エルメスのこだわり、
空と海の時間にも!

空の旅? それとも海の旅? 

前回、「CHE FARE(何をすべきか)」展の記事で触れたエルメスのヘリコプターとヨット。読者からの感想や質問メールをいただきました。今回は追加で、写真をご紹介します。

1.jpgユーロコプターとエルメスのコラボレーションプロジェクトで誕生したヘリコプター。
Photo: © Hermès - Vincent Lappartient

2.jpgPhoto: © Hermès - Vincent Lappartient

Eurocopter(ユーロコプター)社とエルメスとのコラボレーションプロジェクトとなるこのヘリコプターは、2007年に完成しました。洗練されたフォルムのヘリコプター本体に、エルメス・オレンジのリボンが舞っています。

このヘリコプター(EC135機)は、Raymond Loewy(レイモンド・ローウィ、1893〜1986年)のデザインによる機体です。タバコ「ラッキーストライク」のパッケージやコンコルドのインテリアデザインでも知られ、幅広い活躍から「口紅から機関車まで」と言われるデザイナー、ローウィ。そのストーリーからまず興味をそそられますが、そのEC135機を、前回紹介したGabriele Pezzini(ガブリエレ・ペッツィーニ、エルメス デザイン・ディレクター)が関わってカスタマイズ。「EC135エルメス仕様機」の誕生です。

デザインのカスタマイズといっても、色や柄、レザーをどうするかといったような表層の変更ではありません。「ランディングギアなど従来機のリ・デザインを行い、限られた機内をより広く、より快適に過ごせるよう、ひとつひとつを考えていきました」とガブリエレ。パーツの構造にまで立ち戻りながら、細かなデザイン検討がなされたのです。

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3-3.jpgPhoto: © Hermès - Vincent Lappartient

こだわりは細部に。前号でも触れた通り、日本では赤坂アークヒルズ ヘリポート〜成田空港を30分(フライト15分+ハイヤー15分)で結ぶ運行で、その乗り心地を楽しめます。

そしてこちらがヨット。美しい海に面する国モナコを象徴するヨットブランド、Wally(ウォーリー)社とエルメスとのジョイントベンチャーによって誕生した「WHY 58×38」。その名は、Wally Hermès Yacht の頭文字から。数字は船体が長さ58メートル、幅38メートルであることを示しています。

4.jpg3D image: ArteFactoryLab, ©Hermès

3階建ての豪華ヨット。前方には25mプールも完備されています。

プロジェクトの開始当時を、エルメスのジェネラル・アーティスティック・ディレクター、Pierre-Alexis Dumas(ピエール・アレクシィ・デュマ)はこう述べます。
「ウォーリー社のアンティヴァリ社長が、自社のボートのインテリアデザインをエルメスに依頼しようと考えていました。私はそのプロジェクトの大胆さに感銘を受けたのです。私の本能が、自分も同じ船に乗り込み、ヨットデザインの新境地を切り開こうと告げていました。ただし私は、スピードには全く興味がありませんでしたが......」。

一方、ウォーリー社のLuca Bassani Antivari(ルカ・バッサーニ・アンティヴァリ)社長は、「『陸のエルメス』と『海のウォーリー』、私たちの出会いは必然でした」と。
興味深いデザインプロジェクトにはいつも、すばらしい出会いがある。そのことを改めて考えさせられる言葉です。

5.jpg3D image: ArteFactoryLab, Courtesy of Hermès

環境に対する配慮から、太陽光発電を活かして従来型のディーゼル燃料を削減するという考え方。船体上部、開口部分には大陽光による発電パネルが装備されています。

6.jpg3D image: ArteFactoryLab, Courtesy of Hermès

ヨット後部には長さ36mの「ビーチ」が。

「ヨットと海の関係は、敬意と調和に満ちたものでなければなりません」とピエール・アレクシィ・デュマ。「ヨット、WHY 58×38の目的は、資源の画期的な管理、リサイクルとエネルギーの利用法を考案し、水上移動の新たな方法を提供することでした」。
「このヨットは奇抜に見えますが、人間らしいスケール感を保っています。海上ではゆとりある空間が最高の贅沢。そしてその最高のスペースを堪能する時間こそ、最高のラグジュアリーだと思うのです」。

単なるスピードの探求ではなく、時間の質の探求であること。自然との関係を大切に考えること。まさに今求められるべき要素をふまえた工業デザインであり、企業の哲学のうえにまとめられた勇姿です。「ヨットをデザインするというのではなく、アイデアにかたちをもたらす作業でした」とデザイナーのガブリエレは言っていました。前回の記事で触れた、「企業家とデザイナーとの良好な関係」のうえに実を結んだプロジェクトの一例です。

7.jpgPhoto: © Toni Meneguzzo, Courtesy of Hermès

プロジェクトはコンセプトにあうハル(船の構造体)の検討から。そのうえで外観、内観のデザインが進められました。写真は実物大模型の制作現場から。迫力です。

8.jpg3D image: ArteFactoryLab, Courtesy of Hermès

全体がひとつの島のようなヨット、光が燦々とさし込むパティオもあります。プライベートなリゾートホテルとも言える居住空間のインテリアは、皮革素材などで落ち着いた趣に。

空の旅。海の旅。私はどちらも大好きです。
週末にはエルメス仕様のプライベートヘリで、ちょっとそこの海まで。そうして終日、海上の"おうち"でのんびり日光浴......「WHY 58×38」の写真を眺めていると、頭の中のイメージはどんどん広がっていきますが......!


After my last column had just been uploaded, I was inundated by a deluge of e-mails from readers about the Hermès helicopter and yacht project. So, today, I would like to write about the helicopter project realized by Hermès and Eurocopter, and also a yacht project that Hermès and Warry were responsible for.
The helicopter was customized from the classic EC135, which was dreamt up by the famous designer, Raymond Loewy. Gabriele Pezzini, who joined this helicopter project as the design director of Hermès, said that the project team had not only considered the surface design, but also the system of construction of each of the parts to maximize comfort.
Another project, the WHY 31×58, is a yacht, which takes its name from three key words: Warry, Hermès, Yacht. The yacht, which represents completely new art of living on the sea, was just released last autumn. Harmoniously blending with its environment, the eco-friendly WHY has the solar panels on its roof. Mr. Pierre-Alexis Dumas, an artistic director of Hermès said of their project, "Together, with Luca Bassani Antivari, a president and CEO of Wally, we hope to open a new path, to offer a new life stage that is different, serene, contemplative and respectful of the environment, moving slowly on the water, combining the pleasure of sailing and absolute comfort."
These two examples of innovation are unified by a single word: comfort.
text by Noriko Kawakami

Noriko Kawakami
ジャーナリスト

デザイン誌「AXIS」編集部を経て独立。デザイン、アートを中心に取材、執筆を行うほか、デザイン展覧会の企画、キュレーションも手がける。21_21 DESIGN SIGHTアソシエイトディレクターとして同館の展覧会企画も。

http://norikokawakami.jp
instagram: @noriko_kawakami

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