
世界は愉快:秋のお祭り編 from ベルリン
ドイツの秋に食す、ガチョウの丸焼きと名物パンの由来は?
毎月ひとつテーマを設け、お国柄や街の様子をお届けする連載「世界は愉快」。11月は「秋のお祭り」がテーマです。
特集
November 15, 2020文・写真/河内秀子(在ベルリンライター)
冬の足音が近づいてくる、11月のドイツ。手作りのランタンを手にした子どもたちが、暗い街並みを照らしながら練り歩くランタン行列が行われるのが、11月11日、聖マルティンの日だ。
マルティンとは、寒さに凍えていた貧しい人に、自分のコートを半分に切って分け与えたという、ローマの兵士。後に司教となったマルティンの命日を祝うのが、この聖マルティンの日だ。「ランタン、ランタン、太陽と月と星よ♪私のランタンに灯りをともしておくれ♫」と歌う子どもたち。ランタンの灯りには、聖マルティンの温かい行いによってもたらされた希望の光という意味が重ねられているという。
最近は、ランタンに蝋燭ではなくLED電球を使うことが多い。
この聖マルティンの日のディナーは、ガチョウの丸焼きと決まっている。その由来は、司教に任命されたもののなりたくなかったマルティンが、こっそりガチョウ小屋に身を隠していたところ、ガチョウが騒いで見つかってしまったために、罰としてガチョウを焼いて食べることになったという逸話にある。
しかし、1羽が4〜5kgもあるガチョウの丸焼きを自宅で作るとオーブンで4時間も焼いたりと大変だし、作ったところで食べ切るのも大変。そこでこの時季は、ドイツ各地のレストランで登場するガチョウのメニューをいただくのが一般的。最近では、聖マルティンの日にガチョウの丸焼きの食べ放題をやる店もある。紫キャベツの赤ワイン煮やじゃがいものお団子を添えていただくのが定番で、ボリュームたっぷり、お腹から温まる冬を告げる味だ。
ベルリンの老舗レストラン、Joleschの、ロックダウン・テイクアウトメニューにもガチョウが!すごい迫力。お腹に栗やハーブなどを詰められたガチョウは、野菜と一緒にじっくりグリルされる。
聖マルティンの日のもうひとつの名物が「ヴェックマン」と呼ばれるパン。「ヴェックマン」以外にも、「マルティンスブロート(マルティンのパン)」などと地方によって名前が異なるが、人型のパンで手にパイプや木の枝を持っているのが特徴だ。もともと聖マルティンを象ったものなので司教が持つ杖を手にしていたが、後にその意味が失われパイプになったという説がある。ブリオッシュのようにバターがたっぷりのパンは、ほんのり甘く、やわらかい。
今年は、コロナ禍でランタンの行列が行われなかったところが多いが、こんな時代だからこそ、街には希望の光が必要だ。ガチョウの丸焼きにおいしいパンでパワーを充電し、来年は子ども達の行列と歌声が戻ることを願いながら、暗く寒い日々を乗り切りたい。
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photos et texte:HIDEKO KAWACHI