ストリートから発信、フェミサイド告発コラージュの威力。
Culture 2021.06.14
女性を標的にした憎悪殺人という犯罪行為、フェミサイド。残念ながら、世界中にある暴力問題のひとつであり、日本も例外ではない。けれども、独創的なアイデアで声なき犠牲者たちのためにメッセージを発信し続け、国境を越えてその運動を広げているフランスの若者がいる。
Marguerite Stern
Paris

©AFP/ Aflo
マルグリット・ステルヌ。1990年、オーヴェルニュ生まれ。
2012年からFEMENに参加。19年、反フェミサイドのコラージュを開始。
Twitter:@Margueritestern, Instagram:@marguerite_stern
---fadeinpager---
誰にでも真似られるスタイルで、
世界にフェミサイド告発のメッセージを。
「信じるよ」「ジュリーに正義を」「私たちは、もう語れなくなってしまった女性の声」――アルファベット1文字を書いたA4の紙を並べて文章にしたコラージュがパリの街角に現れたのは、2年ほど前。いまではそのシンプルなスタイルで、フェミサイドを告発するメッセージとして認知されている。コラージュを行なっているのは、特定のフェミニスト団体ではない。ひとりの女性が単独で始めた運動が、無名の賛同者たちに広がったものだ。
「13歳の時から、街を歩けば不躾な視線と言葉を浴びせられ、圧迫感を感じていた」と語るマルグリットは、応用アートを学ぶため、18歳でパリに上京した。2012年、フェミニスト集団FEMENに出会う。FEMENは、トップレスで抗議行動を行うことで知られるウクライナ生まれのフェミニズム団体だ。
「初めてFEMENのスクワットを訪ねた時のことはいまもはっきり覚えています。古いシアターで、木とビールの匂いがした。自分の気持ちを分かち合える仲間に初めて出会ったと感じ、その5日後にはもう抗議運動に参加していました」と彼女は当時を振り返る。活動の場は海外にも及び、逮捕や脅迫と背中合わせの暮らしが3年間続いた。「自宅に銃弾を撃ち込まれたこともある」と言う。「いまも心はFEMENの仲間」だが、彼女はマルセイユに引っ越し、活動と距離を置くことにした。
---fadeinpager---
それでも、何かしたい気持ちを抱えたマルグリットは、ストリートにコラージュで表現することを思いつく。「最初のコラージュで語ったのは、自分のことでした。『13歳の時から、街で、男たちに外見をとやかく言われてきた』という文章」。そして、2019年3月3日、ジュリー・ドゥイブが前夫に殺害される事件が起きたのをきっかけに、彼女は、殺害され、自分で語ることができなくなったフェミサイド犠牲者の代わりに語り続けることを決意。たったひとりで、半年間、マルセイユのストリートにフェミサイド告発のコラージュを貼り続けた。半年後、パリに戻り、SNSで繋がった仲間とともにコラージュを続行。
それから2年。仲間とともに、あるいは単独で、メッセージを発信し続ける。テーマはフェミサイドや強姦に絞り、A4の白紙にアルファベット1文字ずつ、のスタイルを守り続けている。「同じ大きさの紙を並べるだけだから、デザインのセンスも、特別な道具もいらない。決まり事があるからハーモニーが自然と生まれる」というマルグリットは、ちょっぴりアート学生だった頃の顔を覗かせる。「SNSで繋がるのは、すでにテーマに関心を持っている人。でも、ストリートは、みんなに向けて発信できる。遠くからでも読めるメッセージで、ストリートを女性の手に取り戻す意味もある」とマルグリットは言う。
海外の見知らぬ人からSNSでメッセージが届き、簡潔なメッセージ作りのコツなど、アドバイスを求められることも多い。いまでは欧州各地はもちろん、トルコやインドにも同じスタイルのコラージュを続ける仲間ができた。決まったコードがあるから、メッセージは直球で伝わる。同じスタイルのコラージュは、その街に同じ気持ちの仲間がいることの証でもある。「日本語のメッセージのコラージュがあったら、ぜひ写真を送ってほしいわ」と笑顔を見せた。
*「フィガロジャポン」2021年7月号に一部掲載。
text: Masae Takata(Paris Office)