パリ、恋のエトセトラ

マクロン新大統領に見る、年齢にとらわれない愛の本質。

5月7日に行われた決選投票で、第25代フランス共和国大統領はエマニュエル・マクロンが就任することになりました。マリ―ヌ・ル・ペンだったら私、道端で石つぶてを投げつけられることになっていたかもしれません。とりあえずひと安心です。

さて、このマクロンには24歳年上の配偶者がいます。ブリジット・マクロン、高校の教師であった彼女が15歳のエマニュエル少年と出会ったときにはすでに39歳、既婚で、3人の子どもがいました。結婚したのはマクロンが29歳のときですからそのとき彼女は53歳だったことになります。マクロンについてこの大恋愛はよく知られたエピソードで、当然最初のころは人目を忍ぶ恋だったそうです。14年間の恋がどのように進んで結婚に至ったのか、私たちにはもちろん本当のところを知る由もありませんが、15歳で愛を見つけ、39歳に至る今まで一貫しているマクロンの姿勢については、彼を見ていると何となく理解できるような気がします。何というか、自分の信じるものを一切疑わない感じ。ピュアでもあり、時にはやっかいでもある性質かもしれません。

このフランス大統領選挙について、数カ月前に放送された日本のあるテレビ番組がフランスでちょっと話題になりました。フランス大統領候補を紹介する際に、マクロンの24歳年上妻に触れたところ、出演していた女性タレントが「えっお母さんじゃないの!?」と何度も驚いた部分が取り上げられ、メディアやSNSでは「愛のかたちはさまざまなのに、この日本人女性は型にはまった男女の関係しかないと思ってる」「もし男女が逆だったらこんな風にリアクションしないのに、もううんざり」と反応する人が多く見られました。また一方で、「これはもちろん脚本があるに決まっている。この日本人女性はこういう役割を演じるように細かく指導されていて、それはつまりこの番組が『女性の方が24歳年上のカップルはノーマルじゃない』というメッセージを社会に植え付けたいということ」と推測する人も。

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日本では、フランスに比べると「女性が若さを失うことは致命的」という風潮がより強く、「女性が若さを失うことは致命的だと思い女性が悩まなければいけない」環境があるといえるかもしれません。
その反動なのか、何かのイメージが根強く定着しているからなのか、「フランスでは年を取った女性の方がモテる」という風のうわさが日本に届いている気もしますが、これは正確ではありません。フランス人男性も若い女性は好きだし、すごく年下の女性を狙おうと構えてるおっさんもいます。何より「フレンチ・ロリータ」なる概念がある国なのです。ヴァネッサ・パラディもジェーン・バーキンも、未熟で童顔でコケティッシュ、浮世離れした少女のような魅力がウリだったのです(まあジェーン・バーキンはイギリス人ですが)。
フランスでは若い女性が好かれないということはもちろんありません。ただ、恋愛対象となる女性の年齢幅を広く取る傾向があるのは事実。デート相手の年齢は「10歳下から10歳上くらいまでで探してるんだけど」という人が多いです。

私はフランスで女性がすごく年上のカップルというとすぐに作家のマルグリット・デュラスのことを考えます。デュラスの最後の恋人ヤン・アンドレアは38歳年下で、当然というべきか、デュラスの文章を愛していたファンのひとりでした。フランス人の文学者にデュラスの話をすると結構な割合で顔をしかめられるような(気をつけなければいけない)、人柄も作品もクセの強い作家で、そのぶん熱烈な崇拝者も存在します。彼女の最大のヒット作『愛人 ラマン』の冒頭では、年老いて「破壊された顔」をした主人公に、男が近寄ってきてこういいます。「みんな若いころのあなたは美しかったといいますが、私はいまのあなたの方がずっと美しいと思っていることを伝えたかったのです。若いころの顔より、いまの、嵐の過ぎ去った顔の方が」

男性が女性に、肉体的な新鮮さ、美しさを求めるのは間違いありません。でも愛というのはもちろんそれだけではないわけです。一部の男性はとくに、女性に霊感のようなものを求めることがあります。
マクロン夫妻をみて笑う人はあまり恋愛というものを信じないタイプの人なのかもしれません。15歳のエマニュエル少年はブリジットから、彼女自身にさえわからないような何か特別なものを受け取ったのだと思います。しかもそれは15歳でしか受け取ることができないものなのでしょう。私はあんまりロマンチックな人間ではありませんがそういうのはよく分かる気がします。そしてたぶん15歳の肉体が自分にそぐわないと感じていたし、39歳の彼女と自分とが一緒になることはとても自然だと考えていたのではないでしょうか。

「愛がなくなったら別れる」ときっぱりした人の多いフランス、恋愛を強く信じていて、だからこそ日本ではびっくりしてしまうような関係がたくさん生まれるのかもしれません。

シロ

パリの片隅で美容ごとに没頭し、いろんな記事やコラムを書いたり書かなかったりしています。のめりこみやすい性格を生かし、どこに住んでもできる美容方法を探りつつ備忘録として「ミラクル美女とフランスの夜ワンダー」というブログを立ち上げました。

パリと日本を行き来する生活が続いていますが、インドアを極めているため玄関から玄関へ旅する人生です。

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