広島発、ザ・トランクマーケットがおもしろい。
シトウレイの東京見聞録 2019.01.24
11月。ちょうど仕事で広島に行くことになったんだよね、と友人知人に話をすると「じゃあ、ザ・トランクマーケット行ってきなよ!」「広島でおすすめは……、ザ・トランクマーケットとか?」という答えが返ってくる。ん?ザ・トランクマーケット??
仕事当日、朝の羽田。飛行機に乗り込むと機内でバッタリ熊谷(隆志)さん。「あれ? レイさんもザ・トランクマーケット?」「え!? あ、違うんです、別件で」「そうなんだ、俺、今回トランクいるからもしよかったら」
一体何なのザ・トランクマーケット。よくわかんない。だけど絶対これは行けってことよね、もはや導かれているとしか思えない。
仕事を終えた翌日に聞いたアドレスに行ってみる。「たくさんの人で賑わってるから方向音痴でもすぐわかるよ」の言葉は本当だった! 人、人、人! たくさんの人が集まっていて、飲んだり食べたり、ワークショップに興じてみたり、日本中から集まってきた着るものや雑貨のセレクトショップやブランドの「中の人」との交流に花を咲かせてみたりなんかして。それぞれのおしゃれをした人たちが「ここにいること」を楽しんでいる。
飲食ブースも充実。
小さな公園、手渡された簡単なマップを手にして物色開始。それぞれのテントの下にあるものはラフな見え方に反して、こだわりにこだわった先にできてきた珠玉のアイテムだったり、ここだけにしかない希少コンテンツ。食はといえば予約の取れないお店だったりミシュランの星を取ってるお店だったりで、その意外性に面食らう。なんでこんなラフに(雑多な感じで)、こんな素敵なものや素敵な人たちがこんなところに当たり前にあるの!? なんだかここにはサプライズばっかり。思わずワクワクしてしまう。
出店者側にも笑顔があふれている。
印象的だったのは、出店者さんたちのほどけた感じ。いつもの表情と違うというか、すごくフラットで自然体。
企画室の中本さんに話を聞く。
「ザ・トランクマーケットが始まったのは2013年。ECが出てきたり商業施設が出てきてたりで、昔からあった路面文化が失われつつあるのを感じて、それを取り戻そうと始めたんです。まずは地域の商店組合に声をかけるところから始めて。ちょうど、決定権のある立場の人たちが同世代だったこともあって、すぐに一致団結したんです。その道のプロが全員手弁当で、知恵と手間暇時間を出し合って、準備期間2ヵ月で開催できたんです。これは広島の県民性もあると思います。カープの熱狂しかり、広島の復興しかり、広島の人たちは目的に向かって団結した時ものすごいパワーを出してくるんです。お金はないけど力や知恵を出し合って、汗をかくのが好きな人たちが多いんです」
ザ・ノース・フェイス スタンダードやパタゴニアといった有名アウトドアブランドと、北海道発のアクセサリーブランドや京都の古道具屋など、地方の個人商店が一緒に並ぶ。
「広島だけじゃなくて全国でおもしろいと思うお店やブランドに声をかけて、出てもらってます。将来の広島の縮図みたいなのをこの公園の中で表現したくて。実際ここに出てもらったことがきっかけで広島のポテンシャルに気付いてもらって、店舗を出したお店も結構あるんです。この街に全国のいいお店が入ってくることで、相対的に地元のお店も切磋琢磨してよりよいお店になっていく。そういうスパイラルが街をよりおもしろく、カルチャーのある場所にしていくんだと思います」
それにしても出店者がとても豪華なその理由って何なんだろう。中本さんの広いネットワークや人柄もあると思うけど、これほどのブランドやお店がわざわざそこに出る理由。
「始めた時、ちょうどネットやデジタルにみんなが寄っていた時だったんですね。リアルが停滞していた時期ってこともあって、何かみんな実験がしてみたかったんだと思うんです。ウソがつけない状態で何ができるのか、ってところを」
猿田彦珈琲も参加。
ネットだとコンテンツは写真の撮り方でいかようにも盛れたり、ひきつけたりはできるけど、ザ・トランクマーケットのこの場所はある意味ノーメイクな状態で、商品自体、その奥にある作り手の等身大の姿が太陽のもとにさらされる。有名になるほど、規模が大きくなるほどにノーメイクで行ける場所っていうのはなくなってくる。そんなジレンマを抱えてる時に、トランクマーケットはきっとちょうどよかったんだろう。
「東京や大阪なんかの都会だとパブリックイメージはもう確立してるし、自分自身でもその殻を破るのが難しい場合がありますよね。広島あたりがちょうどいいんだと思います。都会のようで都会じゃない、ゼロベースで付き合える風土があって。だって73年前に、焼け野原でいったんはゼロになった街ですから。かっこつけないでいまの自分の実力で勝負しに行ける場所というか」
剣道で出稽古に行く感じとでもいうのだろうか。そのままの自分で飾らず付き合える関係性、そしてチャレンジができる磁場がある。トランクマーケットに名だたる出展者が名乗りを上げるのはそういう理由なのだと思う。そして素のままでいられる自由があることが、出展者の人たちの顔をほどけさせている。そこからコミュニケーションが始まって、エンドユーザーとつながれる。
実際に顔と顔を合わせた付き合いは、たとえ短い時間でも思い出や記憶と紐づいて、かけがえのない関係性になっていく。相手への理解、相手への愛着だったり。
私たちは普段からSNSで四六時中につながっているけれど、そこにおける自分自身は「素」ではない。つながりは長く深いようでいて、思いのほか浅い。改めてそのことに中本さんと話してて気が付く。
特注したテントがならぶ。
ザ・トランクマーケットの成功を受けて同じような試みをしているところは全国にもいくつかあったりもする。そことの違いは何なんだろう。
「それはクオリティの担保ですね。イベントの空間デザイン的にかっこいいことと、置いてあるコンテンツのクオリティ。空間デザインでいうとザ・トランクマーケットのテント、第1回から特注したんですよ。お金もないのにそこだけめっちゃ気合い入れて(笑)。そこに行くとテンションが上がる、行く自分自身もおしゃれしたくなる空間づくりにして。置いてあるコンテンツとしては、出展者さんにお願いしているのは、在庫処分市はやめてくださいってこと。このイベントのために作ったものとか、自慢の一品を置いてくださいってお願いしてて。ブランドさんが軒並みスペシャルなものだったりアイデアを持ち寄ってくれていて、出展者さんそれぞれもそれを見てるから、気が抜けないし、本気を出して出店してくれる。あと、本気を出したクリエイションには、広島の人はすごくまじめにレスポンスをくれる。情熱や本気の度合いに対して、真摯に向き合う県民性がここにはあるから」
ザ・トランクマーケットの魅力。素のままの自分自身でチャレンジができるということ、そこに対して真摯に向き合う、優しい熱量を持った土壌があるということ。
日本を代表するストリートスタイルフォトグラファー/ジャーナリスト。
石川県出身。早稲田大学卒業。
被写体の魅力を写真と言葉で紡ぐスタイルのファンは国内外に多数。
毎シーズン、世界各国のコレクション取材を行い、類い稀なセンスで見極められた写真とコメントを発信中。ストリートスタイルの随一の目利きであり、「東京スタイル」の案内人。
ストリートスタイルフォトグラファーとしての経験を元に TVやラジオ、ファッションセミナー、執筆、講演等、活動は多岐にわたる。
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