オペラ座のバレエ、地元パリっ子はどんな人が見に行くのだろう。

パリとバレエとオペラ座と。

9月に始まるオペラ座の新シーズンのプログラムが2月に発表され、定期会員たちはすでに予約を終えている。来シーズン、地元パリの人々はどの作品に期待しているのだろう。彼らは今シーズンは何を見たのだろうか。そもそも、どんな人がオペラ座にバレエを見に来るのだろうか……。バレエ・ファン3人3様の話が面白い。

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サフィア・トマス・ベンダリ/Safia Thomass Bendali
Laduréeブランド・ジェネラル・マネージャー

ミルピエ芸術監督が辞任することは、とてもショックで悲しい出来事。

バレエにオペラに、ほぼ毎月オペラ座に行くというのはサフィア・トマス・ベンダリだ。
「バンジャマン・ミルピエによる創作が、来シーズンもプログラムされていたのを知ってうれしかったわ。 芸術監督を辞任すると彼が発表したので、オペラ座ではもう彼の作品は見られないと思い込んでいたから。彼って革命を起こすことを恐れない、素晴らしいヴィジョネアだと思うの。オペラ座のバレエは彼が来る前、少々ホコリをかぶっていたのは確かでしょ。彼のような監督でない限り、オペラ座は何も変わらない。FIAC(国際コンテンポラリーアートフェア)が開催されていることや、ジェフ・クーンの作品の存在を無視して、ルーヴル美術館で『モナ・リザ』やダ・ヴィンチの絵画だけを見続けてるって感じで......。彼が劇場内のパブリックスペースを使った公演を開催したときに、オペラ座に初めて足を踏み入れたという人が大勢いたって耳にしたわ。さまざまな年齢のさまざまな階層の人たちが、劇場にやってきたの。これだけでも素晴らしいことよ。それに若いダンサーたちを前面に押し出したのも、いいことをしたと思う。彼に非はなく、あいにくと彼のダンスに対するヴィジョンが、国のそれとは異なっていたということね。彼が辞任することは心底悲しく、ショック。フランスにとっても、オペラ座にとっても残念なことだと私は思っているわ」


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昨年9月に開催されたボリス・シャルマズによる『20世紀のための20名のダンサー』より。19時30分からの本公演の前にオペラ・ガルニエ内のパブリックスペースで、20名のダンサーが20世紀のさまざまな振付け家の作品を披露するという新しい試みだった。 photos:Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

 

彼女が来季見るのを楽しみにしているミルピエ作品は、年末に公演される創作で、衣装デザインはアルベール・エルバズ! 映画同様、照明や衣装もサフィアが作品を選択するときの大切な要素だ。だからクリスチャン・ラクロワが衣装を作り直すバランシンの『真夏の夜の夢』も、来シーズンの見逃せない作品のひとつである。チュチュ派の彼女にとってコスチュームが好きなバレエといったら、『ジゼル』。でも最高のお気に入りと絶賛するのは、衣装だけでなく、振り付けも舞台装置も照明も、彼女の好きなすべてが込められた『ラ・バヤデール』だという。昨年の大晦日にこの作品を見たとき、主役を踊ったのがお気に入りのドロテ・ジルベールでなかったのが少々心残りの様子だが......。


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昨年の年末公演だったオペラ・バスチーユの『ラ・バヤデール』より。古代インドが舞台なのでオリエンタルな色彩が舞台上を満たす(左)。最後の幻想の中の世界、影の王国のシーンは全体に白でまとめられる。photos:Little Shao/ Opéra national de Paris

 

「でも、踊るダンサーによって作品や日程を選ぶということは、しないわ。昨年オペラ座ではないけれど、ブランカ・リーとマリー・アニエス・ジロの舞台(注・『Déesses et Démons』)があるというので心待ちにしてたら、マリー・アニエスが降板してロシアのダンサー(注・マリア・アレクサンドローヴァ)に変更されたの。だけど、コスチュームも舞台装置もひっくり返るほど素晴らしくって、私が昨年見たバレエの中での中でも、ベストのひとつ。こうした嬉しいサプライズもあるのだから......」

バレエ・ファンの母親に連れられて、サフィアがオペラ・ガルニエに初めて足を踏み入れたのは8歳のときだ。彼女自身、小さいときにバレエを習い始め、15~16歳の頃は毎日7時間近くも踊っていた。ジョルジュ・ドンのレッスンを受けたこともあるという。そんな彼女が毎年、絶対に逃さないのはシーズンの開幕公演。「この晩はバレエ団のデフィレから始まるでしょう。あれをオペラ・ガルニエで見られるというだけでも、すごく幸運なことよ。そして最近、大晦日はオペラ座でクラシック・バレエ! と決めているの。本当はオペラ・ガルニエで大晦日を過ごしたいのだけれど、年末のクラシック演目はあいにくとオペラ・バスチーユでのことが多いので......。今年の演目は『白鳥の湖』よ。私は断然クラシック・バレエ派。コンテンポラリー作品は、私の美意識にそぐわない。大勢の人が素晴らしいというけれど、ピナ・バウシュのようにダンサーの身体を醜く見せる、挑発的な振り付けは好きじゃないわ。私には苦痛なだけ。その点、ミルピエの作品には決してそういった醜いところがなく、グラフィックでとても美しい。私にとってパーフェクトなの!」


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左:2015~16年シーズンの開幕作品のひとつは、若手ダンサー16名を起用したミルピエ創作『Clear, Loud, Bright,Forward』だった。photo:Ann Ray/ Opéra national de Paris 右:今年2月に発表されたミルピエ創作『La nuit s'achève」。photo:Benoite Fanton/Opéra national de Paris

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アドリアン・ピレ/Adrien Pillay
室内建築家

至高の建築物ガルニエ宮の中を散歩することも喜び。

ウェブマガジン「TETU」でインテリア・コラムも担当する室内建築家のアドリアン・ピレは、オペラ座の28歳以下のための若者料金を多いに活用。オペラは全公演欠かさず、そしてバレエもほぼ全公演を見るので、オペラ座へは月に1〜2度足を運んでいるそうだ。彼がバレエや劇場に興味を持ち始めたのは、中学時代の研修がきっかけだった。

「フランスの中学では、最終年に外部で1週間研修をする習慣があります。僕は地元ボルドーのオペラ座を選びました。18世紀末に建てられたエレガントで美しい建物なんですよ。研修といっても何をするわけでもなく、ただ観察するだけなのだけど、コスチュームや大道具のアトリエなどを見学したりして、うっとりするような素晴らしい経験をしました。 この当時、舞台のセットデザイナーになりたいと、夢見ていたんです」

現在個人宅などの内装を手掛ける彼。オペラ・ガルニエに行くたびに飽きることなく劇場内を歩く。だからグラン・フォワイエやバルコニーを幕間に散歩するチャンスがない一幕ものの公演だと、がっかりさせられると笑う。

「劇場の建築は1862年に着工されてますね。この時代にシャルル・ガルニエがたったひとりで、この壮大な建築物のすべてを考えることができたなんて! 劇場に建築家の名前がつけられているというのも、ここだけですね。今でも世界で最も美しいオペラハウス。 バレエやオペラを見る場所である建物そのものが、まずは見るべき作品といえます。客席部分とパブリックスペースが半々というバランスから、当時、人々は見に行くだけでなく、見られるためにもガルニエ宮に出かけて行ったこともよくわかる作りです。あの大階段で 社交界という演目が繰り広げられていた、という感じで。床から天井まで素晴らしい装飾が施されているので、行くたびに新しいディテールなど、何かしら発見をしています」


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左:アドリアン・ピレ。ガルニエ宮の大階段にて。photo:Lucas Vasco 右:幕間はグラス片手の観客でいっぱいになるグラン・フォワイエ。photo:Mariko Omura

 

劇場内、照明が暗くなり、人々は話すのを止め......この時間が止まったような感覚が得られる空間で過ごす2〜3時間が、彼を酔わせる。特定のダンサー目当てに公演を見に行くことはないが、若手の中ではフランソワ・アリュに注目しているそうだ。『ロメオとジュリエット』ではマーキュシオ役で、『ラ・バヤデール』ではブロンズアイドルを踊り、主役以上に拍手を集めたプルミエ・ダンスールである。配役に恵まれていることもあり、また他のダンサーに比べてSNS活動もしっかり行っていることがアリュの人気の要因だろうと彼は分析している。

「最近、モード界を始め男性ダンサーが注目されている感じがありますね。写真家のマシュー・ブルックスは、男性ダンサーだけの写真集を出版しました。またメンズのパリコレの時、ショー会場の最前列に座っていたり、ショーのモデルをしたりも。彼らにはエレガンスと無頓着さが同居し、そして芸術の愛好者で......ある種のパリジャンを代表しているといえます。そう、ヌーヴォー・パリジャンと呼んでもいいのかもしれません」

アドリアンによると、パリの若者はコンテンポラリー作品を好む傾向があるそうだ。好奇心が強い彼はスタイルにこだわらず、クラシック・バレエもコンテンポラリー作品も見に行く。舞台から得られる感動を期待して、劇場に通う彼。来シーズンのプログラム中、彼が見ようと思っているのはヌレエフの『白鳥の湖』、バランシンの『真夏の夜の夢』......。 バレエを見るとき、仕事柄、どうしても舞台装置や照明にも目がいってしまう。例えば、3月にオペラ・ガルニエで公演された、 チャイコフスキーの音楽によるオペラとバレエの通し公演『イヨランタ/くるみ割り人形』も、そのひとつである。


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『イヨランタ/ くるみ割り人形』より。舞台演出と装置はともにディミトリー・チェルニアコフ。(左)ダンサーたちが流れるように踊るのは、シディ・ラルビ・シェルカウイ振り付けによる「雪片のワルツ」。(右)ダンサーたちが自動人形を思わせる機械的な動きは、エドワール・ロック振り付けによる「ディヴェルティスマン」。なお、バレエの冒頭シーンの振り付けはアーサー・ピタによるミュージカル的振り付けだった。このシーズンのプログラム発表時には、バンジャマン・ミルピエとリアム・スカーレットの2名も『くるみ割り人形』の創作に参加することになっていたのだが、最終的には3名のコレオグラファーによる合作となった。photos:Julien Benhamou/ Opéra national de Paris

 

「巨大なハリボテの人形や動物といった玩具が、舞台を埋め尽くして......最高でしたね。それにコンテンポラリーの振り付け家3名が、クラシック作品で知られた『くるみ割り人形』をまったく別物に創り上げたのも興味深いことでした。舞台装置という点で僕が一番好きなのはアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルの『レイン』なんです。オーケストラボックスにピアノが4台置かれ、糸が舞台にカーテンのように垂れ下がっていて、そこで1時間15分ダンサーがノンストップで踊って......信じられない素晴らしさ。昨年の彼女のトリプル・ビルでは、最後の『浄夜』の森のシーンでの照明がとても印象的でしたね。ヌレエフ作品は、どれをとっても舞台装飾が豪華で......そうそう、2年くらい前だったか、バンジャマン・ミルピエが『ダフニスとクロエ』の創作で、ダニエル・ビュランに舞台装置を任せましたね。このときの彼の仕事は、忘れがたいもの。このようにアーティストが その才能を舞台で発揮するのを見ることも、楽しみなんです」


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2015年5月にオペラ・バスチーユで公演のあった『ダフニスとクロエ』より。バンジャマン・ミルピエは舞台装置をダニエル・ビュランに依頼した。photos:Agathe Poupeney/Opéra national de Paris

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プリューヌ・シレリ/Prune Cirelli
イラストレーター

来シーズンはウェイン・マクレガーが創作した『Tree of codes』が見逃せない。

クラシック・バレエを3歳で習い始め、その後もリズミックダンスやジャズダンスなど若い時は何かしらダンスの習い事を続けていたというイラストレーターのプリューヌ・シレリ。5~6年前にクラシック・バレエのレッスンを再開した。

「ランニングは退屈だし、プールは匂いが嫌い。こういったネガティブな点がないスポーツは私にはダンスしかないわ! ということで、教室を探したの。美しさにおいてもクラシック・バレエに勝るものはないでしょう。かつてオペラ座のバレエ学校の先生をしていた女性のクラスを見つけ、そこでバー・レッスン、バー・オ・ソルなど1時間のレッスンを週に2回。さらに、レベルアップのためにプライヴェート・レッスンを月に2回受けています。フランスで有名なマルティーヌの絵本(注:『Martine/petit rat de l'Opéra』)みたいに、超クラシックなレッスンよ。バレエというのは、大人も子供も美しい姿勢、優雅さ、エレガンスが得られるのがいいわね。そして進歩を重ねて、自分の思うように身体を動かせるようになる喜び。これは心地よいことだわ 」

オペラ・バスチーユでは子供のためのバレエ公演が定期的に開催されるので、プリューヌはふたりの子供を連れて行く。もっとも長女は乗馬に夢中、長男はサッカーひと筋でバレエを習う気がないのが、彼女には残念でたまらない。とりわけ長男はスラリとしたダンサー体型をしていて、体がとてもしなやか。"彼ならニコラ・ル・リッシュのようになれる!"とは母は夢見ているのだが......。彼女、ニコラ・ル・リッシュの大ファンだったそうだ。

「ニコラは最高に美しいダンサーよ。 2015年からの新芸術監督にはニコラも候補のひとりだったので、彼が選ばれますように! って祈っていたくらい。彼ならオペラ座のことを知り尽くしているし、年齢的にもちょうどいいし......。ダンス教室の先生たちの誰もが、彼がなるだろうって思っていたのよ。でも、あいにくとミルピエが選ばれてしまったのね......」と少々悔しそうに語る。

オペラ座のバレエの中で、彼女が好きなタイプは 現代ものでもフォーサイスのようなクラシック・バレエ寄りの現代作品だ。ヌレエフ作品は超クラシックすぎるということで敬遠。バランシンの作品は過去に何度も見ている上、彼女にはクラシックすぎるので興奮せず。またサシャ・ヴァルツの『ロメオとジュリエット』のように振付も舞台装置もコンセプチュアルといった作品も好まない。

「この作品では、幕間に劇場を出てしまったくらい。私が複数作品で構成されたミックス・プログラムをよく見に行くのは、たとえ、最初の作品が好きでなくても、幕間に気を取り直して、次に期待できるということもあってなの。例えば、昨年はアンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルの3作品の公演を11月に見たのだけど、この時気に入ったのは3つ目の『浄夜』だったわ」


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昨年11月に公演のあったアンヌ・テレサ ・ド・ケースマイケルが3作曲家の曲に振り付けた3作。左から、バルトークの『弦楽四重奏曲第番』、ベートーベン『大フーガ』、シェーンベルグの『浄夜』。photos:Agathe Poupeney/ Opéra national de Paris

 

新シーズンのプログラムを入手すると、気になるオペラ、バレエ、コンサートのページの角を折っておくのがプリューヌの習慣。来シーズン、彼女が見たいと思っているのは、マーサ・カニンガム、フォーサイス......そしてウエイン・マクレガーの『Tree of codes』だという。

「昨年7月に見た彼の『感覚の解剖学』は、夢のように綺麗だった。そのときに見たエトワールのアリス・ルナヴァンのダンスは、独特の美しさがあるので好きだわ。『Tree of code s』は舞台装置がオラファー・エリアソンということにも、とても興味をひかれています」

劇場にはご主人とふたりで出かける。すごくエレガントに装うということはしないにしても、ジーンズとかダウンなどは避ける。ちょっとだけオシャレをして、幕間にはワインを飲んで......。日常とは異なる少しばかり贅沢な時間を楽しめるのも、彼女にとってオペラ座に行く魅力なのだ。


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『Tree of codes』より。この作品は2015年マンチェスター国際フェスティバルに際して、ウエイン・マクレガーが自身のカンパニーのダンサーとオペラ座のダンサーに振り付けた作品。2017年2月のオペラ・ガルニエでの公演でも、両カンパニーのダンサーのミックスで踊られる。舞台装置がオラファー・エリアソン、音楽は Jamie XXというのも話題だ。photos:Joel Chester Fildes

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