世界は愉快:クリスマス編 From ロンドン ささやかな幸福をシェアし合う、イギリスのクリスマス。

世界は愉快 2020.12.06

文・写真/坂本みゆき(在イギリスライター)

キリスト教の国ながらもイギリスではもう、クリスマスを宗教に直接結びつけて捉える人はあまりいないかもしれない。ホリデー期間中は教会を訪れるよりも、家族で集いリラックスした時をともに過ごすことを最も大切にするのが私の周りでは一般的となっている。

ちなみにイギリスでクリスマスのお祝いをするのは25日。ごちそうを食べるのは、そのお昼。24日は早仕舞いするお店が多いものの普通の日で、26日はボクシングデーという祝日だ。ボクシングデーの由来ははっきりとはしないそうだが、一説には25日のクリスマスまで働きづめだった使用人たちがやっと仕事から解放されて自分たちのプレゼントの箱(ボックス)を開ける日だったからと言われている。

さて話を戻すと、クリスマスは親しい人とのかけがえのない癒しの時であるからこそ、自分たちだけではなく、厳しい時を過ごす人たちに少しでも「幸福のおすそ分けを」という考えが根付いている。その想いは未曾有の年だった今年、一層強いように感じる。

その例のひとつは「キブ・ア・リトル・ラブ」と訴えるデパート、ジョンルイス&パートナーズ(以下ジョンルイス)とチェーン系スーパーのウェイトローズ&パートナーズ(以下ウェイトローズ)の、ふたつの兄弟会社によるCMだ。レディオヘッドのミュージックビデオを手がけたアーティスト、クリス・ホープウェルや、フランスのアニメーター、シルビアン・ショメら、そうそうたるクリエイターが制作に参加している。

毎年、年末が近づくと大手スーパーやデパートはクリスマス広告を出す。年末商戦に向けて多額の予算がかけられた広告は、きらびやかで豊かさにあふれ、人々の購買欲をそそるのが常だ。でも今年のジョンルイスとウェイトローズのCMには、プレゼントやご馳走がほとんど出てこない。

登場するのは、さまざまな市井の人々(&動物たち)。ふたりの子どもたちの実写映像から始まり、その後はアニメーションやCGなどで物語を紡いでいく。そこには子どもからお年寄り、動物たちがさりげなく周囲を気遣うことで小さな幸せがあちこちで広がっていくストーリーが描かれている。

waitrose_1.jpg.jpeg全編を通してさまざまな肌の色の人が登場し、助け合いの輪を広げていく。

waitrose_2.jpg.jpeg車のタイヤがパンクして困っているスノーマンたちにも救いの手が。イギリスのどこの町にもありそうな商店の風景も良い。

この広告は、パンデミックの最中に他者への優しさをことのほか意識して実践していたイギリスに住む人たちの心にインスパイアされてつくられたものだという。確かに最初のロックダウン中に毎週行われていた医療従事者への感謝の拍手や、キーワーカーたちを讃えるために今でも至るところに掲げられた虹の絵など、この国の人々の心遣いが辛い一年を乗り切る潤滑油になってくれていた。

またこのCMは、フェアシェアとホームスタートというふたつのチャリティ団体のために400万ポンドを集めることも目的としている。フェアシェアは食糧を買えずに苦しむ人たち、ホームスタートはサポートを求める子どもを持つ親たちのための団体だ。いまの世の中で増え続ける不安定な暮らしをする人たちの生活の基盤を支えている。私だっていつお世話になるかわからないから、他人事じゃない。そしてお金を寄付するだけではなく、必要とする人に助けの手を差し伸べること、ローカルコミュニティの活動に参加することなども有意義と訴えている。

クリスマスの「おすそ分け」には、チャリティ団体が販売するカードやグッズをあえて選ぶというのも長く続く定番だ。購入することで売上の一部がその団体に寄付されるようになっている。

a.JPG.jpegジョンルイスとウェイトローズのCMでも登場し、イギリスのクリスマスのテーブルセッティングになくてはならないクリスマスクラッカー。両端を同席する人と一緒に引っ張ってクラッカーを鳴らす。今年、私はホームレス支援の団体、シェルターが販売しているものを購入した。

b.JPGどのクリスマスクラッカーにも共通しているのは、紙の王冠(ご馳走を食べながらこれを被るのが一般的)、小さな贈り物とともに、ジョークやクイズが書かれた紙が入っていること。CMでおじさんが大笑いしていたのは、このジョークの紙片だ。

c.JPG.jpegチャリティのクリスマスカードは裏面を見ると各団体名がある。また、キリスト教徒ではなくクリスマスをお祝いしない人もいるので、季節のご挨拶「シーズンズ・グリーティングス」とだけ書かれたカードも多い。

今年のクリスマスは家族と集うのを諦めて、自宅でひっそりと過ごす人も少なくないと聞く。それでもちょっとだけ近隣に目を配ることで、例年とは違った特別を味わえるのかもしれない。そう気付かせてくれたのはホームセンター、ウッディーズのこのCM。イギリスではなく隣国アイルランド共和国の会社だけれどもロンドンのメディアでも取り上げられるほど話題となっていた。

1分間のCMながら、まるでドラマを見ているよう。最後には涙腺が緩んでしまう。


2020年の年末が、すべての人にとって少しでも安らげる時となりますように。


【関連記事】
世界は愉快一覧

texte et photos : MIYUKI SAKAMOTO

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

清川あさみ、ベルナルドのクラフトマンシップに触れて。
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
2024年春夏バッグ&シューズ
連載-鎌倉ウィークエンダー

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories