「浮気は男の甲斐性」が許されない国、フランス。
日本には便利な言葉が2つあります。そう、「浮気は男の甲斐性」と「とりあえずビール」です。
そんなものは21世紀にはすっかり死に絶えて口にしようものならボッコボコにされると思ったら大間違いで、意外にそこらへんで堂々と主張する人に出会ったりします。
しかしもっと驚くことは、その「堂々と主張する人」というのが特に歌舞伎役者というわけでもなく、未婚のきれいな女性だったりすることです。
男性が主張するのなら話は簡単です。しかしむしろ女性のほうが口にしていることが多いというのは不思議じゃあないですか? 冒頭で私は「便利な言葉」と書きましたが、それが誰にとって便利なのかというと、もちろん男性にとってだからです。
たとえば目の下にクマを作り、肩を落としてつぶやくのならそれは「あきらめ」でしかありません。しかし大抵の場合、確信を持ち、誇らしげに口にする女性が多いのがこの「浮気は男の甲斐性」です。これはとても悲しいことです。なぜなら、彼女たちがこのように口にするのは、ものすごくザックリいってしまえばやはり「男性たちから褒められるため」に過ぎないからです。
現代では、――そうはいっても2017年ですから――歌舞伎役者でもない一般の男性が公共の場で「浮気は男の甲斐性だから」などと口にすると四肢を4台の馬車に繋げられ八つ裂きにされる確率が大変高いです。しかし過去には多くの男性が堂々と口にできる時代がありました。しつこく「歌舞伎役者」と偏見を繰り返していますが、「女遊びは芸の肥やし」は文字通り芸で生計を立てている人が好んで使う言葉であり、その発言は多くの人が耳にすることができます。さらに今を生きる20代・30代の一般男性だって、ちょっと突っ込んでみると「仕事のできる男なら当然」「本能だから仕方ない」というように本音では肯定している人もざらにいます。
仮にこれらを一種のプロパガンダとしてみるとどうでしょう。まあプロパガンダというか、男性たちが「こうあるといいな」という夢を常に口にしている状態です。今よりも立場が強かった男性たち、現代であってもじゃんじゃん女性が寄ってくるような強者であるほど発言は自由です。「浮気は男の甲斐性だから」「男性ホルモンが多く有能な男ほど浮気する」「そういう遊びをとやかく言わずに笑って見守るのが本当のいい女」などと欲望と理想をごちゃ混ぜにしつつ語られる「日本のいい女のあるべき姿」は、たとえば、昔の芸人妻の従順なエピソードを男性たちが「本当にできた奥さん」「賢い女性だね」「最後には妻のところに戻ってくるもんだよね」と褒めたたえることで、女性たちの心の弱い部分にしみわたっていきます。心の弱い部分とは、ひとつには経済的な自立に対する自信のなさ、あるいは自立しているが将来的には依存したいという希望。もうひとつは、男性に一途に愛され続けたいという夢です。特に後者のほうがずっと強力な夢ではないかという気がします。
男性たちが語っているのは単に欲望に過ぎません。「男の浮気ぐらい許すのがいい女。はいリピートアフターミー」、そしてリピートアフターミーして「私はいい女」と信じた女性が「浮気は男の甲斐性」と誇らしげに口にするのです。加えて積極的に男性の希望を叶えてほかの女性に抜きんでようとする気持ちもあるでしょう。
ブラック企業は、このようにして存続しています。
フランスでブラック企業は存在できません。ちょっと無茶な要求をすれば従業員は激怒しストが起こり業務が立ち行かなくなることはわかりきっています。というかたいして無茶な要求もしてないのにストが起こります。これについては迷惑なのでやめてほしい。
ともかく私はフランス人女性が「浮気は男の甲斐性」「ちょっといい男なら浮気くらい」「このくらい笑って流すのがいい女の証拠」「私にばれないようにしてくれれば浮気は許す」「プロ相手ならいいかな」などと口にしているのは聞いたことがありません。その代わり浮気がばれた巨体の彼氏を道端で突き飛ばして罵ったり、ヒールで道路を踏み鳴らしながら電話口で怒鳴り散らしているのなら目撃したことがあります。
フランス人女性だってさまざまなので、気の弱い人だっています。でも総じて自分に自信があります。自信のある人は無碍に扱われません。フランス人男性のほうも「浮気は男の甲斐性」なんて発言することはできません。ストが起こるからです。ストとは、みんなでそろって抗議しなければ成立しないものです。
私は自分のサイトや方々で似たような発言を繰り返していますが、1人でも頬を紅潮させ「浮気は男の甲斐性」発言をする人がいる限り主張するのをやめません。コントロールされ、自ら価値を落としてしまう女性の姿を見るのはとっても悲しいことだからです。そして「とりあえずビール」が廃止され初っ端から「ゆず茶(HOT)」を注文できるような自由な世の中になってほしいものですね。
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