映画『ザ・ダンサー』で、ロイ・フラーが気になったら。

PARIS DECO

日本では来年まで待たねばならないが、映画『The Dancer』のパリの封切りは9月28日だ。フランス語のタイトルは原題を直訳した『La Danseuse』。リリー=ローズ・デップがイサドラ・ダンカン役で出演していることでも話題だが、主役のロイ・フラーを演じるのはフランスの人気ミュージシャン、Soko(ソーコ)。彼女の女優としてのキャリアは、すでに10年以上となる。

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9月28日の封切りを前に、映画『La Danseuse』のポスターがパリ市内のあちこちに。

 

で、このロイ・フラー(1862〜1928)というのは誰かというと、モダン・ダンスの先駆者とされるダンサーである。1900年にパリで開催された世界万国博覧会で、ロイ・フラー劇場を設けてパフォーマンスを披露し、アメリカ人の彼女はパリからその名を世界に広めた。余談だが、日本から参加した川上音二郎一座の公演が開催され、Sada Yacco(貞奴)が踊ったのが、このロイ・フラー劇場なのだ。

ロイ・フラーを有名にすることになったのは、蛇のダンスとも電気ダンスとも呼ばれる独特なパフォーマンスである。指先まで包むたっぷりしたシルクの衣装の中で両手に長いバトンを持ち、それに絡ませるようにして布をはためかせながら巨大な蝶のように舞う。それだけでも新しいのだが、当時まだ珍しかった電気照明を彼女は演出に取り入れたのだ。アール・ヌーヴォーの芸術家たちはその幻想的な美しさに圧倒された。それでギマールやロートレックなどと交流があった彼女だが、キュリー夫妻とも親しくしていたという。それは照明効果を求めて衣装にラジウムを使うことを考えた彼女が、夫妻にコンタクトしたことに始まったとか。イサドラ・ダンカンが古代ギリシャのダンスにインスパイアされた身体表現を追求した舞踏家だったのに対し、 ロイ・フラーは電気という近代文明を活用した先駆的なアーティストだったのだ。彼女の人生についての詳しくは、映画を観てのお楽しみだ。

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39, rue Réaumur 75003 Parisの建物で、ベランダを下から支えているのがピエール・ロッシュ作のロイ・フラー。

 

1900年の万博でロイ・フラー劇場を手がけたのは、アンリ・ソヴァージュとピエール・ロッシュである。アンリ・ソヴァージュについては、ヴァヴァン通り26番地にメトロ・タイルの階段式タイルのアパルトマンを建築したことで以前に紹介した。ピエール・ロッシュは彫刻家で、ロイ・フラー劇場のアール・ヌーヴォー装飾を担当した。この万博が開催された年、パリ3区レオミュール39番地にアパルトマンが建築され、その建物のカリアティード(女人像柱)の仕事を任された彼は、“時の人”ロイ・フラーをその像のモデルにした。今ももちろん、この建物もカリアティードも健在である。近くに美術館やレストランなどがないので、この建物の前を偶然通りすぎることはないかもしれないが、映画を見てロイ・フラーが気になったら、ぜひ見学を。

ここに行ったついでにセバストポール大通りとレオミュール通りの角で建物を見上げてみるのがいいだろう。果物や壺などの装飾がほどこされ、カラフルな外壁にFELIX POTINと刻まれている。これは19世紀半ばから20世紀半ばにかけて存在した、高級食材とケータリングで成功を収めた会社で、店をここに構えていたのだ。建物が建築されたのは1910年で、ネオ・バロック・スタイルとされている。現在はスーパーのモノプリが入ってるのだが、昨年の春にこの建物の地下から、200以上の骸骨が発見されたというニュースが流れた。その昔、ここには病院の墓地があったとか……。

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現在は一階にスーパーマーケットのMonoprixが入っている建物。豊穣の代名詞である麦の装飾が施されている。

大村真理子
Mariko Omura
madame FIGARO japon パリ支局長
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏する。フリーエディターとして活動し、2006年より現職。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。

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