栗山愛以の勝手にファッション談義。

実際のファッション業界を彷彿させる! Apple TV+ドラマ、『ラ・メゾン』の率直な感想。

「フランスの象徴的なオートクチュールメゾンが、ハイファッションの世界で劇的なドラマを秘密裏に繰り広げる。背後で支えていた権力者一族がスキャンダルに陥った時、彼らは自らを改革する方法を見つけられるのか。それともライバルたちに駆逐されるのか」。ファッション好きなら居ても立っても居られないあらすじのApple TV+のフランス制作ドラマ、『ラ・メゾン』の最終話が2024年11月15日に配信された。

あっという間に1ヶ月近くが経ってしまったが、シーズン2に続く気満々の終わり方だったので、まだまだ遅くない!個人的にちょっと引っかかる点もお知らせしつつ、今回は本作品について語ってみたい。

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どうやら具体的なモデルは明らかにしていないようだが、巷では「フランスの象徴的なオートクチュールメゾン(劇中ではレースをアイコンとする"ルデュ")」はシャネル、「ライバル("ロヴェル")」はLVMHとされている。いやしかし、いろんなブランドを展開しているらしいグループ、ロヴェル=巨大コングロマリット、LVMHは理解できるものの、ルデュは家族経営で、長男ヴァンサン(ランベール・ウィルソン)がデザイナーという設定。フランスではなくイタリアのブランドだけど、家族の中でデザイナーを務める者もいるフェンディとかじゃないのかな、と思ったりする。ちなみに、本作は巨大メディア帝国の経営者継承を巡って子供たちがバトルを繰り広げるHBOのドラマ『メディア王〜華麗なる一族〜』(原題『Succession』・2018〜23年)のフランス版、ファッション版とも言われている。

このように、実際のファッション業界を彷彿とさせるトピックがいろいろ出てくる。「ルデュのデザイナー、ヴァンサンが人種差別的な発言をした動画が拡散されてキャンセルされる」という「スキャンダル」は反ユダヤ主義的な発言をして2011年にディオールを解雇されたジョン・ガリアーノを思い出させるし(ドキュメンタリー映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』(2023年)によれば、加えてアジア人への差別的な発言もあったらしいが)、そのイメージ回復のためにデザイナーに起用される、環境問題や多様性の尊重を重視する若手、パロマ・カステル(Netflixのラブコメディ『ガールフレンズ・オブ・パリ』(2018〜22年)で主演したジタ・アンロが演じている)は同様の思想を持つマリーン・セルのように見える。パロマが発表した鳥のモチーフを連ねるデザインもマリーン セルのシグネチャーである三日月プリントっぽかったし。実際、海外誌のインタビュー記事によれば、衣装デザイナーのCarine Sarfatiはパロマのスタイリングに際して、マリーン・セルも着想源のひとつとしていたらしい。

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そして、誰にも同意を得られそうになく、どこにもそんな情報は見当たらないのだが、お家騒動の中、自身の名を冠したブランドの設立を目論むヴァンサンの甥、ロバンソン(アントワン・ライナルツ)にロエベのクリエイティブディレクター、ジョナサン・アンダーソンがちらついて仕方がなかった。よくしゃべるキャラクターだったのと、いつもポップな格好をしているのがジョナサンのクリエーションっぽかったのか......風貌はそんなに似ていないのだが。

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パリを舞台にしていて、ファッション業界が登場するため、Netflixのドラマ『エミリー、パリへ行く』(2020年〜)とも比較されがちな本作。しかし、こうして業界の出来事を参照しつつも、『エミリー〜』が本物のブランドを果敢に取り込むのとは異なり、架空のブランドを作り上げて中心に据えているだけになかなか難しい感じがした。どうやらスタイリストや職人、若手デザイナーらを集めてドラマのためにアトリエを設立し、劇中に出てくるブランドのコレクションを制作したらしいのだが、それがいかんせんぱっとしない。「すばらしい!」とか評価されていても、全然納得できないのだ。なぜかバルマンのアーティスティックディレクター、オリヴィエ・ルスタンがカメオ出演していたのだが、本物の登場はそれくらいで、実際にファッションウィークの取材をしている身からすると、ショー会場や招待客の描写なども「嘘くさいな〜」と思ってしまう。 

そんなこんなで、盛り過ぎでちょっと引いてしまう『エミリー〜』に比べるとリアリティはある気がするが、ファッション面で説得力に欠ける本作。おかげでのめり込んではいなかったものの、週1回アップされるペースが良かったのか、いつのまにか完走してしまった。かつてスーパーモデルという設定でヴァンサン・ルデュのミューズ、アミラ・カサール演じるペルルに対しても「ちょっときれい&グラマラス過ぎるんだよな〜」とかぶつくさ言いつつ、シーズン2も観てしまいそうです。

栗山愛以

ファッションをこよなく愛するモードなライター/エディター。辛口の愛あるコメントとイラストにファンが多数。多くの雑誌やWEBで活躍中。

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