新世代ホテルYOOMAではロボットがチェックインを担当。
PARIS DECO
ショッピングセンターのBeaugrenell(ボーグルネル)ができたのは2013年。それが起爆材となったのか、界隈の開発が進み、それまで特にこれといった場所のなかった15区に新しい動きが生まれているようだ。
ホテルのYOOMA (ユーマ)もそのひとつ。近頃パリに新しくできるブティックやカフェは異種複数の役割を持っているが、ユーマも同様でまさにハイブリッドなホテルなのだ。セーヌ河岸に面した建物はブルーのストライプが目印。アートディレクションを担当したのはオラ・イトで、彼はダニエル・ビュランとコラボレーション。その結果のストライプである。ホテル館内でもビュラン・ストライプが廊下の一部に生かされている。
セーヌ河岸に面したYOOMA。ご覧のようにエッフェル塔からも遠くない。
photo:ALMAPHOTO
宿泊という本来のホテルとしてのユーマの大きな特徴は、2〜6名の滞在のためのホテルということ。そして料金はといえば、1泊90ユーロ(2人部屋)、120ユーロ(4人部屋)、190ユーロ(6人部屋)という、なんともうれしい手頃さである。仲間との滞在が楽しいロッジ・スタイルのベッドはカラフルでグラフィック。ちょっとモンドリアンの絵画のようだ。4名以上の部屋では、バスルームとトイレが別の場所という配慮も、デザインしたオラ・イトは忘れていない。ホテル内のWI-FIは強力で、ベッドひとつずつに2つUSB ポート、ソケット、読書灯が備えられ、整頓スペースも完備して、と今の時代のニーズに対応。1階にはレストラン、そし午前2時まで開いているラウンジ・バーも……。つまりairbnbのようにグループ滞在ができるだけでなく、airbnbでは不可能なホテルのサービスが得られるというのがユーマの強みなのだ。
6名用の室内。中央のベッドはセパレートしてツインにできる。
全5フロアの建物のうち2フロアが客室にあてられている。ホテルそのものが高台に建っていて、特にセーヌ河岸側の部屋は目の前が大きく開けていて快適だ。
photos:YOOMAPHOTO
全106室。カラフルな室内に、清潔な白いベッドリネンがうれしい。このYOOMAのロゴの2つのOの中の黒い点は? というと、ロボットの目なのだそうだ。
photos:Mariko OMURA
これまでに存在しなかったタイプのホテル滞在を提案をしたい、というオーナーのピエール・ベクリッシュの思いが、この“アーバン・ロッジ”ユーマにはぎっしり詰まっている。アート・コレクターでもある彼が、ギャラリーのように現代アートをホテルに飾るのはもちろんだが、それだけに留まらず。ホテル内にレジデント・アーティスト3名が作品を制作するための3つのアトリエを設けた。3〜6カ月交代で国籍さまざまなアーティストが滞在するそうだ。作品はロビーに展示されることになっている。
ロビーフロアでは、現代アートがギャラリーのようにさまざまな場所に展示されている。photo:YOOMAPHOTO
これに加え、レストランでも新しい試みがある。中に入るとぱっと目に入るのは、椅子がすべて異なること。最近のパリのレストランではよくあることだが、ここはそれより一歩進んでいて、食事客が座る130の椅子は、どれも名作ばかり。QRコードで、自分が座っている椅子のデザイナー名、エディター名、制作年度などの情報が即座に得られるという仕掛けもある。なお、ホテルのルーフトップには60区画、合計1,000平米の畑があって、トマト、インゲン、イチゴ、ハーブ類を栽培。収穫はレストランのキッチンへと!
さまざまな椅子の名作に座れるレストランは、椅子の“生ける”ミュージアム! photo:YOOMAPHOTO
レストランに新鮮な素材を提供することになるルーフトップの畑。今年は実験の年とか。photo:YOOMAPHOTO
パリの空の下、すくすく育つ野菜や果物。眺めの良いルーフトップながら、関係者オンリーだ。photos:Mariko OMURA
フィットネス・ルーム、サウナ……さらに、フロアごとにベビー用バスタブ、オムツ替えテーブル、哺乳瓶ウォーマーを備えた2つのナーサリー・スペースが設けられているという。これらはホテル客へのサービスだが、宿泊客でなくてもロビーフロアのレストラン、ラウンジ・バーは利用できるし、展示されているコンテンポラリー・アートの鑑賞も自由である。そうそう、ユーマでは本格的な料理教室のスペースがあり、レッスンは宿泊客以外でも受けられるそうだ。
泊まらなくても、覗きに行きたくなるユーマである。でも、チェックインしない人にはロボットが相手をしてくれない……これはちょっと残念!
チェックイン担当のロボット君。レセプションでこんにちは。photo:YOOMAPHOTO
madameFIGARO.jpコントリビューティングエディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は「とっておきパリ左岸ガイド」(玉村豊男氏と共著/中央公論社)、「パリ・オペラ座バレエ物語」(CCCメディアハウス)。