
ヴィスコンティの傑作『山猫』とは別作品と思って観たいネトフリの『山猫』
モニカ・べルッチとヴァンサン・カッセルの娘、ディーヴァ・カッセルは、両親から受け継いだ美貌で、14歳の頃からモデル・デビューして、ドルチェ&ガッバーナの香水のキャンペーン・モデルとしても注目されていた。少し前から女優としても活躍していると聞いたが、今回ルキノ・ヴィスコンティの傑作といわれる「山猫」を、ネトフリの連ドラにした6話のシリーズで、アンジェリカという情熱的な貴族の娘を熱演して、はたちの新人女優とは思えないような、堂々とした演技をみせて、将来大物女優になり母親の後を追いそうな片鱗を見せている。
リメイク作品というのには、もともと少し抵抗がある。それも「山猫」は、ヴィスコンティの傑作といわれていて途方もなくハードルの高い作品だ。不可能、といってもいい。映画と連ドラなので、まったく同じジャンルではないにしても、そこにチャレンジするなんて、相当の野心家でなければできないはずだ。
それも1860年代の、イタリアの歴史の端境期に生きる没落貴族の悲哀を、英国人のトム・シャンクランドに描けるのだろうか。大好きな映画なだけに、ネトフリで観る前に実は結構迷っていた。
観始めても、ドン・ファブリツィオ・サリーナ公爵を演じる男優ロッシを、ヴィスコンティ作品で公爵を演じたバート・ランカスターと較べてしまうし、ディーヴァ・カッセルは、クラウディア・カルディナーレと並べてしまう。
ところがそのうち映像の中に引き込まれていくと、いつの間にか前作と比較することは忘れてしまっていた。「ダウントン・アビー」の時と同じように、貴族の高雅な暮らしに見惚れながら、原作者ジョゼッペ・ランペドゥーサの心理ドラマに夢中になり、ついには6話を観終わっていた。
サリーナ公爵の娘で、誇り高く、ピュアな心を持つコンチェッタは、革新派だが野望に燃える若い貴族タンクレディを愛している。それなのに彼は華やかな美貌のアンジェリカ(ディーヴァ・カッセル)と結婚してしまう。
ヴィスコンティの映画では、タンクレディはアラン・ドロンが演じていた。
実は4話あたりで、少しトーン・ダウンしてくるけど5話、6話がなかなか面白くなってきて、最後まで観終わることができた。タンクレディを取り巻く女たちの葛藤も細やかな描写だし、やがて廃れていくシシリアの貴族社会の中で、革新が必要にも思えるが、これまでの華麗な伝統を捨てきれない胸中を演じる公爵の魅力もなかなか素晴らしかった。
パリに住んでいた頃、ある夏ヴィスコンティの「山猫」が好きだった親友のマリア・コダマ・ボルヘスと私は、パレルモの郊外の海辺の別荘に滞在したことがある。
そこに文豪ボルヘスのイタリア語訳を出していた出版社の女性がやってきて、あのヴィスコンティの「山猫」の撮影の時、華麗な舞踏会の場面を撮影したシシリアの貴族の邸宅に、私たちを連れて行ってくれたことを思い出した。
「ダウントン・アビー」とはまた異なるし、むしろ「ゴッドファザー」の雰囲気に近いかもしれないけど、ともかく過去のヴィスコンティ作品の印象に囚われずに観ると、意外と愉しめる連ドラといえる。
大輪の花のように艶やかなディーヴァ・カッセルの、本格デビュー作というだけでなく、何よりも原作のドラマが素晴らしいことが、この現代版「山猫」の支柱になっていた。
【合わせて読みたい】
モニカ・ベルッチの愛娘ディーヴァ・カッセル、新たな「イタリアの宝石」に?
ARCHIVE
MONTHLY