新たにマルグリット役を踊ることになるのか。これは早くもバレエファンの間の大きな興味の的となっている。

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バレエファンの涙腺を大いに刺激するノイマイヤーの『椿姫』。2018年12月は誰がマルグリットを踊るのか? photo:Michel Lidvac

オペラ・ガルニエで特別年末公演

2018年12月30日の14時30分から、12月31日の19時30分からオペラ・ガルニエで開催されるのは、バレエのエクサープトとオペラのアリアで構成される1時間45分の公演である。350周年を祝う2019年に向けての特別公演ゆえ、料金も特別。なお、オペラの歌い手は発表されているが、バレエの方は出演ダンサーがいまのところは不明。

>> マッツ・エックの復帰ほか、コンテンポラリー作品が目白押し!

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引退したマッツ・エックがオペラ座でカムバック

2016年の年頭に、20世紀を代表する振付け家のマッツ・エックは活動から引退し、同時に自分の創作作品の上演を封印することを発表。これはダンス業界にかなりの衝撃を走らせた話題だった。芸術監督オーレリー・デュポンは、この1年半説得を続け、オペラ座のためにふたつの作品を創作することを彼に承諾させた。新シーズンのプログラム発表に際して、彼女は この快挙を「とても誇らしく思っています」と笑顔で発表した。公演はオペラ・ガルニエにて、2019年6月22日から7月14日まで。

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発表会ではオペラやバレエの抜粋の合間に、壇上でさまざまな対談が行われた。写真はマッツ・エック(左)とオーレリー・デュポン。photo:Mariko OMURA

コンテンポラリー作品の大洪水!

9月27日のシーズン開幕ガラでオペラ座のレパートリー入りし、そして、その後引き続いて踊られるのはオハッド・ナハリンによる『デカダンス』。彼の特殊なダンススタイル「ガガ」にオペラ座のダンサーたちが挑むことになるのだ。デュポン監督は、「私も彼と仕事をしたことがあります。いろいろな新しいことを発見できるので、ダンサーたちはこの作品が気に入るでしょう」と。

いきなりコンテンポラリー作品で幕を開けるシーズン2018〜19。2019年7月までのシーズン中、例年以上にコンテンポラリー作品が多くプログラムされているようだ。2月にオペラ・バスチーユでヌレエフの『白鳥の湖』が踊られる以外、2019年に入ってからはコンテンポラリー作品が延々と続く。2月は『ゲッケ/リードベリ/シェルカウイ』、3月はベルギーのローザスがゲストカンパニー、4月は『レオン、ライトフット/ファン・マーネン』、5月にはオペラとバレエの『イヨランタ/くるみ割り人形』の再演だ。『くるみ割り人形』といってもこれはヌレエフ版ではなく、アーサー・ピタ、シディ・ラルビ・シェルカウイ、エドゥアール・ロックの3名が振り付けたコンテンポラリー・バージョンである。そしてシーズンの締めくくりはオペラ・ガルニエで前出のマッツ・エックの創作2品。それとほぼ並行して、オペラ・バスチーユではウェイン・マクレガーのカンパニーのダンサーとオペラ座のダンサーが一緒に踊る『Tree of Codes』の再演である。ステファン・リスネール総裁が語るように、まさに「350周年はレパートリーとクリエーションの年」のようだ。

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来シーズンの最終公演『Tree of Codes』。前回はオペラ・ガルニエで踊られたが、今回はオペラ・バスチーユである。オラファー・エリアソンによる舞台美術を鑑賞するには良い環境かもしれない。photo:Little Shao/Opéra national de Paris

2018〜19年発表はバレエ、オペラの抜粋の間に対談形式でプログラムの内容に触れられるというものだった。バレエ部門については『3つのグノシエンヌ』の抜粋をリュドミラ・パリエロを相手に踊ったエトワールのユーゴ・マルシャンが質問し、オーレリー・デュポンが答えるという3分間があった。オペラ座バレエ団はクラシック・バレエのカンパニーと宣言する一方でコンテンポラリー作品を多くプログラムしていることについて、オーレリー・デュポンのこの新シーズンについての意欲は、ユーゴの質問に対して次のように語った彼女の答えの中に見つけられるのではないだろうか。

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『3つのグノシエンヌ』のリュドミラ・パリエロとユーゴ・マルシャン。2017〜2018の開幕ガラで一度だけふたりによって踊られたヴァン・マネンによるこの作品は、来シーズンは別の配役が加わり4月18日〜5月20日まで踊られる。なお、5月20日は“40歳以下40%割引”の日となっている。photo:E. Bauer/ Opéra national de Paris

「今日のクリエーションは未来のクラシックといえるかもしれません。例えば、20年前に創作されたピナ・バウシュの『春の祭典』を思うと……。だから私はリスクを冒し続けたいのです。これは ダンサーのあなたたちに必要なことなのです。パリ・オペラ座が2019年に350年を祝うという事実、それは、こうした芸術的な野心のおかげでもあると言えます」

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来季のバレエのプログラムについて、『3つのグノシエンヌ』を踊った直後に、ユーゴ・マルシャンがオーレリー・デュポン芸術監督と対談。photo:Mariko OMURA

大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティングエディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。

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