オペラ座で年に一度開催される昇級コンクール(前編)

今年の昇級者を紹介しよう。

パリとバレエとオペラ座と。

オペラ座のダンサーに5段階の階級があることは、よく知られている。新入団者はまず研修者という立場で、その後最下位のカドリーユとなり、昇級コンクールに参加して、コリフェ、スジェ、プルミエへとピラミッド式の階段を上がって行くのだ。エトワールは任命制なので、プルミエまで上がったところで、コンクール参加は終了となる。

プルミエの位を飛び越して、スジェからエトワールに任命されるダンサーもいる。現役エトワールの中では、2004年に20歳の若さで任命されたマチュー・ガニオがその例だ。ちなみに彼の母親ドミニク・カルフーニも1976年に飛び級でエトワールに任命されている。この他には1985年のローラン・イレール、1986年のマニュエル・ルグリの2名も、飛び級エトワールだ。

起源を1860年に遡るオペラ座バレエ団のコンクールは、世界中のバレエ団においてユニークなもの。前芸術監督バンジャマン・ミルピエはこの制度に賛成ではなかったようで、在任中コンクールを廃止したかったようだ。しかしダンサーたちの意見をまとめた結果、コンクールの存続が決定したとか。コンクールでは、男女別階級ごとに設けられた課題曲、そしてダンサー自身が選んだ自由曲、その2つを審査員の前で踊る。当日のこの2つのパフォーマンスで披露したダンスの技術面、芸術面だけでなく、日常の仕事ぶりも審査の対象となっている。結果順位は男女別階級別に6位まで発表されるが、何名が昇級できるのかは空席数により毎回異なる。

2016年は男子ダンサーのコンクールが11月4日、女子ダンサーのコンクールが11月5日に開催された。 男子コリフェが2席という以外、各ポストの空きは1席しかなく、ダンサーにとっては熾烈な戦いとなった。ポストの空き数は、エトワール任命、そしてダンサーの引退によって生じるのだが、2014年の場合、男子プルミエの1席をめぐり審査員の票割れがあったため、その1席が2015年に持ち越されたということもあった。

参加は義務ではなく、ダンサーの意思に任されている。上の階級に上がりたい、早くスジェになってソリストへの道を開きたい……参加者の気持ちはさまざま。たとえ昇級が期待できなくても、舞台上で一部でも好きな作品をコスチュームをつけて踊れることがうれしい、と参加するダンサーもいる。今回はやめておこう、と棄権する人もいる。昨年の場合、コンクールの準備をしていたものの、前夜の公演で怪我をしてしまい出場できなくなってしまった不運なダンサーもいた。コンクールがあるからといって仕事のスケジュールに容赦があるわけではなく、ダンサーたちは昼はリハーサル、夜は公演という通常の日程の合間に課題曲、自由曲の準備をして、コンクールに臨むのだ。踊る情熱。ダンサーの人生は、この一言に支えられているとつくづく思わせられる。

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1月1日からコリフェのCamille Bon(カミーユ・ボン)。
左:photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris 右:photo Julien Benhamou/Opéra national de Paris

 

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1月1日からスジェのAlice Catonnet(アリス・カトネ)。
左:photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris 右:photo Julien Benhamou/Opéra national de Paris

 

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1月1日からプルミエールのSae Eun Park(セ・ウン・パク)。
左:photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris 右:photo Julien Benhamou/Opéra national de Paris

 

コンクールの結果、昇級が決定したダンサーが新しい階級に上がるのは翌年の1月1日からとなっている。11月のコンクールで昇級を決め、今年から新しいランクに上がったダンサーを紹介しよう。前年までコンクールの結果を巡って、パリのバレエ・ファンの間では常に論争が戦われたのだが、この2016年度の結果について意義を唱える声はあまり出なかった。新芸術監督オーレリー・デュポンはオペラ座バレエ団はクラシック・バレエのカンパニーであると宣言し、今回の課題曲に選んだのは議論の余地がないほどダンサーのクラシック・バレエにおける力量を舞台上ではっきりと見せるものだった。それゆえだろう。ちなみに、オペラ座の12月はガルニエで『イリ・キリアン』、バスチーユでヌレエフ振り付けの古典大作『白鳥の湖』の公演があり、昇級が決まった7名全員が後者に配役されていた。クラシックのカンパニーに望まれるダンサーたちが昇級した、ということだ。

新しくコリフェとなったのはカミーユ・ボン。2015年に入団した彼女は、入団年にはコンクールに参加できないので、今回が初参加だった。 コリフェの1席を巡り、15名のカドリーユがコンクールに参加したが、確実に美しく課題曲を踊り、自由曲に選んだ難易度の高い作品も軽くこなした彼女は、誰の目にも秀でたダンサーであることが明らかだった。コンクール後は、『白鳥の湖』でコール・ド・バレエとして、白鳥の一羽として毎晩舞台を務めた。

コリフェ10名が競い、その中からスジェにあがったのは、2012年に入団したアリス・カトネである。控えめで物静かな雰囲気の彼女が選んだ自由曲は、バランシン振り付けの『ジョワイヨウ』からエメラルドのソロ。クリスチャン・ラクロワがデザインしたグリーンの衣装をまとい、キラキラと輝く宝石のように踊り、強い存在感を示した。年末の『白鳥の湖』で小さい白鳥の一羽として踊った彼女には、古典ならお任せ! と感じさる頼もしさがあった。

プルミエールの1席を目指したのは、8名のスジェたちだ。昇級を決めたのは、涼しい目鼻立ちのセ・ウン・パクである。出身地韓国でバレエを習い、ローザンヌ・コンクールで優勝し、そして栄えあるヴァルナ国際コンクールで金賞を獲得。その翌年2011年にオペラ座バレエ団に入団した後は、2013年にコリフェ、2014年にスジェ、というように比較的順調にオペラ座のピラミッドを上がっているダンサーだ。『白鳥の湖』では大きい白鳥の一羽として憂いを、ワルツはあくまでも優雅に、そして民族舞踊チャルダスはエネルギッシュに、と一夜の公演の中にダンサーとしての可能性を見せつけた。

男性コリフェの空席2つを獲得したのは、フランチェスコ・ミュラとトマ・ドキール。2人ともカミーユ・ボン同様に、これが初のコンクール参加だった。1位で上がったフランチェスコは小柄だが、コール・ド・バレエの他のダンサーたちと同じ高さまで跳躍する。つまり、他のダンサーよりハイスピードで上昇していることになる。そのせいか、『白鳥の湖』の男性コール・ド・バレエの中でもかなり目立つ存在だった。勢いの良いダンスという点ではトマも負けていない。同期の2人はコール・ド・バレエとして同じ作品に配役されることが多い。今後のこの凸凹コンビの活躍に期待したい。

スジェに上がったのはポール・マルクである。2015年に参加した初コンクールで、ポールは文句のつけようのないパフォーマンスでコリフェに上がった。さらに昨夏にはヴァルナ国際コンクールで金賞受賞もしている彼なので、今回の昇級については下馬評通りといえるだろう。上半身は逆三角形で理想的な体の持ち主。つま先のしなやかさ、優美さ、エネルギー、体軸の驚くほどのブレのなさ……。非の打ち所のないクラシック・ダンスは、見る者にはとても気持ちが良い。エトワールの座にまっしぐらで爆進中のダンサーといっていいだろう。来年3月、ジョージ・バランシンの『真夏の夜の夢』では、プルミエ・ダンサーと並んでオベロンに配役されている。ミラノ・スカラ座ではロベルト・ボッレが踊った役、といえば、スジェの彼にとってこれは素晴らしい抜擢であることがわかるはずだ。

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1月1日からコリフェのFrancesco Mura(フランチェスコ・ミュラ)。
左:photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris 右:photo Julien Benhamou/Opéra national de Paris

 

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1月1日からコリフェのThomas Docquir(トマ・ドキール)。
左:photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris 右:photo Julien Benhamou/Opéra national de Paris

 

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1月1日からスジェのPaul Marque(ポール・マルク)。
左:photo Sébastien Mathé/ Opéra national de Paris 右:photo Julien Benhamou/Opéra national de Paris

大村真理子
Mariko Omura
madame FIGARO japon パリ支局長
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏する。フリーエディターとして活動し、2006年より現職。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。

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