川村明子のコペンハーゲン滞在記。#02 コペンハーゲンの麹スピリッツと、衝撃の食体験。

Travel 2020.02.23

「パリ街歩き、おいしい寄り道」を連載中のパリ在住フードライター、川村明子がデンマークの首都コペンハーゲンへ。第2回では、素敵なパン屋さんから麹スピリッツのアトリエ、フードマーケットなどの散策、そして昨年オープンし話題のレストランでの衝撃的なディナーを紹介。

>>DAY 1はこちら。


DAY2

前夜の興奮が冷めやらぬまま迎えた2日目の朝。
元「ノーマ」の発酵食品担当シェフだった人が始めた、麹を使ったスピリッツのアトリエに行く約束をしている、というフードエッセイストの平野紗季子さんに、私も連れていってもらうことにした。

「ノーマ」のマネージメントアシスタント&プロジェクト担当のリサさんが案内をしてくれるそうで、アトリエ近くのパン屋さん「Lille Bakery」で待ち合わせ。

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タクシーは「ノーマ」の前を通り過ぎ、さらに先まで行った。
降りると、ずいぶんひと気のない場所だ。
でも、パン屋さんの入っている建物の色と、バラバラと置かれた緑のカゴの組み合わせがすでに可愛くて、ワクワクしてきた。
コペンハーゲンの人はどうやら、お店の外にバギーを置いて、中に入るらしい(赤ちゃんもバギーの中にそのままってこともあるらしい)。

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色の組み合わせが、パリにはないものだなぁ。
ちょっと青みがかった白いバケツもいいなぁ。

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うわぁぁぁ

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夢のような場所だ。
外の寒さと、室内の温かさと、充満する匂いと。

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どれもこれも食べてみたかったのだけれど、大きな天然酵母パンのスライスとドーナッツとデニッシュを。
この天然酵母パンがとっても好みだった。
生地がみずみずしい、ぷっくらしたタイプ。
サンフランシスコで食べたパンを思い出させた。
パリにはここまで水分量が多いパンはないんじゃないかなぁ。
翌日に帰る予定だったら、丸ごと買いたかった。

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椅子がバラバラなのも、朝からロウソクが灯されているのも、大皿にオレンジじゃなくてカボチャが積まれているのも、少しずつちょっと日常と違うことに、静かにふつふつとワクワクした。

Lille Bakery
Refshalevej 213A, 1432 København K
tel:なし
営)8時~17時
休)月、火
https://lillebakery.com

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紗季子さんと私は、わりとふたりとも空間に身を浸してぼーっとしている。
そんなところにリサさんがやってきた。
挨拶をして、さっそく歩いて、麹スピリッツ製造所「Empirical Spirits」へ。

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ひっそりとした入り口から入ると、アトリエと言うにはずいぶんと大規模な製造所だった。

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いくつも試飲をさせてもらい、お話をうかがって、元はこの小さな部屋から始まったんだ、という場所も見せてもらった。製造所内には麹室もあった。

Empirical Spirits
Refshalevej 175B, 1432 København K
tel:なし
営)12時~19時
休)月、火、水
https://shop.empiricalspirits.co

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バスに乗って街中に戻り、リサさんとはここでお別れ。
やっぱり車よりも自転車が多い。
スピリッツをいくつか買ったので、ホテルに荷物を置いて街歩きに。

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老舗のお菓子屋さん「La Glace」でお茶をしようと向かったら……

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長蛇の列。で、断念。
クリスマスシーズンのショーウィンドウはサンタさんがいっぱいで、どれも子どもの頃に思い描いていたサンタクロースの姿だった。
窓から覗いた半地下のサロンドテは小さめのテーブルが所狭しと並んでいて、人もギュッギュッと詰まって座っているように見えた。

La Glace
Skoubogade 3, 1158 København
tel:+45-3314-4646
営)8時30分~17時30分L.O.(月~金) 9時~17時30分L.O.(土) 10時~17時30分L.O.(日)
休)1/1、12/25、12/26
https://laglace.dk
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街中に数店舗あるらしい「Emmerys」というオーガニックパンとコーヒーのチェーン店でシナモンロールを買ってみたのだけれど、うーん、ぼそっとしていてあんまり好みではなかったなぁ。

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少し北側に歩いていき、フードマーケット「Torvehallerne」へ。

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人気コーヒーショップやら、スモーブロー(オープンサンド)専門店やら、カウンターで食べられる飲食店が全体の3分の2くらいだろうか。
とても楽しそうだと思うのだけれど、いつもこういうところではためらってしまって、結局何も食べずに終わってしまう。

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2棟あり、その合間に青果を売っているスタンドとお花屋さんがあった。
この写真は16時4分。暗くなるのが早いからか、帰宅ラッシュもこの時間だそう。

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ブーケも国が変わるとこんなに趣が変わるものなのだなぁ。
こうも暗い時間が長いと、暖色系を欲するのかもしれない。

Torvehallerne
Frederiksborggade 21, 1360 København K
tel:+45-7010-6070
営)10時~19時(月~木) 10時~20時(金) 10時~18時(土) 11時~17時(日)
無休
https://torvehallernekbh.dk

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ミカンだけ買ってフードマーケットを後にし、地下鉄のNørreport駅周辺のスーパーマーケットを少し覗いてから、人の流れのある、歩行者専用らしい道を歩いていってみることにした。

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次から次へと人々が足を止め、ショーケースを覗き込む店があった。見ると、お肉屋さん。質がよいのだろうか? マダムとムッシュが4人、頭を付き合わせずっとあーだこーだと話している。クリスマスの相談かなぁ?

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少し人がいなくなった隙に、近くに寄ってみると、吊り下げられているものがサラミ類じゃなく、豚のスペアリブとかバラ肉でもかなり大きな塊で、なんだかバイキングのいる国って感じだ。それぞれの色から、干され加減に違いがありそうなことがわかる。惹かれるなぁ。そして、それら肉塊の手前には黒い帽子がかかっていた。お店のトレードマークなのかな?と思ったら、奥に見える店員さんたちがみんな、被ってる! こんなお肉屋さん初めて見た。どうも1888年創業っぽい。

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お肉屋さんの先に開ける広場には花屋さんが軒を広げていた。もう完全な夜に見えるけれど、まだ夕方16時台。この日照時間で生活をしていたら、日本やフランスで感じる以上に、花や植物の存在が大きいだろうと思う。

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イルミネーションは、トナカイ。どこかに連れていってくれそうだ。

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ホテルの方向に向かって歩き始めたら、教会と大学のある広場に出た。
17時だからまだ人通りもたくさんだったけれど、もう少し人が少なくなったら、あまりに暗くてちょっと怖かったかもしれない。治安的に不安は感じなかったけれども。
どこかの都市において、日が暮れたとたんにこんなにも真っ当な暗さを経験したことはこれまでなかったように思う。
そのことに、どこかしらホッとした。これでいいんだよな、と思った。

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ホテルが近づいてきたところで、また1軒お花屋さんがあった。鮮やかな花の色は、明るさのオアシスみたいだ。

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そして、この夜ディナーに向かったのは、朝、見学に訪れた「エンピリカル・スピリッツ」の並びに昨年6月の終わりにオープンしたレストラン「Alchemist」。

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店をオープンし予約受付を開始して4分で、3カ月分が埋まったらしい(その次の3カ月も4分で完売になったそうだ)。レストランの入り口は、「ノーマ」とは別の意味で、未知の世界への扉だった。
ニューヨークをテーマに彩られた小部屋で迎えられ、続いて通されたのは、ガラス越しに厨房というよりは実験室、の見えるラウンジ。

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料理にペアリングするドリンクのメニューを見つつ、アペリティフを飲んでいると、最初のおつまみが運ばれてきた。空気を含んだドライアイスのようなそれの料理名は「Greed」。“貪欲”もしくは“食い意地”の意味になる言葉を充てられた白いものは硬くて、昔売っていたプラスチックの容器入りのカキ氷のようにガリガリとスプーンで削る必要があった。のに、口に含むと、あっという間に消える。溶けてなくなるほどの時間はかからない。え?こぼした?と勘違いするくらいに、口に入れたとたんにすっと消える。

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素直にネーミングするならエフェメール(フランス語で「はかない」の意味)とかになるだろうか。でもそこを貪欲とか食い意地って、ずいぶんと挑戦的というか人を試すようだなぁ。

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「Greed」のインパクトが強すぎて、そこから出てくるものに対して、少し身構えてしまったが、「Dumpling」「Sunburnt Bikini」など、わかりやすいものが続いた。

アプリティフタイムが終わり、おびただしいコレクションのワインセラーを横目にしてメインフロアに案内されると、天井に描かれたものに、「Greed」で芽生えた気持ちがまた顔を出した。

クラゲとビニール袋が海中に漂っている。

正直に書こう。
私はこの日の食事で出されたものの味を、ほとんど覚えていない。
ただ、まずいと思ったものはひとつもなかったし、おいしいものはいくつもあった。
出てきたのは45品。覚えているのは、触感だ。舌触り。いくつかはとても鮮明に記憶している。

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メッセージが痛烈で、こんなふうに食べ物と向き合わなくちゃいけないの?と受け止めきれずに疲れ果ててしまったけれど、ノーマとは対極の、未知の体験をした。
環境汚染を始め、食にまつわる問題や疑問を、そのまま食べる(口にする)感覚のものが何皿かあった。
料理でこんなふうにメッセージを表現できるのだ、ということが何よりもの衝撃だった。
すごい食体験をしたなぁと思う。

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奇抜なものばかりではないのです。

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牛の乳房から飲むデザート。デンマークの人たちは、それは楽しそうに、ゲラゲラ笑いながら口に含んでた。

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最後はオーロラになりました。

Alchemist
Refshalevej 173C, 1432 København K
tel:+45-3171-6161
営)17時30分~閉店時間不定
休)日、月、火
https://alchemist.dk

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photos et texte : AKIKO KAWAMURA

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