20世紀初頭を賑わしたバレエ・リュスに、熱い視線。

パリとバレエとオペラ座と。

パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンで『現代美術のアイコン、シチューキン・コレクション』展が2月20日まで開催中だ。これはモスクワのプーシキン美術館とサンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館が所蔵する、ロシア人コレクターのシチューキンが20世紀初頭に集めた絵画260点を展示する大掛かりな展覧会で、「2016~17年仏露文化ツーリズムの年」のメインイベントである。

これと並行して、フォンダシオンの地下のアトリウムでは、20世紀初頭のフランスとロシアの文化交流を振り返りながら、その成果が現在の創作活動に影響を与えていることを解き明かす音楽とダンスのプログラムが組まれている。

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ピアノが奏でるストラヴィンスキーの曲にのせ、『ペトリューシュカ』を踊るリル・バック ©Fondation Louis Vuitton/ Marc Domage

10月末に開催されたそのオープニングナイトは、伝説のバレエ・リュスの主役に捧げるイベント。踊られたのはそのレパートリーの中でもとりわけ有名な4作品の現代版である。『ペトリューシュカ』『瀕死の白鳥』の2作品は生演奏で、リル・バックによって踊られた。彼は出身地メンフィスで踊られるジューキングというストリートダンスを、モダンダンスに高めたダンサー。スニーカーでトゥシューズのようにつま先立ちし、回転したりジャンプしたりといったテクニック、そして軟体動物のような体の使い方などの素晴らしさもさることながら、ダンスを通じて彼が表現する抒情性、詩情で会場を静まり返らせる印象的な舞台を見せた。

そして、シディ・ラルビ・シェルカウイによる『牧神の午後(半獣神の午後)』が創作ダンサーのジェームズ・オハラとデイジー・フィリップスによって踊られ、彼がシュトゥットガルトバレエ団の依頼で創った『火の鳥』の中からのパ・ド・ドゥが、フリーデマン・フォーゲル(シュツットガルトバレエ団)とマリ=アニエスジロ(パリ・オペラ座バレエ団)という豪華な組み合わせで踊られた。

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左:『牧神の午後(半獣神の午後)』のジェームズ・オハラとデイジー・フィリップス。
右:『火の鳥』を踊るマリ=アニエス・ジロとフリーデマン・フォーゲル。ストラヴィンスキーによる『火の鳥』組曲中の『王女たちのロンド』を使い、鳥のカップルの愛情の仕草を振り付けのベースにした優しさ溢れるパ・ド・ドゥだ。
共に ©Fondation Louis Vuitton/ Marc Domage

それに続いて、11月26日に一度開催され、さらに来年の1月に2回の公演が予定されているのは、ニコラ・ル・リッシュによる『牧神と私』と題した、ダンス実演によるレクチャー。12月2、3日はブリュッセルのダンス学校PART出身者20名が踊るダニエル・リンハン振付の『春の祭典』……というように、フォンダシオン ルイ・ヴィトンならではの充実した企画が盛りだくさんである。

実演付きレクチャー『牧神と私』
日時:2017年1月8日、15日 15:00~
Fondation Louis Vuitton
Bois de Boulogne
8 , avenue du Mahatma Gandhi
75116 Paris
tel:01 40 69 96 00
http://www.fondationlouisvuitton.fr/en/evenements--radio/conferences-dansees-l-apres-midi-d-un-faune.html

さて、オープニングナイトのプログラムでは、バレエ・リュスの舞台写真を使ったモンタージュ・フィルムも上演された。『シェヘラザード』『牧神の午後』などの背景に見られるのは、主にレオン・バクスト(1866~1924)の仕事である。サンクトペテルブルク時代からの知り合いセルゲイ・ディアギレフが1911年に結成したバレエ・リュスにおいて、バクストがデザインする革新的な舞台装置やコスチュームはその名声をあげるのに大きな役割を果たした。

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左:『牧神の午後』の衣裳をつけたニジンスキーをバクストが描いた、バレエ・リュスの第7シーズン(1912年)のプログラム。©BnF, département de la Musique, Bibliothèque-musée de l’Opéra
右:アンナ・パヴロワのためにデザインされた『瀕死の白鳥』のコスチューム。©BnF, département de la Musique, Bibliothèque-musée de l’Opéra

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左:バレエ『Les femmes de bonne humeur』のためのバクストによる衣裳デザイン画。1917年。©BnF, département des Arts du Spectacle
右:1890年にサンクトペテルブルクで撮影されたレオン・バクスト。©BnF, département de la Musique, Bibliothèque-musée de l’Opéra

今年はバクストの生誕150周年を祝う年。モスクワのプーシキン美術館では8月6日から18日にかけて彼が手がけたコスチュームやデッサンなど250点が展示された。また、モナコの新国立美術館では10月23日から『Disigning Dreams, a Celebration of Leon Bakst』展が始まり、また、パリ・オペラ座内でも3月5日まで『バクスト バレエ・リュスからオートクチュールまで』展が開催中である。これはタイトルが物語るように、バクストの幅広い芸術活動を紹介するものだ。

オペラ・ガルニエでの展示品は約130点。モスクワのそれに比べると小規模だが、大きな強みはオペラ座バレエ団によるニコラ・ル・リッシュが踊る『牧神の午後』とマチアス・エイマンが踊る『薔薇の精』の過去の映像を会場内で楽しむことができることだろう。両作品とも、レオン・バクストが舞台装飾と衣装を担当した。劇場ではどうしてもダンサーの動きを目で追いがちとなる。ここの会場では、ぜひともバクストの仕事に注目してビデオを見てみよう。特に『薔薇の精』では部屋にはハープが置いてあり、壁紙が花模様、といったロマンティックなインテリアに注目を。 微睡みの中でバラの精と踊る若い女性(注・イザベル・シアラヴォラ)のパーソナリティが、よりわかりやすい。

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左:会場で映写されているフォーキンがバレエ・リュスのために創作した『薔薇の精』。出演はマチアス・エイマンとイザベル・シアラヴォラ。
右:ニジンスキーによる『牧神の午後』。主演はニコラ・ル・リッシュとエミリー・コゼット。

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左:『牧神の午後』の舞台背景。ギリシャの壺に描かれている人物の動きを、ニジンスキーは振付けに活用した。
右:1912年。バクストによる、『ダフニスとクロエ』の第2幕(左)と第1&3幕のための舞台背景。

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左:バクストが1916年にデザインしたバレエ『眠れる森の美女』のオーロラ姫のコスチューム。
右:バレエ『シェヘラザード』のゾベイド役のためのコスチューム。1910年。
photos:Mariko OMURA

絵画、室内装飾、クチュール……彼独特の色彩を用いて、ディテール豊かに幻想的な美を発揮した仕事をしたバクスト。1912年からパリに暮らし、プルースト、コクトー、ミシア・セールなどを含めた当時のパリの文化人を魅了した。ラリックやコティとコラボレーション、ロンドンのロスチャイルド家の内装も手がければ、クチュール・メゾンのジャンヌ・パカンのためにコレクションをデザインしたり。彼が手がけたバレエ作品のための舞台装置や衣裳のデッサンの展示はもちろん、こうしたモード関連のコーナーも充実した展覧会だ。

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左:1920年頃のバクストがコティのためにデザインしたパウダー・ボックス。コンパクトはルネ・ラリックとのコラボレーション。
右:舞台背景の仕事が好評で、バクストは個人宅の内装デザインも手がけるようになる。マルセル・プルーストは『失われた時を求めて』中、バクストの室内装飾からインスパイアされて、登場人物の家の描写をしている。

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左:クチュール・メゾンのパカンのためにバクストがデザインしたコレクション。
右:ジャンヌ・ランヴァンとの仕事も。
photos:Mariko OMURA

オリエンタル、古代ギリシャなどバクストのさまざまなインスピレーション源による彼の仕事は20世紀初頭のクチュール界の寵児ポール・ポワレにも大きな影響を与えたそうだが、それだけに止まらない。会場入ってすぐ左(展覧会のコースの最終部分)は、バクストの仕事が現代のクチュリエに与えた影響のパートだ。カール・ラガーフェルドによるクロエのプレタと、ジョン・ガリアーノによるディオールのクチュールの映像でしっかりとそれを確認できる。バレエ・リュスに詳しくないどころか、バレエもそれほど見たことないという人でも十分に楽しめる展覧会。開催は3月5日まで。

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マリウス・プティパによる『眠れる森の美女』のためのコスチュームと舞台装飾のためのデッサン。公演は1921年。共に©Collection particulière. Cliché Bertrand Huet

 

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左:パリ時代、帽子のデザインもしたことがある。ミシア・セールも客のひとりだった。
右:フォーキン創作の『シェヘラザード』は1910年にパリ・オペラ座で初演された。主役のイダ・ルビンスタインのためにバクストがデザインした帽子。

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左:カール・ラガーフェルドがデザインしたクロエの1994年春夏コレクションより、プリントのシルク・ドレス。
右:会場で映像を見ることができるクロエのショーのひとコマ。バクスト風ドレスが次々と。
photos:Mariko OMURA

『Bakst/ des Ballets russes à la haute couture』
会期:開催中~2017年3月5日まで
Bibliothèque –musée de l’Opéra
Palais Garnier
75009 Paris
(入り口はrue Scribe とrue Auberのコーナー)
開場 10:00~17:00
休)なし
入場料 11ユーロ(ガルニエ宮見学を含む)
大村真理子
Mariko Omura
madame FIGARO japon パリ支局長
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏する。フリーエディターとして活動し、2006年より現職。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。

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