Culture 連載
きょうもシネマ日和
現代イタリア映画の最高傑作! ローマを舞台にめくるめく"美"が織りなす世界。 『グレート・ビューティー/追憶のローマ』
きょうもシネマ日和
あれ? いつもより人が少ない? 駅のホームで何度も首をかしげて、やっと気づく。そうだ、世間はお盆で夏休み。東京で暮らす社会人の皆さんは帰省 or旅行(or自宅でダラダラ、じゃなくてのんびり)されているのだわ。
テレビのニュースで、海外でバカンスを過ごす人たちがスーツケースを引いて歩く成田空港の様子が映っていた。「いいなぁ......海外」と心の中で呟きつつ、地下鉄に乗り込み試写室へ。この日の作品は『グレート・ビューティー/追憶のローマ』。本作を観た後、私の「いいなぁ......海外」は吹っ飛んだ。なぜなら、もうこの先、これ以上は無いのでは? と思えるほど、圧巻の美しさで描かれたローマに出逢ったからである。
◆ ストーリー
現代のローマ。過去に「人間装置」という小説で高い評価を受け、今はジャーナリストのジェップは、俳優やアーティスト、実業家、貴族、モデルなどが集うローマの華やかなセレブコミュニティの中でも、ちょっとした有名人。彼は65歳になった今でも、毎夜、レセプションやパーティーを渡り歩く日々だが、内心ではそんな毎日に嫌気が差していた。ある日、彼の元に忘れられない初恋の女性の訃報が届く。これをきっかけに、彼の行動は変わり始める。
◆ 美しすぎるローマの建造物や美術品に触れながら
"ローマ中のセレブからもてはやされ、地位もお金も手に入れた65歳の主人公が、初恋の女性の死によって改めて幸せや本当に欲しいものを探し始めるストーリー"と聞くと、何となくシンプルなハートウォーミングものかと想像してしまいがちだが、とんでもない。本作は、圧巻的にゴージャス、高潔と低俗が混じりあい、品と重厚さに満ち溢れながら、軽やかさを持ち合わせ、人間の精神の深淵にまで観る者の感性を誘う、壮大なスペクタクルなのです。
......なんて読んでも「???」ですよね(笑)。もう少し具体的に書くと、65歳を迎えた主人公ジェップが、自分を形成したローマの地で、改めて自分にとっての"美"を探求していく中で様々な出逢いを経験する。そんな彼が過去を回想(妄想)するシーンや、目の前で起こる出来事、そして日々深まっていく思索が、荘厳で眩いローマの景色と戯れながら、あらゆる方向から感性を刺激するように描かれる、といった感じだろうか(ユーモアもたっぷり。難しそうなんて思わないで!)。フェデリコ・フェリーニをご存知の方には、『甘い生活』と『フェリーニのローマ』って感じなの! と言うとピンと来てもらえそう。
◆ アカデミー最優秀外国語映画賞ほか、全世界で大反響!
◆ さいごに
本作はぜひ感性を100%全開にして、あらゆる美が詰まったワンシーン、ワンシーンに身も心も委ねてみてほしい。そして、主人公ジェップの知性と品に溢れたちょいワル感も楽しんで。様々なスーツを着こなす大人の男の余裕を感じさせながらも、時に見せる弱気な態度は初老ジェントルマン好きにはたまらないはず。
めくるめく"グレート・ビューティ"な世界が展開され、終盤に向けて本質へと迫っていく物語。上映時間141分、こんな贅沢な旅があってよいのだろうか? と、様々な想いで心が満たされる。この夏、私はまた1枚、同じチケットを買うだろう。夏休みの旅は、もうこれで十分。
『グレート・ビューティー/追憶のローマ』
監督:パオロ・ソレンティーノ
キャスト:トニ・セルヴィッロ、カルロ・ヴェルドーネ、サブリナ・フェリッリ、ファニー・アルダン
8月23日よりBunkamuraル・シネマ他全国順次公開
http://greatbeauty-movie.com/