6〜7月は、オペラ座のサイトでコンテンポラリー作品を。

パリとバレエとオペラ座と。

『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』といったルドルフ・ヌレエフの古典大作やロマンティックバレエを観るためにパリ旅行!というバレエファンは少なくない。これらはソリストだけでなく、コール・ド・バレエの仕事も見どころの作品である。そのままモードのデフィレに登場しても通用しそうに美しい男女たちが、豪華な衣装を纏って、一糸乱れぬアンサンブルを見せるコール・ド・バレエはパリ・オペラ座バレエ団ならでは。飛行機代も惜しくない、と思わせる魔力を秘めたクラシックバレエがパリ・オペラ座の強いイメージだ。

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たとえば、3月に東京でも踊られた『オネーギン』。パーティや舞踏会のシーンでコール・ド・バレエが果たす役割はとても大きい。photo : Julien Benhamou

でも最近のパリ・オペラ座では、コンテンポラリー作品も多数踊られていて、いまや年間プログラムの半分以上を占める勢いである。振付家が過去に自分のカンパニーやほかのカンパニーのために創作した作品がレパートリー入りし、また、オペラ座バレエ団のために新たに創作されたり……。ダンサーたちもクラシックからコンテンポラリーまで、幅広いレパートリーを持つカンパニーで踊れることを喜び、誇りに思っている。

パリ・オペラ座のサイトでは、6月半ばから7月半ばにかけてタイプの異なるコンテンポラリー作品の2公演をフルで見ることができる。これはパリまで足を運ばなくても、自宅で新しい世界を発見するよい機会。クラシックバレエではあまり見かけないものの、現代作品で実力を発揮している若手ダンサーが大勢いることにも、驚かされるだろう。今度はオペラ座でコンテンポラリー作品を見にパリまで行こう、と思うことになるかもしれない。なお、オペラ座で7月に改修工事が始まり、オペラ・バスティーユは11月半ばまで、オペラ・ガルニエは年末まで続くことが発表された。この間当然ながら公演は行われない。

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アレクサンダー・エクマンの『Play(プレイ)』(6月15日〜21日)

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41名のダンサーによって踊られる『プレイ』。photo : Ann Ray/ Opéra national de Paris

オペラ・ガルニエで今シーズンを締めくくる作品となる予定だった『プレイ』。これはオレリー・デュポンが芸術監督に就任し、初めてプログラムを組んだシーズン2017〜18年の年末公演のためにアレクサンダー・エクマンに依頼した作品で、彼にとってはパリ・オペラ座のための初創作である。「大人になった時、遊びはどのような意味をもつのだろうか」という彼の興味から生まれた『プレイ』。「観客を驚かせ、日常を忘れさせたい」という意欲をもって創作するエクマンの作品らしく、盛りだくさんの仕掛けの何もかもが桁外れだ。女性ダンサー20名と男性ダンサー21名という数の存在と高い視覚的効果の舞台構成は壮大なショーといった様相を呈し、公演初日から会場を賑わせる成功ぶりだった。あの感動をガルニエ宮に再び!というデュポン芸術監督の願いは今シーズンあいにくと叶わなかったものの、コロナ禍により『プレイ』は全世界の家庭で見られることになったのである。

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オペラ・ガルニエのステージを奥行きのみならず、上までフルに活用した舞台装置。これだけでも見ものである。photo : Ann Ray/ Opéra national de Paris

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幕間。ステージ上のボールをオーケストラピットにかき下ろす作業が行われる。その間いつの間にかダンサーが横たわり……。次の幕では、このボールの中でダンサーたちが踊ることに。photo : Mariko Omura

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カーテンコールの後は、オ−ケストラピットに下りたダンサーたちが大小さまざまなボールを観客席と応酬。劇場中が“遊び場”と化す瞬間だ。このシーンまで撮影されているのか?は、見てのお楽しみ。photo : Mariko Omura

コンテンポラリー作品の場合、オペラ座のヒエラルキーは覆されることがよくある。この作品もしかりで、たとえばフランソワ・アリュ(プルミエ・ダンスール)のデュオのパートナーに選ばれたのは前年入団したばかりのアンドレア・サーリ(現コリフェ)だった。また幕間も含め作品を通して強い印象を残す役を任されているのは、シモン・ル・ボルニュである。彼はいまでこそスジェだが、この作品が創作されたのは彼が臨時団員の時代か、せいぜい入団した年だろう。臨時団員時代が短くなかった彼は、その間に振付家の頭の中にあることを身体表現する力をつけ、コンテンポラリー作品には欠かせぬダンサーへと成長。エクマンも彼のその魅力に抗えなかったようだ。彼同様にエクマンを魅了したもうひとりのダンサーは、キャロリーヌ・オスモンである。リハーサルの途中で彼女のキャラクターに注目したエクマンは、ほかのダンサーに振り当てていた役に彼女を登用したという。毎晩舞台上で観客を笑わせ続けた彼女。この作品で自信を得たのだろう。その直後のコンクールでカドリーユ7年目にしてコリフェへ昇級し、現在はスジェである。

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手前がアンドレア・サーリとフランソワ・アリュ。後方はミュリエル・ズスペルギー。この後に続く、彼女同様に鹿のツノをつけてポワントでステージを女性ダンサーたちが行進するシーンは幻想的でミステリアス。photo:Ann Ray/ Opéra national de Paris

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中央がシモン・ル・ボルニュ。photo : Ann Ray/ Opéra national de Paris

現在プルミエール・ダンスーズのマリオン・バルボーとシルヴィア・サン=マルタンはこの作品の創作当時はスジェだったが、エクマンによって重用されている。こうしてみると、いまオペラ座のピラミッドを着々と登っているのはクラシック作品だけでなくコンテンポラリーダンスでも才能を発揮するダンサーたちのようだ。

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マリオン・バルボー。クラシックバレエのプリンセスといった外見だが、身体能力の高さを駆使し、コンテンポラリー作品で驚くべきパワーを発揮するダンサーだ。シモン・ル・ボルニュ(右)とともに「Alt.Take」というミニカンパニーを主催している。photo : Ann Ray/ Opéra national de Paris

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クラシックバレエの名作からの連想による振り付けの場を踊ったシルヴィア・サン=マルタン。左はヴァンサン・シャイエ。photo:Ann Ray/ Opéra national de Paris

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アンヌ・テレザ・ドゥ・ケースマイケルのトリプルビル(6月29日〜7月5日)

2015年10月に収録された公演『バルトーク/ベートーヴェン/シェーンベルク』で踊られたのは、ベルギーでカンパニー「Rosas」を主催するアンヌ・テレザ・ドゥ・ケースマイケルが創作した3作品である。いずれも、この公演時にパリ・オペラ座バレエ団のレパートリーに加えられた。

公演のタイトルに謳われているのは3作品で使われている音楽の作曲家名で、バレエのタイトルにはどれも楽曲名が用いられている。振り付けの挑発点として音楽が存在する、と語るケースマイケル。彼女とクラシック音楽の密な対話が、この3作品の公演で展開されたのだ。

最初に踊られるのは、女性ダンサー4名による「弦楽四重奏曲第4番」(音楽:ベラ・バルトーク)。黒いワンピース、ソックスと黒いアンクルブーツという衣装だが、黒いスカートの下からときに顔をのぞかせる白いショーツも役割を与えられている。少女から大人の女性への一歩という間で揺れるように、コケティッシュな仕草を見せつつ、エネルギッシュに踊るダンサーたち。リーダー格のダンサーによる“さ、いくわよ!”といわんばかりの掛け声に始まる、4人のシンクロナイズした動きが見事である。

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呼吸ぴったりのアンサンブル! photo : Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

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録画された日の配役はセ・ウン・パク、ジュリエット・イレール、シャルロット・ランソン、ローラ・バックマン(現在はカンパニーRosasに在籍)。photo : Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

次に踊られる『大フーガ』(音楽:ベートーヴェン)は、『弦楽四重奏曲第4番』が100%フェミニンな作品だったのに対し、女性がひとり含まれるものの舞台上のダンサー8名は黒のスーツ、白いワイシャツといった衣装でメンズワールドだ。変ロ長調のとげとげしい部分もある少々とっつきにくい曲にぴったり乗せた振り付けは、激しい動きの連続である。18分間、ステージ上でダンサーたちの身体は転げ回り、空を舞い、ときには崩れ落ちそうに……。

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photo : Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

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エクストリームな動きの連続。観客も息のつけない18分間となる。photo : Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

幕間の後に踊られるのは『浄夜』(音楽:アルノルト・シェーンベルク)。前の2作品から一転し、月明かりが照らす白樺の森という詩情に満ちたステージが舞台に登場する。

別の男の子を宿している女性は、真実の愛情を知ったいま、後悔し、罪悪感があると彼に語る。それに対して、彼はお腹の子どもは自分の子でもあると彼女を許し、ふたりはともに夜の明るみを進んでいく……といった、森の中で交わされた愛し合う男女の会話をテーマにしたリヒャルト・デーメルの詩にインスパイアされたシェーンベルク。物語をたどるように曲を書いた。第1部は女性の告白のモノローグ、第2部は男性の答え、そして第3部は男女の結びつきと、曲の進行に合わせて振り付けされたダンスなので自然と物語が目に見えてくる。コンテンポラリー作品には珍しく、メランコリックでポエティックだ。

1986年から95年の約10年の間に、この3作品は創作されている。女性の身体言語、男性の身体言語と続き、最後が男女の身体言語。この3作品で構成された公演は2018年、オペラ座で再演された。

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photo : Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

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配役されているダンサーの中には、いまや引退したカール・パケット、マリ=アニエス・ジロも。photo : Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

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『350周年記念ガラ』(7月6日〜7月12日)

上の2公演を楽しんだものの、やはり、もう少しクラシック寄りの踊りが好み、というのであれば、『350周年記念ガラ』を待とう。これは2018年12月末に2回公演されたオペラとバレエのミックス・ガラで、どちらも名作からの抜粋ばかり。バレエはジョン・ノイマイヤーの傑作のひとつ『椿姫』から、第1幕の青のパ・ド・ドゥと第3幕の黒のパ・ド・ドゥ。前者はレオノール・ボラックとマチュー・ガニオ、後者はエレオノーラ・アバニャートとステファン・ブリヨンによって踊られる。このふたりはさらにローラン・プティの『カルメン』の有名な寝室のパ・ド・ドゥも披露。そしてコンテンポラリー作品のパ・ド・ドゥの中でも神話的存在であるアンジュラン・プレルジョカージュ振り付け『ル・パルク』の解放のパ・ド・ドゥ(フライング・キス)、これはアマンディーヌ・アルビッソンとフロリアン・マニュネが踊る。

ボラックとガニオが踊る『椿姫』第1幕の青のパ・ド・ドゥの一部はYouTubeで視聴可能だが、前後カットされている。このガラ公演ではカットなしで堪能できる。

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ボーナス!

エトワールダンサーが素顔で語るシリーズ『Parcours d’Étoile』にアマンディーヌ・アルビッソンが加えられた。階段のシーンに始まり、楽屋の鏡にサインするシーンで終わるのはいつも通り。その間、彼女の語りに合わせ、子ども時代のステージ姿、ユーゴ・マルシャンと踊ったロビンスの『牧神の午後』、『オネーギン』での任命、デフィレなどの映像が挿入されている。

8月5日まで『ジゼル』全幕を楽しめるのは、あいにくとフランス国内のみ。ただし、主役アルブレヒト役を数多く踊っているマチュー・ガニオが作品の思い出を語る英語字幕つきの映像は世界のどこからでもOK。パートナーのドロテ・ジルベールと踊るいくつかの名シーンに、来日公演での感動が蘇るのでは?

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大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。
Instagram : @mariko_paris_madamefigarojapon

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