
世界は愉快:秋のお祭り編 from 香港
満月と月餅を愛で、舞う火龍に見とれる香港の中秋節。
毎月ひとつテーマを設け、お国柄や街の様子をお届けする連載「世界は愉快」。11月は「秋のお祭り」がテーマです。
特集
November 13, 2020写真・文/甲斐美也子(在香港ジャーナリスト、編集者、コーディネーター)
香港で旧正月に続き大事な季節行事なのが「中秋節」。その日は家族が夜に集まって食事をし、年間でいちばん美しい満月を眺めながら月餅をいただき、その後は提灯を持って出かける。大人も子どもも夜更かしになるため、実は中秋節当日ではなく翌日が祝日になっている。
日本で言うところの十五夜にあたり、旧暦の8月15日と決まっていて毎年日にちが変わる。2020年は10月1日。人間界で暮らしていた天女と神の夫婦が離ればなれになり、下界に戻れなくなった妻が月でウサギとともにひっそりと暮らしている、という中秋節にまつわる昔話が『嫦娥奔月(ソンゴーバンユッ)』。日本にもある「月と言えばウサギ」という組み合わせは、こちらが発祥らしい。
中秋節の頃には、香港の街角に赤と金を基調にした提灯が飾られ、それが夜の闇に浮かび上がると何とも言えない幻想的な風情になる。まだまだ暑い香港の夜でも麗しく光る月と悲しいストーリーが相まって、きゅっと胸が締め付けられるのが、秋の始まりのような気がしている。
中秋節が近くなると香港らしい赤と金の提灯があちこちに飾られる。
とはいえ2020年の中秋節はコロナ禍の影響で、例年になく静かなものだった。毎年中秋節に大坑(タイハン)というエリアで行われる伝統行事「舞火龍」も、残念ながら今年は中止。地元の人が総出で作る長さ67mの龍に約1万本の線香を刺し、100人もの担ぎ手が巧みに龍を操りながら通りを練り歩くさまは迫力たっぷりで、まるで生きているかのように見えてくる。
街ぐるみでの伝統行事とあって、近所の子どもたちも活躍。ワクワクしている様子が可愛いらしい。2017年の様子。
間近で見ると躍動感たっぷりで勇壮な龍の姿に感動する。ポメロに見立てた球形を龍が追いかけるように動き回る。見に行った帰りは、全身が線香くさくなるのがお約束。
さて、「中秋節」といえばやはり「月餅」。香港では中秋節の1カ月以上前から、月餅を贈り合う習慣があり、高級店からファストフードチェーンまで、あらゆる飲食店やブランドが知恵を絞って、話題を集める今年の月餅デザインを競っている。
今年はやはり、この「月餅商戦」も例年より控えめだった。それでもやはり気合いのこもった素敵な月餅をいろいろいただいた。 箱のデザインの美しさにうっとりしたのが、最高級ホテル「ローズウッド香港」の月餅。ホテルのあるビクトリアハーバーや香港の自然を描いた地元アーティストの繊細なイラストに目を奪われた。
ローズウッド香港の月餅は、パッケージの美しさにほれぼれ。ビクトリアハーバーにそびえるホテルの外観も描かれている。月餅はふんわり優しいカスタード味。六角形のケースは大紅袍茶の茶葉入り。
ボックスを提灯に見立てたデザインもあり、高級広東料理店ダドルスでは深みのある赤が何とも言えず美しい本格的な提灯風。日帰り圏内でよく仕事にプライベートに通っていたマカオは、コロナ禍になってから往来ができなくなっているが、カジノホテルのウィン・マカオからは中に月の形をしたライトが入ったボックスで送っていただいた。
毎年麗しいダドルスの月餅ケース。壁から下げれば提灯風デコレーションになる。温めて切るとカスタードがトロリと流れ出す今年人気のタイプだった。
曇りがちだった今年の中秋節にちょうどよかったのがウィン・マカオの月形ライト入り月餅ケース。ちゃんとクレーターまで描かれている。
ちなみに中身は、蓮の実餡の中に月に見立てた塩漬け卵を入れた伝統タイプと、万人受けするカスタードクリームが入ったミニタイプが双璧で、ほかにもアイスクリームやチョコレートなどさまざまな種類がある。今年らしかったのが、ベジタリアン・チャイニーズのレストラン「ミス・リー」からいただいたビーガン月餅。従来の月餅は保存が効く分、非常食になるほどの高カロリーで決して健康的な食べ物ではなく、ダイエットの大敵でもあったので、今年からヘルシータイプがぐっと増えたのはとてもありがたい傾向!
紫芋とショウガ、サンザシと梅などの食材で作られたベジタリアン月餅は、ミス・リーから。
クラシックな月餅には塩漬け卵が満月として入っていて、切るとこんな風に見える。ひとつの月餅にふたつの卵が入っているとますます縁起がいいとか。こちらはシノ・ホテルから。
毎年人気が高いザ・ペニンシュラ香港のペニンシュラ・ブティックから届いた月餅セットには、茶器とプーアール茶までが含まれていて、さっそくティータイム。
厳しいソーシャルディスタンス下での2020年の中秋節。来年は活気あふれるお祭りが戻りますように。
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photos et texte:MIYAKO KAI