創り上げることへの対話〜青木ロビン×青木崇高 対談(前編)
Music Sketch
今回はコラム初の対談。青木ロビンはdownyというバンドで活躍しつつ、地元沖縄を中心にインテリアデザインやアパレル、レストラン経営など、多角的に活躍するミュージシャン。他方、青木崇高はここ数年、飛ぶ鳥を落とす勢いで注目されている実力派俳優だ。10代の頃からの友人という個性の強い2人に、互いの人生に刺激を受けながら、音楽活動や演じることについて語り合ってもらった。
■ ミュージシャンとデザイン専門学校生として出逢って
― まず、知り合ったきっかけを教えて下さい。
青木崇高(以下、M):「僕は東京のデザインの専門学校で勉強していて、その時のクラスメートが沖縄出身で、彼にミュージシャンの友達がいるということでロビンのライヴに行ったんです。その時はdownyの前のアニールというバンドだった。僕自身ミュージシャンの友達とかいなくて、それで見に行ったり、飲んだりとかして続いているという」
青木ロビン(以下R):「沖縄に来たりとか」
M:「そうそう。毎年沖縄に行って琉球のガラス村と轆轤を回すところに連れて行ってもらったり、家に泊めてもらったりとか、全く自分が俳優業をやる前の、ただの学生だった頃です」
R:「みんなでワイワイやってたね。それこそ崇高が俳優になるとは思わなかった。でもやっぱり当時からイカれてたよね、豚の顔を掛ける作品とか作って(笑)」
M:「グラフィックデザイン科で、卒業制作でみんなを“あっ!”と言わせたくて、沖縄で見た食材が面白いと思って、コートハンガーに異臭のする豚の顔の肉を掛けるっていうだけの作品を作って(笑)。ロビンはロビンですっごい尖っていあるというか、よくキレてるというイメージがありました」
R:「(笑)。崇高は、やりたいことをできるためにするには、どんなふうにしてもそこへ向かわせるっていうか。それこそdownyの最初の頃の映像も手伝ってくれて、しれっと出てたり(笑)。あと飲みに行くと、なんか面白いことしてくれるから、俺たちがいつも期待しちゃう。場がつまらないと崇高に“なんかやって!”って言って(笑)」
M:「もう10代の頃はへべれけのベロベロだけど、まぁ楽しくやってましたね(笑)」
■ 演技では、愛情がキャラクターを成り立たせる
― さまざまな役を演じていますが、役作りはどうしているのですか?
M:「もちろん演じるために最小限の情報を得たり、実際に体験できることはやります。調べたりせずにそれをやるっていうことは怖いので。どういう感覚になるんだろうとか、どういう生活なのか、どういう考えなのか、どういう本を読んでいるんだろうとか、そういうのはできる限りやる。だから何かで迷った時に、“大丈夫、ちゃんと調べたし、こういうことを積んできてるから、リラックスすればちゃんとそれが出るんだ”っていうことを信じています。あと現場での呼吸というか、カメラマンや演出家がいるので、ちゃんとコミュニケーションは取ります」
R:「俳優って役に入る時に、その時の自分と役の自分ってどっちの比重が大きいのかな? 演技するわけだから、なりきったり、素の自分を出したらそれが役だったりとか。で、終わるじゃない。例えば『龍馬伝』で太った自分になるわけじゃない? 実生活もそうなるわけよね? そういう時の喪失感とか、(役に入っている時と)同じなのか、比重がどっちが大きくなるのかを聞いてみたい」
M:「それは作品によるな。入れ込んでしっかりやるっていう場合だったら、例えば『龍馬伝』で太るっていうのは途中から思いついたアイデアで。1年間やる作品でその中で成長もあるんだったら、見た目の説得力もプラスしたら“この人がそういう時間を経てそういう人間になっていったんだ”っていうことが作れるっていうことと……」
R:「貫禄が出るっていうかね」
M:「そうそう。芝居にも貫禄をつけていかないといけないから。太ったりすることで、その人物とか現場を愛するところをどんどん作っていくっていう。現場をとにかく愛して、愛情がキャラクターを成り立たせるんじゃないかなっていうのがあるから。実際に、その役の後藤象二郎さんの御墓参りに行ったり。いろんなエピソードでこの人は凄いなって思うから、それを軽く芝居にしちゃダメだと思うし。あと、映像の中でグワって強く出すところはやっぱりそうしないと。だから、出番が終わったら、それだけ入れ込んだものは結構悲しくなるね」
R:「死んだというか、いなくなるわけだから」
M:「そうそう。自分からも追い出さないといけないから。で、もちろん最終的にコントロールしていたのは自分。問題はそういう人間へのアプローチみたいで、現場での割合が9割ぐらい濃い作品の場合は、終わった後“俺、どう動いてたっけ?”っていうぐらい(無意識なくらい)入れ込んでいた時もある。だけど1割は絶対コントロールしている自分もいて。だから、そのギリギリまで開放していいって感じ。その命令を自分に置いておく。自分に近いような現代の作品だったら7割ぐらいにしておいて、相手の話をよく聞いたり、間合いや言葉とかをちゃんと綺麗に丁寧にして、カメラのアングルとかの方に割合を押さえておいて、あとはちょっと気がついた時に芝居のアドリブ感とか出したり。作品によってある程度は自分で睨みを利かせていって、でもみんなで作っているものだから、アートっぽいような作品で“いいから全部箍を外してくれ”っていう作品だったら、完全に外す行為になると思う」
■ “これがdownyだ!”と演奏することで1個の作品が完成する
― ロビンさんはdownyを9年間活動休止していたものの、数年前に活動を再開し、今回6枚目のアルバムを出しましたけど、崇高さんから、ミュージシャンのロビンさんはどう見えますか?
M:「俺自身そんなに音楽に関して詳しいわけじゃないし、ミュージシャンっていうものの概念がわからないけど、downyはわかりやすいメロディがあって歌詞が乗ってて、というものではなくて、簡単に言ってしまうと音楽っていう音の原点に立ち戻ってそこからdownyの方向性を作ってるのかな。もっと原点の話のような、音が与える人間への影響っていうところからあるような気がしてて、結晶がものすごく細くて素材の音のような。タイトルもちょっと不可思議な感じというか、『無題』とか、タイトルで先入観を与えないということをやっているのか、そういうこだわりが徹底している。面白いし、世界観があるっていうのは強いなって思うし、1人じゃなくメンバーとして、その世界観をずっとやっていくことはすごい大変なんじゃないかなって思う」
R:「すごく大変」
M:「点の中のまたもう1つ小さい点の世界を、しかも共同作業でやっていくっていうのは、方向性やディレクションがしっかり強くないと、かつ共有できないと演奏という形にはならないだろうし。そういうところはどういうコミュニケーションでみんなと共有しているの?」
R:「さっきの現場の話と一緒だと思うんだよね。やっぱりチームを愛さないと生まれないし、信じることから始まる。自分たちの音楽って一般的じゃないと思うけど、個性というか、オリジナリティが欲しい。それを表現するためには例えばタイトルなんか無くていいし、音数なんて少なくていいし、下手したら歌なんて無くていい。それはやり続けることで認知されてきていて、今は逆に僕らみたいな音楽が出てきたら“downyみたい”って言われるぐらいにまで持ってきたことの方が、メンバーがそこを愛するきっかけになるというか。だから僕よりもメンバーの方が“これはdownyっぽくないんじゃない?”とか言ってくるんですよね」
― それはきっと活動休止していた期間があるからこそ、加減がわかった感じですか?
R:「みんな元々プロフェッショナルでスタジオミュージシャンもやっているような人たちなので、技術はもちろんあるし、その出し加減が丁度よくて今やりやすい。共通の認識がちゃんとできているのは強みですね。僕はチームリーダーですけど、監督的な役割もあると思うんですよ。みんながちゃんとdownyを演技してくれるっていうか、“これがdownyだ!”っていうふうに演奏してくれるので、そのドラマというか1個の作品ができ上がる感覚ですね」
M:「downy自身が安定しているわけじゃなくて進化もしつつ、downyらしさを追求していくっていう。何かを抑え込んでっていうわけではなくて、技術的なものでの抑えとか加減をしつつ、感覚としてはdownyの感覚をどんどん上げていくと」
R:「そうそう」
M:「その感覚ってめちゃくちゃ難しい」
R:「だから他の人とやった時に“違うんだ”って思った」
M:「我流っていう自分を突き詰めていくこともクリエイティヴだけど、そこプラス1回離れることで、自分がやってたこと、自分の武器を確かめられるきっかけになるっていうのは、よそと他流試合をやっているっていうような感じだよね」
*To be continued
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