パリ街歩き、おいしい寄り道。

ラ・プール・オ・ポと、ヴァザルリ展。

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リニューアルオープンからずっと気になっていたレストラン「ラ・プール・オ・ポ」
むか〜し、おいしいオニオンスープを探し歩いていたときに、行ったことがあった。
“ラ・プール・オ・ポ”とは鶏のポトフのこと。
当時はオニオンスープも鶏出汁をベースに作られていて、それがラーメン鉢のような大きなボウルに入って提供された。
でも、それはあくまでも前菜で、「前菜だけを取って終わりというのは困る」と言われ、メインも注文したらあまりのボリュームに苦行のようになってしまった思い出の店だ。
久々の友人と食事をしようと約束をした日はパリマラソンの翌日で、「じゃあ本を出したお祝いもまだだし、完走祝いもあわせて行こうか」と、走る前から予約をしてくれた。
無事マラソンは完走し、当日。
メニューは大好きなクラシック料理の羅列で、オニオンスープを含むムニュもあったのだけれど、アラカルトで取ることにした。
オードブルの盛り合わせが、いまどきもう見ることのないシルバープレートに盛られて出てきて、興奮。
それで、アラカルトでオニオンスープと、季節のサラダを前菜に、メインは2人前で注文できるジゴ・ダニョー(乳飲み仔羊の腿肉)を頼むことにする。
オニオンスープは、食べきれると安心できるノーマルなポーションで登場した。そしてとても食べやすい、欠点のないおいしさだった。
メインには大好きな細めのフライドポテトと、ポテトのピュレにグリーンサラダが付いてきた。
私たちはさらに付け合わせのオプション、モリーユ茸のクリームソースも追加していたから、テーブルの上は大変なことになった。
ジゴ・ダニョーはテーブルの脇で切り分けてくれ、 皿をテーブルにサーブしてから焼き汁最後にかけてくれた。
オニオンスープと同じように、どれもが非の打ち所がないおいしさ。
食べきれない量も、かつてのブルジョワ料理とは食べきれるものではなかったのだよなぁということを思い出させた。
どこまでもうれしい演出と料理で、大満足のランチとなった。


前日のマラソンの後遺症が多少あったから、いつもよりもだいぶ歩くスピードは遅かったのだが、なにせ満腹だったので、ポンピドゥーセンターまで歩くことにした。
マラソンの翌日はいつもご褒美デーと思って、月曜でも自主的に休日にする。
始まった直後は長蛇の列ができていたヴァザルリ展に、この日行こうと決めていた。
もう列はできておらず、それでも来場者はたくさんいて会場内はそこそこ混雑していた。
初期の作品は、デザインもだけれど、特に色の取り合わせがすごく好きなトーンで、抽象的なものなのに、ずっと観ていても飽きなかった。
展示物の中には、ルノーのマークもあった。
オプアートの作品は、角度を変えながらいろいろな方向から観て楽しんだ。

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会場を出ると、珍しく、あの透明のチューブ状の通路の窓が開いていた。
どれだけ夕焼けが綺麗でも、窓の汚れが邪魔をして、写真はいつもくぐもったものになってしまう。
開いている箇所はいくつかあって、とても穏やかな空の様子を、場所を移動しながら数枚写真を撮った。
最後の写真の撮影時間が18時45分。
メトロに乗って帰ろうと、エチエンヌ・マルセルの駅まで歩いた。
その日の私の歩く速度だと、駅までは10分ほどかかっていたと思う。
駅へ降りるときに、セーヌのほうを、ものすごく太い、雲かと見まごう、でも雲にはあり得ない高さを、レモンイエローのような煙が、これまた驚くスピードで左から右に流れていた。
なんだろう?と思ってしばらく見続けていたけれど、誰も騒いでいないし、サイレンも聞こえなかった。
ということはたぶん危険なことじゃないんだな。
オテル・ド・ヴィルでイベントでもあったのかな? そう思いながらメトロ、4番線に乗った。
シャトレの駅に停車中「警察庁からの要請でシテ駅には止まりません。次の停車駅はサン・ミッシェルになります」とアナウンスが入った。
月曜なのにデモかな?
さっきの黄色い煙が頭をよぎる。
シテの駅を通過中、速報がiPhoneの画面に映し出された。
ノートルダムが火事。
直後にランチをともにした友人から動画が送られてきた。
友人はちょうど橋を車で渡っていたらしい。
その動画では、ノートルダムの後ろ手から勢いよく火が上がり、黄色い煙がコンコルド方面に流れていた。「大変だ。すごい燃えてる。ノートルダムかもしれない」
すぐに返事を送った。
「ノートルダムだよ。いまフランス・アンフォで速報出た」
少ししてから、火事は18時50分に起きたと知った。

21時45分。
通常、私の住むアパートの目と鼻の先にある教会の鐘が最後になるのは21時だ。
それが、勢いよく鳴りだした。
そこから4分間。
パリのカトリック大司教が、祈りを捧げるためにカトリック教会は鐘を鳴らすよう呼びかけたらしい。
あれほどまでに力強い鐘の音はこれまで聞いたことがなかった。

翌日、用事がありサン・ミッシェルのほうまで行った。
セーヌ沿いに出れば、ノートルダムが目に入る。
行こう、見に行こう、そう思っているのに、どうしても足が動かず立ちすくんでしまった。
そのときに、近所に住むらしい初老のマダムが、自転車ですれ違ったムッシュに声をかけた。
「あら。元気?」
「いや…… どうしても気分がふさいじゃって……」
そういった彼に、マダムは「どうして?」と聞いた。
「だって、ノートルダムが!!」
それを聞いてマダムは、手で跳ね除けるような仕草をしてから、
「そんなの、私は一晩中、本当に、一晩中、泣き続けたわよ。けっこうよく行ってたのよ、気が向くと。いまだって信じられないわよ」と怒ったように言った。
そのやりとりを耳にして、今日は帰ろう、と急ぐよう足を踏み出すと痛みを感じ、マラソンの筋肉痛が少しあったことを思い出した。

 結局、見に行かないまま、帰国した。
 パリに戻ったら、見に行こうと思う。

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川村明子

文筆家
1998年3月渡仏。ル・コルドン・ブルー・パリにて料理・製菓コースを修了。
朝の光とマルシェ、日々の街歩きに日曜のジョギングetc、日常生活の一場面を切り取り、食と暮らしをテーマに執筆活動を行う。近著は『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス刊)。


Instagram: @mlleakikonotepodcast「今日のおいしい」 、Twitter:@kawamurakikoも随時更新中。
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